第178話 襲撃の兆候!
「――こんにちは」
――――。
アネージュの目の前。さっきまで兵士が座っていた場所に。――立っていた。人が。
真っ黒。吸い込まれるほどに黒いローブを身にまとっている。フードによって目元は見えない。顔の下半分が見える。それぐらいしか露出してる部分がない。
体格は小柄。肩幅から見て女性。声質と合わせると確定で女性だ。
存在感がなかった。アネージュも言葉を聞いてから初めて気がついたほどだ。それに合わせて周りの兵士も女の存在に気がつく。
「な、なんだお前!?」
すぐさま武器を抜き、女に向ける。ボケっとしていた兵士も臨戦態勢に。数は圧倒的。味方もいる気配がない。
つまりは女一人。なら多勢に無勢。しかし女は不気味にニヤついているだけだ。アネージュは眉ひとつ動かさずに女を見ている。
「あら、随分と荒っぽいわね」
普通に。平然と。まるでお茶会をしている貴族のように。穏やかに。静かに。
「あなたがアネージュさん?思ってたよりも可愛いわね」
反応無し。少しむくれて、「よっこいせ」と呟きアネージュの前に座る。
「……ここはいいところね。涼しくて気持ちがいい。ウザったい魔物もいないし」
「……」
睨みつける。鋭い眼光。何をしてくるのか分からないので、威圧は正解。周りの兵士を失っても困る。無駄な死は避けなければ。
「そんな怖い目をしないでちょうだい。別に戦いに来たわけじゃないわ。今回は、ね」
「要件は?」
「戦争をしましょう」
意味がわからない。周りの兵士はそういった顔だ。頭がおかしいのか。むしろそれなら助かる。
「どういう意味だ?」
「そのまんまの意味よ。私たちの雇い主が戦争を仕掛けようとしててね。オベロンとバグリジェが戦争しようとしてるのを横槍するのが目的だったんだけど」
「雇い主?そいつは誰だ?」
「それは言えなーい。まぁとりあえず話を聞いて」
剣を握る。
「ただね、ちょーっと話が変わってきて。オベロンとバグリジェが手を組んじゃったの」
「……手を組んだ?交渉決裂したんじゃなかったのか?」
「あの地震が起きるくらいの喧嘩のこと?あれしょっちゅうらしいわよ」
「なにそれ……」
まぁ傍から見れば交渉決裂で戦ったように見えるわな。あのレベルの喧嘩をしょっちゅうやってるとは夢にも思わないだろう。
「それで雇い主の人がカンカン……ってなると思ったんだけどね。なんか『あのジジイ……楽しませてくれるじゃねぇか!』なんか言ってたのよ」
「それで……?」
「どうせなら王都とオベロンとバグリジェの3つに手を組ませて、全面戦争をやらせようぜ!って話になったのよ」
「狂ってる雇い主に捕まったな」
「まさかこんなことになるなんてね……報酬はもっと貰わなくちゃ」
立ち上がる。兵士たちの警戒心もMAX。一挙一動に警戒を強めていた。
「そんなわけで明日にでも戦争仕掛けるから。オベロンとバグリジェにも私の仲間が向かってると思うから話は早く済むと思うよ。さっさと話し合っててね」
プラプラと手を振る。煽っているのか。挑発しているのか。しかしこれでもアネージュは感情の起伏を見せない。
「――ひとつ聞かせろ」
アネージュの目線。下から見上げるように女を見ていた。だからなのだろうか。暗闇に包まれた女の目元が少し見えた。
「――お前は何者だ」
女の目元。そして口は、ほんの少し笑っているようだった。
「私が何者か――私たちが何者か、でしょう?」
女の下半身が砂に包まれる。肉体はどんどんと流動的に。細やかに。キメ細やかに。粒となって消えていく。
それは砂。風に乗ってサラサラと飛んでいく。飛翔する粒。徐々に体は消えていった。
「『ファンネル』。
「
砂は顔にまで到達していた。体はもう全てが砂となっている。
「話はこれで終わり。また明日会いましょう」
女は砂となって消えた。跡形もなく。初めから居なかったかの如く。
続く
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