第17話 場所の優位などぶち抜け!
「――狙いは……どこに……」
シュッ。
弓が撃たれた。真下。ヘキオンがいないとわかってるはずなのに撃った。
「――まさか」
ヘキオンは気がついた。女が狙っている場所を理解した。
先ほどのウォーターサーチで辺りの地形を頭に入れてある。
女が狙っていたのはヘキオンではなかった。女が狙っていたのは地面。もっと言うなら地面の層の隙間だ。
ヘキオンがいるのは坂道。女は上の方から狙っている。
女はヘキオンの情報は知らない。だが自分が近距離を苦手とすることを知っている。相手が近距離戦に長けている相手なら自分が不利になる。
ならば暗闇の中、相手を待つのはダメ。まともに戦う必要も無い。ならば間接的にも殺せればいいのだ。
ゴゴゴゴゴゴ……。
音が耳に入る。地面がそこから捲りあげられるような音。土と土が滑るような音が周りに響き渡っている。
「――土砂崩れか!」
ヘキオンの読み通り。ヘキオンに向かって大量の土砂が流れてきた。
圧倒的物量。圧倒的範囲。地獄のような音を鳴らしながら、三途の川のようにも思える土砂たちがヘキオンに向かって流れてくる。
「う、上に――」
行動した時には遅かった。既に土砂はヘキオンの目の前に来ていた。
「あ――」
木の幹の上。弓を構えた女が座っていた。
胸の辺りを赤い布で隠し、スカートに似た赤いヒラヒラとしたものを腰に巻いている。顔は可愛いと言うよりも美しいと言うべきだろう。
「――――」
弓を背中に仕舞う。どうやら仕事が終わったようだ。
地面に飛び降りる。普通なら脚が折れるようなレベルの高さを軽く飛び降りた。その高さを当たり前のように着地する。
「――まずは……1人殺した」
肩をコキコキと鳴らす。
「そこにいるんでしょ。出てきなさい」
斜め後ろ。女はそこにあった木に向かって話しかけた。
「――バレてたか」
木の影からヌルッとカエデが出てくる。さっきまで後ろにいたはずだが、いつの間にかここまで移動してきていた。
「やっぱり隠れて行動するのは苦手なんだよなぁ。どーしても強すぎて目立っちゃう」
「あなた何者。あの距離で私に気がつくのはおかしい。ウッドエルフでも気がつけるか分からないくらいなのに」
「さーね。ちょっと強いただの人間だよ」
女がしまった弓をまた取り出した。カエデに向かって臨戦態勢をとる。
「それよりも。急に撃ってこなくてもよかったじゃないのか?話し合おうという気概はないのかね」
「……『ここに侵入してきた者は殺せ』とお爺様から言われている。だから撃った」
「なんでそこまでするんだよ。……もしかしてお宝でもあったり?」
「言うつもりは無い。無駄なお話もここまで」
女が矢を弦に入れた。鋭い目でカエデを見つめている。
「俺とやり合うつもりかい?どこぞの野生動物じゃないんだから力の差くらいはわかるだろ。本当に俺を殺したいならその冷や汗を仕舞え」
女の額から汗が1粒流れた。顔には出ていないが、カエデが自分よりも圧倒的に強いことは理解しているようだ。
「……や、やってみないと分からない」
「まぁ別にいいけどよ。ただ俺よりもやりたそうなヤツがいるんだけどな」
「は?何を言って――」
女の頬に拳がめり込んだ。水を纏った拳。ヘキオンの拳だ。
「
女の体が殴り飛ばされた。カエデが体をサッと横に向ける。女はカエデを通り過ぎ、太い木に背中から叩きつけられた。
「――カエデさん!!危ないことがあったら助けてくれるって言ったじゃん!!」
「君なら危なくないと思ったからね。現に自分の力で切り抜けられたでしょ?」
「で、でもぉ……」
「わざわざ時間稼ぎをしてあげたんだぞ。お礼をして欲しいくらいだ」
ヘキオンが頬を膨らませる。
「――な、なぜ」
女が立ち上がった。綺麗な鼻から血がドクドク流れている。
「どうやって……あそこから」
「……単純。流れてくる土砂を殴って掻き分けただけ。逃げるのは無理だったからね」
土砂が来た時。逃げられないと悟ったヘキオンは逆のことを考えていた。
逃げるのではなく、立ち向かう。
土砂に向かってアクアスマッシュを何度も打ち込み、流れてくる土砂を全て弾き飛ばしたのだ。
あとはすぐに女の方へ向かうだけ。女はヘキオンを殺したと思い込むだろう。つまり油断する。接近して殴るだけだ。
ただ近づくだけなら気がつかれていただろう。カエデが女と話をしていたのはそのためだ。ヘキオンの接近を気づかせないようにするため。
このような要因が重なり、ヘキオンは女に一撃入れることができたのだ。
「――ふん。先にあなたを殺す」
ダラダラ流れる鼻血を無視し、矢をつがえた弓をヘキオンに向けた。
「まぁ俺は見てるよ。死にそうになったら止めてやる」
「そんな状況にはなりません。夜食でも獲ってきててください」
水を纏った拳を蛇のように廻し、ヘキオンはいつものように構えた。
続く
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