第179話 悪寒!

「大丈夫ですか?」

「んー。いけるー」


オベロンの王宮。クタクタのヘレナをベッドに寝かせる。


「すっごく街の人に見られたんですけど……大丈夫なんですかね?」

「いつものことやしいけるよー」

「いつもなんですかこれ……」



「それよりもさ」


ベッドでだらけているヘレナがヘキオンに話しかけた。


「さっきの戦い見てどうやった?」

「どう……ですか」

「うん」


さっきのことを思い出す。……ほとんど見れてなかったな。しかし凄まじい戦いだったというのは分かる。


その戦いがいつものこと。ヘキオンが入れば数秒で瀕死になりそうな戦いがいつものこと。ヘキオンの自信がかなり揺らいでいた。



「……私はまだまだだなぁって」

「ふぅん」

「調子に乗ってたのかもしれません。カエデさんが居なければ私なんてとっくの昔に死んでるのに……友達の女の子ですらマトモに救えないのに……」


ヘキオンの話を優しい顔で静かに聞く。


「みんなの前で醜態晒すし……最低だなぁ」






「……そうかもね」


否定はしない。しかし完全に肯定もしなかった。


「カエデくんがおらな死んでるんやろな〜っちゅうのんは分かるで」

「で、ですよね」

「ヘキオンちゃん前から性格は変わらなそうやし。色んな人に喧嘩売ってそうやしね〜。危機感もなさそう」

「……あ、あの」

「褒められたらすぐいちびりそうやし。見た目もねぶられそうやし。負けず嫌いっぽいさかい面倒くさそう。あとすぐ無理もするやろ」

「ちょっと言い過ぎじゃないですか!?」


涙目。心底では褒められたかったので、ここまで言われるとやっぱり悲しい。


「ちょい一緒におっただけの私分かるうらいにはヘキオンちゃんあかんしね。まぁそないなとこも可愛いとうちは思うでー」

「うぅぇ……褒められてるんですかそれ?」

「褒めとるで褒めとるで!」


手を叩きながら笑う。「ハハハ」と大きな笑い。さっきまで戦ってた人とは思えない。


しょんぼりとしているヘキオン。ヘレナはひととおり笑った後、ヘキオンを見て優しく微笑んだ。



「――ヘキオンちゃん。『運も実力のうち』って言葉知ってる?」

「え……はい」

「『カエデさんが居なければとっくの昔に死んでる』って言ってたよな。そんなん当たり前。あないなイレギュラーなやつに会えたのはヘキオンちゃんの運良かったさかいやん」


親が子供に絵本を読むように。ヘキオンに優しく語りかける。


「敵と戦う時は周りの物もなんでも使うやん。それと一緒。使えるのならも使うねん。そやさかいカエデくんが助けてくれるのもヘキオンちゃんの実力やで」

「そ、そんなこと……」

「カエデくんがヘキオンちゃんを助けてくれるのはなんでやと思う?」

「なんでって……仲間だからかな」

「『好き』やからや」

「……好き?」


首をかしげる。


「カエデくんはヘキオンちゃんのことが好きなんやで」

「好き……好き……」

「好きになったのは誰のおかげや思う?」

「わ……わ……私」

「そうやろ。だからそれはヘキオンちゃんの実力でもあるんやで」




バッと立ち上がる。崩れかかっていた自信は持ち直す。自尊心は音を立てて治っていく。


「カエデにお礼……それと『私も好き』って言わないと!」

「――そやそや!うちのことはいいから、はよ行き!」

「ありがとうございました!」


満足そうな顔だ。そして優しい顔だ。元気になったヘキオンを見ている。


ヘキオンはペコリと一例。そしてダッシュで外へと走っていった。






「ふふ……」


もう一度ベットに体を預ける。少しの緊張からも解放されたからだろうか。とにかく安心しきっている。


「この借りをいつ返してもらおかな。鈍感な女の子の背中を押したったんやさかい、しっかり返して貰わなねー。バクストンから聞いといて良かったぁ……あの感じやと一生気付かなそうやったし」


カエデがヘキオンのことが好きなのをバクストンから聞いていたようだ。……結構口が軽いな。


だがこれでヘキオンも気持ちに気がついた。これからどうなるのか。ヘキオンの反応から見て前向きに考えてもいいはずだ。


「楽しみやなぁ……結果を楽しみに待ってよう」











「――なぁそう思うやろ?」












続く

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