第33話 恐怖する森!

「な、なんなんだ!?この雷は!?」


ウッドエルフの村。麒麟が放ったゴット・オブ・ライジング・サン神の裁きにエルフたちは恐怖していた。


上から降ってくる無数の雷。すぐ近くの木々を燃やし、薙ぎ倒していく。次はいつ来るか。どこに来るか。



「――ママ!」

「大丈夫だからね……大丈夫だからね……」


子供を抱いて守る親。


「村長は今どこに!?」

「知らねぇよ俺に聞くな!!」


パニックになる大人たち。


「あぁ……裁きじゃ……神々の裁きじゃ……」


祈るしかない老人。



統率などとれようはずはない。誰もが我先にと助かろうとしている。


「一旦落ち着け!!……こ、これは一時的なもののはずだ!!」


冷静に叫ぶ者もいる。しかし誰も聞く耳など持たない。パニックになってるのだから当たり前だ。


「いやぁぁぁぁ……死にたくない……」

「黙れクソアマ!!だったらとっととどこかへ消えちまえ!!」


喧嘩する者もいる。もはや誰にも止められない。負の感情が混じった悲鳴が村全体を覆い隠していた。




村の隣に落ちる落雷。炭化して燃える木々が村人たちの家に着火される。


「やばいぞ!!火事になる!!」


誰も聞いていない。自分が大事。自分が1番。それを思いすぎて周りが見えていない。



瞬く間に火は燃え上がる。隣の家へ、その隣の家へ、そのまた更に隣の家へ。一気に村は炎に包まれた。初動を行動しなかった者たちの顔に絶望が宿る。


「もう……おしまいだ……」

「ははは……死ね。もう全部死んじまえ……」


泣き崩れる者。空を仰ぐ者。未だに状況を理解してない者。


火は村を囲み、逃げ場などどこにも無くなった。逃げるチャンスはいくらでもあった。逃げた者もいた。


しかし村の8割のエルフはその場に留まるという選択をとった。パニックになってる以上、そのエルフ達をバカとは言えない。愚か者というのは間違いではないが。



水魔法……というより、魔法がほとんど使えないウッドエルフたちはなにも出来ない。ただ火に怯えてガタガタと震えるだけ。野生動物と何ら変わりない。


「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない……」

「神様……なぜ……なぜ私たちを……」

「ダークエルフの仕業だ!!あのクソッタレな灰被り共が仕組んだことだったんだ!!」


声を出しても無駄。なのに言葉を発する。消えてゆく酸素の消費を更に強めるだけだ。




ブチ。


天高くなる雷。エルフたちの頭に走馬灯が走る。雷が自分たちのいるところに直撃するとなんとなくわかったのだ。


静寂。一瞬の静寂。誰も言葉を発さない。音も出さない。死を理解した時、人は呼吸もできなくなる。


天から放たれる1つの雷撃。それはエルフたちなど軽く殺すことのできる一筋の光。名前の通り「神の裁き」だ。


人々の顔から絶望が消えた。諦め。諦めの境地。なにも出来ない自分を恥じるわけでもなく、こんなことになった他人への怒りでもない。


ただ何も無く。

ただ諦める。


すぐ近くにある死をただ受け入れる。












「――グラウンドーム地の球!!」


鳴り響く男の声。同時に村全体を茶色の土が覆い隠した。



一瞬の出来事。エルフたちは状況を理解できていない。視界が真っ暗になった。上では鐘を鳴らしてようなどデカい音が鳴っている。



消える土。その土によって消化される火。エルフたちは何がなにやら分からない様子だ。



「――無事か!?」


上から落ちてきたのはザッシュ。ドームを貼ったのもザッシュだ。



唖然とした表情でザッシュを見つめるウッドエルフたち。何も言葉を発することができていない。


「……なぜ……ダークエルフが……」


ようやく言葉を放つ。


「……お前らが死ぬとクエッテが悲しむ。だから死なれると困るんだ」

「クエッテ……?」


フラフラと出てくるエルフが1人。クエッテの許夫だ。初めにカエデに突っかかってきた男。


「お前はクエッテのなんなんだ?」

「……夫だ」

「夫?」


少し笑いながら話す。バカにしているようだ。


「そうだ。夫だ」

「バカ言うな。夫は俺だ。ダークエルフがなぜウッドエルフの夫になれるんだ?」


険悪な空気が漂う。



「ま、まぁ落ち着け……ダークエルフとはいえ、俺たちを助けてくれたのは事実だ」


そんなふたりを落ち着けるエルフたち。



「……とりあえずまとまっているのはまずい。何人かグループになって分かれるぞ。できる限り女や子供は強い男と一緒にいろ」

「それはいいが……なぜだ。ただの強い雷では無いのか?」

「今まででこんな雷が降ったことはあるか?いつ異常なことが起きるのか分からない。念には念をだ」


少し不服そうにするエルフたち。しかしザッシュが言っているのは事実。エルフたちもそれを理解している。そのためザッシュの言う通り、みんなでグループを始めた。





「お、おい。そっちは男が多いだろ。こっちにも来い」

「何言ってんの。こっちには子供がたくさん居るのよ!」

「なら子供も分散させればいいだろ!」


口々に言い合うエルフたち。こんな時になってもまとまりが悪い。グループで取り合いをしている。



「早くしろ!!次に雷が来たら俺も護れるか分からんのだぞ!!」


痺れを切らしたザッシュが怒鳴った。喧嘩し合ってたエルフたちが一気に静まり返る。



「……ダークエルフのくせに……」

「なんで偉そうにしてんだ……」


ボソボソと悪口が聞こえてくる。


「今は悪口を聞かなかったことにしてやる。だからさっさと決めろ!!」


ザッシュは悪口にも気をとめず、大声で叫んだのだった。












続く

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