第18話 相性?関係ない!

ヘキオンは冷静だった。


女のレベルは34。少しではあるが、ヘキオンよりも高い。ヘキオンもなんとなくそのことは理解していた。


ヘキオンは冷静であった。自分は相手に勝てる。その自信が嘘ではないことはすぐにわかった。




女の矢がバチバチと光った。雷の線が空気を舞う。矢じりの先は黄色の光で輝いていた。


対するヘキオンはそのまま。前傾姿勢の攻撃的な構え。相手の攻撃を避ける気はないのか。



「雷属性か。相性が悪いが、どうする……」


ヘキオンの後方に移動したカエデが呟いた。










電撃を纏った矢が撃ち出された。


それと同時。同瞬。刹那。まったく同じタイミングでヘキオンも行動した。



ヘキオンが狙っていたのはここ。弓は撃った後に装填するのに時間がかかる。その間に接近すればあとは殴り放題蹴り放題。ヘキオンにとっては美味しい展開しかない。



雷撃を纏った矢がヘキオンに近づく。ヘキオンはただまっすぐ突き進んでいる。


女はまるで当たるのが当たり前かのように近づくヘキオンを見ていた。油断。この時こそ隙と言わずして何と言う。


矢はヘキオンの眼前1cmにも満たない距離にきた。まだ動かない。ほんの少し。ほんの少し時間が進めば当たってしまう。




ヘキオンがようやく動いた。顔を横にずらして矢を避ける。一瞬。ほんの一瞬。残像すら見えないほどの速度で顔をずらした。


電撃が顔を横切る。矢は頬を少し切り裂いて奥へ奥へと飛んでいった。



「なっっ──」


女は驚く暇すらなかった。遠距離ならともかく、ここまで近い距離で自分の矢を避けれる者などいなかったからだ。



避けられたとなっては不味い。次の矢を装填するのにも時間がかかる。接近されれば負けるのは女の方だ。


ヘキオンの拳に水が集まり出した。集まった水はどんどんと拳の中へ圧縮されていく。


アクア――」


さっきの攻撃。1発喰らうだけでも大ダメージになったあの攻撃。喰らうとやばいのは芋虫でも分かる。



もちろん女もタダでは済まさない。接近戦が弱いのは自分でも分かっていた。ならばするのも普通だ。


エレキニックブラスト巡る雷!」


女の体に雷が走る。髪、肌、爪。中に入って、筋肉、骨、神経、血管。全ての部位に稲妻が線をつける。


目の瞳に黄色の光。熱を帯びる体表面。攻撃魔法ではなくあきらかに強化魔法。ヘキオンもそれに気がついていた。



しかし止める気はない。相手がどんな攻撃をしようともヘキオンには関係ない。


「――スマッシュ!!」


拳を女の顔面に叩きつけた――。







雷鳴を出しながらヘキオンの前から姿を消した。空振りしたアクアスマッシュが後ろの木々を壊し進む。


「えっ――」


女は後ろにいた。全身から雷を漏れだしながら、右拳を振り上げている。


「さっきのお返しよ」



女の拳がヘキオンの頬を貫いた。真っ赤な血が弾け飛ぶ。


しかしヘキオンは怯まない。直ぐに体勢を立て直し、攻撃しようと拳を引っ込めた。


「ッッッ!――アクアスマッシュ水破!!」


圧縮されて水を解放すると同時にヘキオンは拳を女の方向に突き出した。



女はこれも避けた。5mほどの高さまで軽くバックジャンプをする。放たれた水は先の木を消し飛ばしていった。



空中で矢をつがえる。かなり速い。隙と言えるほどの隙でも無くなっていた。


矢は黄色い光を纏っている。まるで閃光。その閃光を身にまぶしている矢はヘキオンに向いていた。


レイジングブラスト雷纏う四重の矢



弓の先。さっきまで矢があったところから細い雷のビームが撃ち出された。


4つに分かれたビームがそれぞれの方向に並々と動き回る。統率の取れていない矢。それでも全てヘキオンの方向へ向かってきていた。



ヘキオンの前方。地面がふつふつと湧き始めた。


ウォーターウォール水壁!!」


地面から高水圧の水が大きく吹き出す。言い表すならまさに水の壁。水の壁がヘキオンの前方を覆い隠した。


雷の矢が水の壁に衝突する。4つの電撃を纏った矢は、音と雷を出して砕け散った。



飛び散る水滴。壊れる雷矢。ヘキオンはウォーターウォールを解除した――。


「――」


既にそこに女がいた。雷矢を右手に携え、振りかぶっている。


まるで電光の如き速さ。生物とは思えないほどの速度。そんなやつの攻撃を反射神経だけで避けれるはずはない。


抵抗もする暇もなく、女の矢はヘキオンの胸に向かって突き立てられた──。










「──えっ」


確かにヘキオンの胸に矢は突き立てられた。それは事実だ。カエデもそれを見ている。


「へぇ……すげぇな」



女の前に水滴が飛び散った。血ではなく、ただの液体。ただの水。ヘキオンだと思っていた者は幻想、幻だった。


蜃気楼のように揺れるヘキオン。そこにいたはずのヘキオンはその少し横にいた。


「──アクアマジック水の幻影





屈折率というのを一度は聞いたことがあるだろう。


水の入ったコップ越しに鉛筆を見ると、実際の場所とは違うというようなものだ。あとはお椀に入った水の中にコインを入れると大きく見えるみたいなやつもある。


光の入射角と屈折角がなんやかんやあって実際のものよりもズレたり、大きくなったりする。中学生の方なら記憶に新しいだろう。



ヘキオンがしたのはそれだ。


最初にウォーターウォールを貼った後、もう一枚ヘキオンの前に軽い壁を貼った。水圧はかけてないただの水の壁だ。


するとどうなるか。女から見れば本来の場所とは少しズレた所にヘキオンがいるのだ。


普通なら違和感がある。しかし事前に設置しておいたウォーターウォールによってヘキオンの姿は見られていない。ならば少し移動したとしても違和感はないのだ。



この技の良い点が二つある。一つは単純に相手の攻撃をすぐに避けられるということ。動かなくても相手は勝手に外してくれる。


そしてもう一つ。という点だ。横なのだ。遠くではない。


つまり反撃がすぐにできる。ヘキオンが狙っていたのはそこだ。








「──だりゃぁ!!」


水を纏った拳を女の顔面の中心に叩き込んだ。前傾で攻撃してきた女へのカウンター。ダメージは相当だろう。



女は鼻血を出しながら後ろの木に衝突したのだった。












続く

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