第177話 悩みの種!

――時間は過ぎ。



「……終わったか」

「今回は長かったな。魔力切れてる」

「危のうねそれ。間一髪とちがうか」


目の前のシールダーも解除された。兵士たちは辛そうに肩を回している。まるでデスクワークに疲れた社会人のようだ。


ヘキオンは考え事。自分の無力さ、目標にしていたカエデの強さ、そして世界の壁の高さを思い知っていた。



バクストンはそんなヘキオンを心配そうに見つめている。


「……いけるかヘキオン」

「……うん」


2人の戦いによって壊れた大地を眺めながら、ヘキオンは力なく答えるのであった。




「こら……うちの……勝ちね」

「ふざけんな……最後に……攻撃当てたの……は……俺やで」


見るも無惨に荒れ果てた土地に横たわる2人。どちらもボロボロ。全てを出し切った、という感じだ。


「これで……うちの……1000勝目やな」

「ふざけんな……俺の……1000勝目や……」

「アホ……抜かすなや」


相打ちのように見えるが、2人からしたら違うらしい。どっちも負けず嫌いだ。


そんな2人に兵士たちが近づく。


「元気どすかお2人とも」

「元気なわけ……あるか」

「はよう王宮……連れてって……」

「はいはい……バクストンはダン様を頼む。ヘキオンちゃんはヘレナ様を王宮に連れてってくれへんか?」

「は……はい」


倒れているヘレナをヘキオンに渡す。フラフラのヘレナを何とか支えつつ、立ち上がった。


「残りは土地の修復だ。ちゃんと戻さないと生き物が困るぞー」

「「「はい!」」」






――少し離れた森にて。



そこには野営している王国騎士団の姿があった。テントを貼り、動物や魔物を退けるための柵で周りを囲っている。


真ん中には焚き火。暖まるためでもあるが、食事をする時にも使うのだろう。銀色のキャンプで使うような炊飯器や鍋が吊るされていた。



「……どうだった?」


アネージュの前に一人の兵士が座る。かなりの軽装鎧。偵察兵と見るのが妥当だ。


「さっきまでの地震はオベロンの女王ヘレナとバグリジェの王ダンによる交戦の影響からでした」

「交戦か……王都に対抗するためにバグリジェと手を組もうとしたが失敗……といったところか」

「そうと見て間違いないかと」

「なら安心だ。今の状態で手を組まれたら最悪だった。ただでさえ今の状態でオベロンと戦っても負ける可能性がある。運がこちらに向いてきているな」


コップに入った水を飲み干す。


「手を組もうとしたということは、王都と戦争する決心をしたと見てもいいだろう……こちらも戦闘態勢を整えるぞ」

「なら、本国から増援を呼びますか?」

「時間の無駄だ。今いる兵士で戦う」

「しかしオベロンに数で負けてます。それにあちらには地の利が……」

「『炎』を使う。外壁や家が植物出てきているからよく燃えるだろう。戦火に晒されてる状態なら私たちの方が慣れてる」

「分かりました。今すぐ松明を用意させてします」

「頼んだ」



戦うまでの期間は残り2日。隊長となっての初陣。アネージュは緊張と武者震いに体を委ねていた。


しかし一つ危惧しているものがある。それがの存在だ。


雰囲気だけでわかった強さ。恐ろしさ。真っ向勝負なら今いる者たちなど片手でなぎ倒されるだろう。


カエデさえ居なければ勝てるチャンスはある。勝てる可能性はある。だから今は祈るだけ。


(せっかくの初陣なんだ。任されたのが負け戦だが……むしろチャンス。勝てばもっと昇級できるはず)


ぎゅっと拳を握りしめる。戦わなくては。ここで作戦を成功させ、王都へと帰還する。アネージュはそう決心した。












続く

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