第11話 力の差なんてなんのその!

「その眼差し……いい、いい、いいぞ。その眼を潰してやりたいよぉ!」


クレインが消えた。完全に消えた。ヘキオンが辺りを見渡すがどこにもいない。



「――なっ!」


ヘキオンが上を見る。クレインは飛び上がっていた。10m以上はある家を軽く2倍は高く飛んでいる。



――グルルルルルァァァァァ!!!!



飛びかかってきたクレインを後ろに飛んで避ける。衝撃の余波で周りのガラスが破裂した。



ウォーター――」


左手に水が集約してゆく。大小様々な水粒がヘキオンの左手に集まってきた。


「――スプラッシュ放出!!」


集約した水をクレインに放出する。


圧縮してない水をぶつけるだけならさっきのアクアスマッシュよりも威力は低い。ならばなぜ低威力の魔法をヘキオンは打ったのか。



放出された水はクレインの両目に降りかかった。


「ッッ――」


威力が低いとはいえ、眼に勢いよく水をぶつけられたら痛い。それはどんな化け物も一緒なようだ。



「ふぅ――がぅぁ!!」


人間ならば心臓の場所。胸の中心部分。そこに拳を撃ち込んだ。


そこから連撃。1発殴った所を集中して攻撃する。


右腕で撃つ時、左腕を後ろに下げる。右腕を下げる間に左腕でクレインを撃つ。その際に水の衝撃波を肘から放出して加速する。


これを交互に繰り返すことによって、目には見えないほどの速度で攻撃することができるのだ。



「ググ……グフゥッッ」


さすがの攻撃にクレインも怯む。さっきまではダメージを見せなかったクレインが血を吐いた。真っ白な毛皮に赤い血が何粒が引っ付く。



水で威力をつけた蹴りを金的に向かって放った。これの痛みはだいたい分かるだろう。


金的の場所は人狼も同じだったようで、


「ッッッッッッッッ!!!」


と声にない声を出した。飛び上がって地面に叩き落ちる。



「――ふぅ、ふぅ、……はぁ」


目の前で敵が悶え苦しんでいる。いわば隙だ。敵が目の前で隙を見せている。


しかしヘキオンは動かない。いや、動けないと言った方が正しいのだろう。


折れた骨が肺に突き刺さっており、急激に動いたことによって呼吸がままならないことになっているのだ。ただでさえ痛みで動けないはずだが、それなのに無理をして動いた。ならば反動が来ても不思議ではないのだ。




先に立ち上がったのはクレインの方だった。


「――グフゥ……クソッッ……クソガキめ……」


痛みが引いたようで、ふらつきながらも立ち上がる。


「ガブッッ……まともに……弱点を……見せてるのが……ハァハァ……悪いんでしょ」


ヘキオンも呼吸ができるようになったようで、グラグラしながらも立ち上がった。


「勝つためなら……なんでもする。そういうのは俺大好きだぜ」


クレインが不快な笑みを浮かべる。それに合わせるかのように月明かりがクレインを照らしつけた。


「あなたに……好かれたくなんか……ない!」


蒼色の水を拳に纏わせ、いつもと同じ構えをとる。まだダメージは残っているようだが、それはクレインも同じだ。


「はは。それでいい。それがいい。その心をもっと俺に向けてこい……!!」


クレインの鋭い爪がきらりと光る。







アクアスマッシュ水破!!!」


ほとんどノーモーション。クレインが気がつくよりも先に。神経が情報を伝達するよりも速く。


音を置き去りにするほど速く、ヘキオンの拳はクレインの鼻にめり込んだ。



鼻血を滝のように出しながら後ろへ吹き飛ぶ。ここでようやく攻撃されたことに気がついたようだ。


「――アクアスマッシュゥ水破!!!」


さらに追撃。踏み込んでない分威力は下がるが、それでも普通の攻撃よりもダメージは入る。


真っ直ぐな線を描いてヘキオンの拳はクレインの腹筋にめり込んだ。


「くゥッッ――」

「――ッッッアクア――スマッシュ!!!!!」


さらにもう1発。今度は踏み込みも入れているので威力が出ている。


全く同じところ。同じ腹筋の場所を的確に叩いた。ヘキオンの拳の形に毛皮が凹んでいる。


「がァァ――ァァァ!」


口から血を吐き出す。的確にダメージは入っている。確実に体力は減らせている。ヘキオンもそれを理解していた。


「フゥゥゥゥ……アクア――」


水を拳に集約させた刹那。ヘキオンの体は宙に浮いた。


「――!!??」


宙に浮いてるのに気がついたのは0・5秒後。顎の痛みが気がついたのはその後だった。



「――まだ……だなぁ!」


真っ赤な眼をヘキオンに向けながら、まだまだ戦えると言っているかのように地面を強く叩いた。


「いいパンチだ……効いたぞ効いたぞぉ!まだまだ戦えるよなぁ!!ヘキオン!!」


体を血で濡らしながら遠吠えを放つ。その姿はまさに狂犬。狂狼と言うべきか。



脳が揺れているのか、未だ立ち上がれていない。地面に両膝をつき、ガタガタと両手を震わせている。


「アッ……アッ……アグゥ……」


そんなヘキオンの姿をクレインは笑いながら見つめていた。











続く

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