第19話 聞きたいことがある!

「――あぅぅ……」


膝から崩れ落ちた。疲労と緊張が解けたことによるものだろう。


「か、勝てたぁぁぁ……」


ドサッと音を立てて地面に倒れる。そんなヘキオンの視界にカエデがヌルッと入ってきた。


「お疲れさん。アクアマジックは面白かったな。あんなのどうやって考えたんだ?」

「……クレインと戦った後、さすがにただ殴り合うだけだったら私は弱いって分かったんです。そもそも私は魔法使いだから耐久力は弱いですし。だからどうにかしようって……」

「そんなんならわざわざ近接戦闘なんてしなかったらいいのに」


流れている鼻血を拭きながらムクっと立ち上がる。


「もともと私は格闘家になりたかったんです。それなのにお母さんが『魔法使いになれ!』ってうるさかったから……それなら魔法使い格闘家を目指してやろうって」

「はは!やっぱり面白いなヘキオンは」


ヘキオンに手を貸して立ち上がらせた。










「――」

「……」

「……」

「……で、どうするんですか」


2人の目の前には縛られた女がいる。傍から見ればただの犯罪でしかない。


「どうするって……どうする?」

「これ見つからったらえらいことになりません!?そもそも倒す必要ってあったのかな……」


アワアワと慌ただしく動くヘキオン。それに対してカエデは冷静にしていた。


「こいつは俺らを殺す気だったんだ。何されても仕方ないよ。こいつのせいで俺らの荷物燃えたし」

「そうだけど……」

「それにな――」


カエデがニヤリと微笑む。


「もしかしたらここは、とんでもないところかもしれないぞ」

「へ?」

「この女と話した時『ここに侵入してきた者は殺せって言われてる』と言ってたんだ。……これは怪しいとしか言えないよなぁ……」


カエデが悪い顔をする。ヘキオンは若干引きながらカエデを見ていた。







女が目を覚ます。暴れるのかと思ったが、意外に冷静にしていた。


「――何が目的だ」


女が言葉を発した。話し方も冷静だ。下手したらヘキオンの方が焦っている。


「あ、あのっ「取り引きをしよう」


話をしようとするヘキオンを遮ってカエデが前に出た。


「お前の村に案内しろ。それと隠してることを話せ。そしたら自由にしてやる」

「え?解放するんじゃ――」

「なわけないだろ。秘密をちゃーーーんと確認したら解放してやる」


ニヤニヤとしている。


「……断る……と言ったら?」

「言わなきゃ分からないか?」

「……ふん。分かった……村に案内しよう」

「頭のいい判断だな」



ヘキオンが縛っていた縄を切って女を解放する。襲われるのかちょっと心配だったのか、女に対してビクビクしている。


「名前は?」

「……クエッテ」

「よしクエッテ。まぁしないとは思うが、逃げようとするなよ。あと、村の人に俺が脅してるってことも伝えるな。お前を殺すのに1秒もかからないことを覚えておけ」


クエッテに対して低い声で威嚇する。それに対してクエッテは無言で頷いた。



「そ、そんなに脅す必要ってあるんですか?」


カエデに対してボソッと呟いた。


「もしものためだよ。こんな森で逃げられると探すの面倒だし」

「でもすっごい警戒されてません?」

「だろうな。安心しろ、俺も警戒してるから」

「そ、そういうことじゃないんですけどぉ……」


若干涙目でヘキオンはカエデに抗議するのであった。









――次の日。


「ハァハァ……ちょ、ちょい……速いですぅ」


汗をダラダラ流しながら歩いているヘキオン。その前を歩くのはヘキオンとクエッテ。


「……あの子遅い」

「まだ修行中なんだ。許してやってくれ」

「私を倒したくせに……なんで?」


2人が立ち止まった。息を大きく切らしながら歩くヘキオンを2人でじっと見ている。


「レベルじゃ測れないこともあるんだよ」

「ふぅん……」



ようやくヘキオンが追いついた。


「……もうすぐよ。あと5kmぐらいで着くから」

「ぞ、それ……近くって言わないよ〜〜!!」


この森に入って2回目の悲痛な叫びが森に轟いたのだった。












続く

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