第32話 電撃巡る森の中で!

麒麟の上に青色のエネルギー球体が現れる。球体は雷の怒号を纏い、辺りを青く照らしていた。



麒麟の首の動きと共に球体がヘキオンに向かって発射された。ゆっくり。ゆっくりと打ち出された。


「っっ――!?」


ヘキオンは地面にちゃんと足をつけていた。そのはずだ。ちゃんとつけていた。


しかし突然ヘキオンの体は空中に浮いた。麒麟から打ち出されたエネルギー球体に体が向かっていく。表情から見るにヘキオンが意識的におこなっているわけでもなさそうだ。


「こ、これって」


両手から水を高圧噴射する。水圧によってある程度空中での操作が可能となった。


エネルギー球体にぶつかる直前に水を発射して球体を回避する。そのまま球体から水圧を放って離れた。



「――電磁球か!」


引き寄せられる体を水圧を使って耐える。見た目からして当たればタダではすまなかっただろう。



ヘキオンの読み通り、麒麟が放ったのは電磁球。それも特別凄まじいやつだ。


強力な電磁力を持った球体。磁力をほんの少しでも持つ限りはその球体に強制的に吸い寄せられることになる。


電磁球自体は強力な電力の塊なので当たるのはもちろん、近づくのでさえも危ない。



「……っっ?」


左脚がピクリと動いた。ヘキオンがわざとやった訳でもない。


「体の動きも……少し制限されるのか……」


体のあらゆる所をピクピクさせている。電磁力に近づいた時に電気が神経に侵入したのだろう。


近づくだけでこうなる。ならば直撃すれば……考えるだけでゾッとするだろう。



ヘキオンの目の前がピカッと光った。さっき見た雷の剣だ。


「くっ――」


水圧を使って剣の攻撃範囲から脱出する。



ヘキオンの真横に雷の剣がたたきつけられた。風圧によって体勢が崩れる。


「わわっ!」


雷の剣を生み出したとしても、電磁球が無くなることは無かった。そのためまだ体は電磁球へと引き寄せられる。


体をぐるぐると回転させながら電磁球へと転がるヘキオン。


「うぁ――!」


何とか水を噴出して空中に体を逃がす。電磁球に近づいた影響で体が勝手に動いてしまう。


体勢を整えようとするが、目が回っている上に体が勝手に動いてしまっている。なおかつヘキオンのいる場所は空中。これではまともに動けない。


ふらつく視界と鈍る体。すぐに攻撃に移ろうとするがまともに動くことができない。



麒麟の周りに石の欠片のような雷の塊が漂い始めた。それはナイフのように鋭く、針のように細い。


視界が戻ってないヘキオン。体勢もまだ整っていない。このような状態では相手の攻撃を避けることなど無理だ。



打ち出される6つの雷刃。全ての刃がヘキオンを切り刻もうと、クネクネとした軌道で突撃してくる。


「――っっ!ウォータースプラッシュ水放出


刃が打ち出されたことに気がついたヘキオンは、体を捩り手に纏わせた水を撒いた。


撒かれた水は向かってきた雷刃を撃ち落としていく。


しかしそれでも全て防ぐのは不可能。むしろすぐに次の行動へ移ったことを褒めるべきだろう。



雷刃がヘキオンの右肩と左太ももを掠る。深くはないがヘキオンの体勢を更に崩すのには十分であった。


バランスが崩れ肩から地面に落下する。


「いっつ!」


グラりと頭が揺れるのを我慢しながら立ち上がった。頭をブンブン振って思考を統一する。


鈍る視界を前に整えた。



麒麟は既に次の行動へ移っている。地面をパンパンと擦り、ヘキオンを前に見据えて頭を低くしていた。


それはまるで




ヘキオンに向かって突進してきた。地面の土が衝撃で弾け飛ぶ。地面の草は麒麟が通り過ぎたことを時間差で知った。


簡単に言い表すなら電光石火。ヘキオンが反応するよりも速く。瞬きするよりも速く。水滴の落ちた湖に波紋ができるよりも圧倒的に速く。


意識を刈り取られる。体と脳を強制的に分離刺せられたのかと思わせるほどの威力。車に轢かれたなんてレベルでは無い。最高速度の新幹線にぶち当たったかのようだ。


「――」


意識も完全に戻ってないような状態でこの攻撃。小さな体には到底詰め込めるはずはない量のダメージ。それをまともに喰らった。





ヘキオンが居た場所から約100mほどの地点。


麒麟が減速して停止する。それに合わせるかのように轢き飛ばされたヘキオンも木にぶつかって停止した。


「――っ」

『ふん……小癪な』


ヘキオンのぶつかった木。その木は不自然に



麒麟の電光石火を喰らう直前。ヘキオンは自分の胸から腹にかけて水をなんとか生成した。これにより攻撃の威力はある程度緩和され、ヘキオンでも耐えうることが出来たのである。


しかしそれだけでは駄目。停止したあとのクッションも必要。ヘキオンは同じようなものを背中に生成し、ダメージと衝撃を減らしたのだった。



立ち上がるヘキオン。傷は多少着いているが、まだまだ許容範囲内。突進を受けたおかげで意識もハッキリとなった。


「――ふぅぅぅ」


大きく息を吐く。拳を握りしめ、水を纏わせ直す。


「――来い!!」


ヘキオンは大きく構えた。












続く

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