最終話

 顔に傷のある怪しい先生に私の病気? とやらを見てもらったんだ。


 闇の業界ではナンバー1、天才外科医と呼ばれているらしい。


 頭の病気は手遅れだが、身体は健康そのものであると言われた。


 だからね、わたし。


 今日から、


「おはようございます、お嬢様、それではドレスに、お、お嬢様、一体どこにいかれるのですか!!」


 修行することにした。


 善は急げだね。


 私は自分の部屋を出て走る。


「ぬおおおおおおお!! わたしは風になる。キーン」


 廊下でメイドさんや執事さん達とすれ違う。


「さっきのは、まさか?」


「お嬢様?」


「パジャマ?」


 屋敷の庭へ向かう。


 剣の修行をするのだ。


 庭に置いてあった園芸用の鎌(カマ)を手にする。


 シャムリーナは鎌を手に入れた。


 攻撃力が3ポイントUPした。


 武器ゲットだぜ。


 鎧はないかな。


 このままでいっか。


 猫さんパジャマ(ネコミミフードつき、シャム猫仕様)のままだけど気にしない。


 よし、鎌を振って振りまくる。


 イヒヒ、このデスサイズが血を求めている。


 この赤い薔薇に向けて、えーい!!


 武器には三すくみがある。


 斧には剣が強くて、槍は剣につよい。


 だから私は剣士になるのだ。


 でも鎌って剣になるのかな。


 気にしない、気にしない。


「私、強くなる。最強なる、おうじ、やる、ぜったい、やる、しねえええええええ」


 庭の雑草?などを滅多斬り。


「わしが大切に育てた薔薇たちがあああああ!!」

 

 なんか庭師のじぃさんが叫んでるけど気にしない。


 返り討ちになんてなるものか、レオンハルト、あんたを、ぶっ殺してさしあげるためにも……強くなってやる。


「えーい!!」


「や、やめてくれ!!」


 そういえば、こっちの世界のおやじ、ごほん、お父様が教えてくれたんだけどね。


 なにやら、記憶喪失前のシャムリーナは魅力と知力が高くて、武器ではなく、相手に薬をもって男をたらしこめるのが得意なんだって。それが本来のお前のスタイルとか、でも今のお前はそうだな、頭がアレで残念だし、お子様だから駆け引きとか無理だよなって、頭をポンポンされて同情されてしまった。


 ほんと、すごく失礼だよね。


 わ、私が本気で誘惑したらレオンハルトなんてイチコロだよ? ほんとだよ?


 えっへん、漫画で予習は完璧なんだから。


 でも、少し怖いかも、でもあんなことやこんなことをしたりするんだよね。顔が真っ赤になっていく、ああ、もう、ナニ考えてるのよ、あんな奴と絶対にするなんてありえないし。


 でも、いざとなったら私にはコレがある。メイドさんに協力してもらって、とっても身体が熱くなって敏感になる? よく効く強化薬ももらったし、限定で一つしかないレアアイテムらしいから本番になった時に飲めばいいんだって。天然? のわたしなら、これを飲んで相手に身を任せれば全てうまくいくとか。難しいこと言ってたね。


 それがこのマタタビンZだって、熱くなる、身体に火の力が宿って腕力が上がる、敏感、きっと素早さが上がるんだろうね。過剰摂取するとたいへん危険らしいから容量は的確にだって、でも命がかかってるから、王子とやることになったら、一気飲みだよね。うんうん。

 

 よし、少し休憩しよう。


 あとは魔法だよね。


 そう、この世界には魔法があるんだ。


 だから、是非とも力を強化する魔法を覚えたい。


 それで、お父様にお願いしたんだ。


 剣の先生と魔法の先生を……


 その時のお母様の顔が印象に残った。


 ふらつきながら、うつろな瞳で私を見つめるんだ。


 ほら、見て見て、あそこ、私を見てるよ。


「わたくしのシャムリーナが、おかしくなってしまった」


 と、ひっそり物陰に隠れてぶつぶつ呟いているんだよ。きっと、私を見守って応援してるんだよね。


 よし、まだまだ頑張るぞ。


「えーい!! たぁー!!」


 私は王子に負けない、絶対にヤってやる!!


