第9話 夜の街と月の王!

――次の日。


「――んー。化け犬って言ってもなぁ」


夜の街。昼間とは違う物悲しい雰囲気を纏っていた。静かで不気味な感じがしている。


街に掲げられている街灯が小さく地面を照らしていた。しかしその光すらも恐怖を醸し出している。


「……綺麗だなぁ」


ヘキオンは空を見上げていた。下には不気味な雰囲気が広がっているが、空はとても綺麗だ。


多種多様の星が空を埋めつくしている。一つ一つが宝石のようだ。まん丸の綺麗な月も空に佇んでいる。


ヘキオンはその綺麗な空を眺めていた。


「――こら!!お嬢ちゃん!!」


ヘキオンの体がビクリと跳ねた。暗いところで声をかけられると誰でも怖い。


「こんな夜遅くに出歩いちゃダメでしょ!」


声をかけできたのは巡回中の兵士であった。高身長の男だ。顔はよく見えないが優しそう。


「あ、あの。私これでも冒険者でして……」

「え!?そうなの!?すみません冒険者に見えなくて……」

「あはは……」


見た目から勘違いしてしまうのも無理はない。ヘキオンは人によっては小学生にも見えるほど幼い。


「噂で聞いたと思うけど、最近は化け犬がでて危ないからね。できるだけ外に出ないように」

「はーい――あ、聞きたいことがあるんですけど」


ヘキオンは思いついたかのように兵士に問いかけた。


「化け犬ってだいたいどこら辺に出没するとか知っています?」

「あー。だいたい東地区くらいに出没してるね。さっきも出たっていう情報を貰ってきたよ」

「ほ、ほんとですか!」


ここは南地区。東地区まで走れば3分もかからない。すぐに行けば遭遇できるだろう。


「だから東地区には――ってお嬢ちゃん!?」

「情報ありがとうございましたーー!」


兵士がヘキオンの方に向いた時には、既にヘキオンは走り出していた。魔法使いは身体能力は低いはずなのだが、ヘキオンは何故か例外のようだ。







アオォォォォォン!!


「――この遠吠え……!」


まさに狼の遠吠え。誰もが想像するであろう狼の遠吠えがヘキオンの耳に入ってきた。


「誰かを襲ってるかも……」


額から汗が1粒流れる。焦りがヘキオンの心の中を支配していった。


声のした方にヘキオンは足を加速させていた。










「――あ……ぁ……」


声が出ない。ウルフィーロードの時は恐怖で声が出ていなかったが、今回は違う。恐怖ではなく後悔。後悔と懺悔、そして怒りで声が出ていなかったのだ。



時すでに遅し。ヘキオンが来た時には惨殺死体が道に転がっていた。


首は切れて血が溢れている。頭が潰れてる人もいる。腕足が真逆に折られていたりもする。


ヘキオンの拳は強く握られていた。歯は噛み締められている。恐怖よりも怒りの感情が勝っていた。


「こんな……こんなの酷い。……絶対に、絶対にぶん殴ってやる!!」


ヘキオンの目には覚悟の炎が宿っていた。必ず人狼を倒すという覚悟の炎を。








――また1人。狼に子兎が喰い殺される。


「――!?」


声が聞こえた。低く、唸るような声。声の方に顔を向けた。





真っ白の体毛。ウルフィーとは逆の真っ白の体毛だ。しかし返り血が付着しているのか、体毛のところどころに赤黒い点が付いている。


真っ赤な眼に同じような色の牙。眺めの舌をベロベロと口周りに振り回してる。


ウルフィーロードと違い、体全体の筋肉がバランスよく整っている。でかい胸筋、6つに割れた腹筋、太い二の腕、丸太のような太腿、大きい足。


ヘキオンの2~3倍は大きい。まともに戦えばヘキオンに勝ち目はないだろう。


「――人狼!!」


人狼は高い家の屋根に乗っていた。まるで自分が生物の王であるかのように堂々としている。




ヘキオンの拳に水が纏われた。ウルフィーの時と同じような水だ。


片腕を後ろに下げて力を溜めている。溜めていた腕に水が収縮し始めた。圧縮された水はヘキオンの拳に纏われている。



「――アクアスマッシュ水破!!!」



溜め込んだ力を一気に解放するように、人狼の方に握り拳を放った。


その刹那。ヘキオンの拳なら圧縮された水が放出された。その水は上下左右に揺れながら、それでも人狼の方に真っ直ぐ向かっていった。



見た目と反して、素早かった。ヘキオンのアクアスマッシュを軽々と横に避ける。水の余波は家の崩壊させて真っ直ぐ空へと向かっていった。


「ふんっ――!!」


避けられたことは気にせず、ヘキオンは大きくジャンプした。ジャンプと同時に水の衝撃波が地面にヒビを入れる。



ストンと軽い音を出して屋根に着地した。同じ地面に立ったといえ、体格差はあまり変わることは無い。


ボクシングに階級差があるのはそれほどまでに体格差は戦いにおいてハンデが大きいということだ。


だがこれはボクシングではない。異世界。もっと言うなら生きるか死ぬかの戦闘。殺し合いだ。どっちが勝つかは分からない。



「あなたは必ず倒す!!」


ヘキオンは水を纏わせた拳を人狼に向けた。











続く

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