第10話 馬鹿狼をぶっ飛ばせ!

現在のヘキオンのレベルは25。

対して人狼のレベルは38。


単純なレベルは人狼の方が高い。しかしレベルだけで戦いの勝敗は決まらない。あくまで戦いは個人の実力と経験、運によって決められるのだ。


「戦う前に聞いておこう」


人狼が喋った。人狼は人間と狼のハーフ。喋ることもできるのだ。


「――貴様の名前は?」

「……ヘキオン!」


真っ直ぐな瞳で人狼を睨みつける。



「フハハハハハ!!よし、いいだろう!!私の名はクレイン!!私と戦う権利を与えよう!!」



クレインが両拳を地面に叩きつけた。衝撃の音がヘキオンの鼓膜に響き渡る。


闘争本能が刺激されたのか、恐怖を紛らわせるためか、ヘキオンはウルフィーの時より大袈裟に手を振り回し、構えた。


「来い!!ヘキオン!!」








まるで波が岩壁に叩きつけられたかのように、水風船を地面に叩きつけたかのように、ヘキオンの縮地に合わせるように衝撃波が屋根を破壊した。


弾丸のような速さでクレインに近づく。普通の人では視認することも難しい速さだろう。


一気にクレインの懐。自分の攻撃が最大限発揮させられる距離まで瞬きをする程の時間で近づいた。


「フッッ!!――」


ヘキオンの右手がクレインの腹筋に沈みこんだ。ミシミシという音が空気を震わせる。



地面に衝撃波をつけて飛び上がった。その反動を膝に集中させ、クレインの顎に膝を叩き込んだ。


つま先から水を高圧噴射させ、その反動を使ってクレインの頭にカカト落としを叩き入れた。


クレインの体が地面に墜ちるのと同瞬、上に水の衝撃波を放って、一瞬でヘキオンも地面に着地した。


アクア――」


片腕に水を集中させる。空気中の水分も巻き込んで力をチャージする。


一点に圧縮された水は大きくなろうと大きな力を纏って放出されるのだ。



「――スマッシュ!!!」



コンクリートの壁を軽く壊す威力の技。その威力の攻撃を顔面に放った。


それも超近距離。中距離ですら屋根を吹き飛ばす威力。その威力の技を近距離で喰らう。ならばその威力は計り知れないだろう。



クレインの体は後方に吹き飛ばされた。2回地面と衝突し、水切りのように跳ねる。



「――ッッふぅ、ふぅ……」


ヘキオンの両手に痺れがきていた。同じ姿勢を長時間続けたような痺れ。甘くも辛い痺れだ。


見た目だけならヘキオンが圧倒しているように見えるだろう。そう、だけなら。



ヘキオン本人はそんなことを思っていない。実際に戦った方が分かることもあるのだ。


「はぁ……はぁ……これは……」


ヘキオン自身は理解していた。自分の放った攻撃がクレインにはほとんど効いていないことに。





「――最後の攻撃は効いた。そこら辺のヤツらよりも骨はあるなぁ」


倒れていたクレインはヌルッと立ち上がった。まるで何事も無かったかのように。


まともに喰らっているはずだ。それなのにこのダメージ。


「だがまだまだだ……もっと本気をだせ。こんなもんなのか?」

「――くっ!」


もう一度構えをおこなった。


クレインは本物の狼のように両手を地面に喰い込ませ、四足歩行のように腰を上げた。白い息を大きく吐き、眼をギラつかせる。その姿はまさに狼。まさに獣だ。





クレインが走ってきた。犬が駆け寄ってくる……というか、獲物を追いかける狼といった方が正しいだろう。



両手に纏った水を両足にも纏わせる。


「──でやぁ!!」


走ってきたクレインの頬に廻し蹴りを入れた。水で加速して威力も上がっている。


「──ガハハ!!まだまだだぞぉ!!」


波打つ頬を気にもせず、ヘキオンに向かって左手を叩きつけてきた。


横に水を放出してなんとか左手を避ける。


「なっっ──」


見た目に反してやはり素早い。今攻撃してきたはずだが、もうすでに右手を横に振り上げていたのだ。



上に水を放出して地面に体を叩きつけた。振られた右手はヘキオンを掠って空を切りつける。


「──ぐぅっ」


唐突な2連撃。対応できたのはヘキオンの反射神経あってこそだ。だがそれもずっとは続かない。



クレインの大きな足がヘキオンを思い切り踏みつけた。地面にヒビが一瞬で表れる。


「──がっっあぁぁぁ!!」




同瞬。屋根が崩壊した。


下の階に体が叩き落とされる。木材の床が更に崩壊し、もっと下の階へと落ちていく。


更に下へ。更に下へ。合計で4階分。下の地面へと叩き落とさた。



砂煙の中には未だヘキオンを踏みつけているクレインがいる。地面には蜘蛛の巣のようなヒビが入っていた。


「グッ──フゥゥ……がふぅ」


小さい口から大量に血が溢れている。肋骨も折れているだろう。


クレインはニヤニヤしながらヘキオンのことを見つめていた。


「ん〜?どうかしたのか〜?苦しそうだなぁ!!」


踏んでいるヘキオンへ更に体重をかけた。


「がァァァァァァッッッッゥゥゥ!!」

「どうした。もっと私を楽しませろ!まだまだ私は元気だぞ!!」


ヘキオンをサッカーボールのように蹴り飛ばした。壁のコンクリートを壊して外へと投げ出される。




「ぐぅ──」


フラフラとしながら立ち上がる。口から流れてる血は服にもべっとりとひっついていた。

手足は震えて定まっていない。


それでも目はしっかりとクレインに向けられていた。


「いーーーい闘争心だ。まだまだ俺と戦うつもりなんだろぅ。もう少し遊んでやるよ……」


ヘキオンは震える腕を構え直してクレインを睨みつけた。











続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る