★★★


 はずだった。


 メイド長視点


 お嬢様とレオンハルト様が監禁部屋で情事を重ねる光景を私はあれから何度も目のあたりにした。


 扉の隙間から見てるだけの私、無意識にアソコに触れてしまう。


「気持ちいいのか、私に負けないんじゃなかったのかい?」


「んやぁっ……あ、ああぁっ……ごしゅじん……しゃまぁ……」


 お嬢様は気持ちよさそうな顔をしている。


 ズボズボと大きなアレを出し入れされて、自ら腰を振っている。


 レオンハルト様にすべてをゆだねているのが分かる。


 レオンハルト様の反り立つアレを恨めしそうに見てしまう私。


「んんっ、や、ああっぁぁっ……やあ、ああぁっ……もっと、もっと」


 お嬢様は歓喜の雄叫びをあげている。


「ここが、相変わらず弱いのだな? もっと突いてやろう」


 レオンハルト様のアレがお嬢様のアソコに何度も……


 うらやましい。


 ただ、わたしはそれをみているだけ……。


 奥を突かれるたびにお嬢様は喘ぎ声をあげて顔まで蕩けさせている。


 わたしのここにもレオンハルト様のアレがほしい。


「や、あ、あああぁんっや、ああぁ……」


「もっと強くしてやる」


「ああっ、はっ、あああぁっ、はぁ……ぁぁ……」


 お嬢様の動きも激しくなってくる。


 もうすぐレオンハルト様に導かれてしまう。


 あの絶頂の世界に……


「あ、ふぁうっ、ああぁ、あぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!」


 お嬢様は絶頂してしまい、全身を跳ね上げ身体中をびくびくと痙攣させている。


 なんて、気持ちよさそうな顔をしているんだろう。


 見ることまつらくなり私は、自室へと戻ることにした。


 また、レオンハルト様を想像して自分を慰めてしまう。


 私はレオンハルト様が好き。


 好きで好きでたまらない。


 大好き。大好き。


 その横顔にいつも見とれてしまう。


 レオンハルト様にまた触れられたい、あの細い指先で……


 想像するだけで、それだけで心が弾けそう。


 私、どうしてこんなにもレオンハルト様が好きなんだろう。


 もう分からない。


 だって私には彼しか見えないから。


 わたしがシャムリーナに選ばれたときから、もう何百年たったのか分からない。


 いつになれば、また私を選んでくれるの?


 今回の私はメイド長に選ばれてしまった。


 シナリオにそって動かないとこの世界からデリートされてしまう。


 私の心が押しつぶされていく。


 我慢、我慢よ。


 でも、また、あの時みたいに、私も調教してほしい。


 鏡台の椅子に座って魔法を解く。


 隠していた黒いネコミミと尻尾が暴かれる。


 エピローグ終了までまだ少し時間がある。


 まだ消えてないのね。


 ああ、嬉しい。


 この青い痣(あざ)や傷は、監禁部屋につれていかれるお嬢様を助けようとする役割をしたとき、愛しい人につけられてしまうものだ。


 その痣と傷を撫でたあと口元に手を運んでいく。


 あああ、レオンハルト様とつながっているそんな気分にひたれる。


 あああ、もう、狂ってしまいそう。


 レオンハルトさま、レオンハルトさま、レオンハルトさま、レオンハルトさま、レオンハルトさま、レオンハルトさま。


 私のレオンハルトさま。


 さっと、大きな鏡に一人の少女の姿が映りだされた。


「あの馬鹿姉貴、ほんと、どこにいったのよ。もう!!」


 ああ、お嬢様、あなたは壊れてしまったのね。あなたとなら、同じ彼に飼われた猫同士、きっと、次では仲良くなれると思ったのに、本当に残念だわ。


 新たな住民は彼女に決まったようね。


 うふふ、お迎えにいかないと。


 今度は黒猫(わたし)が選ばれますように~♪


★★★


 私の名前は田中めぐみ。


 地球からの転生者だ。

 

 この世界で私に与えられた最初の役割(アバター)は、悪役令嬢シャムリーナだった。


 シャムリーナのトレードマークは猫のミミと尻尾がついていることなのだけど。


 なぜシャム猫なのに黒いネコミミがついているのか疑問だった。


 私がこのゲームを始めたときは、ベータテストだったから仕方がないのかもしれない。


 この世界で暮らした時間は、すでに100年を超えている。前世の記憶をもった人間は私しか残っていない。


 転生したことで新たな人生を楽しもうとした者が大勢いたのだけど。


 長くて5年。


 皆、絶望し狂っていく。


 次々とシステムにデリートされる。


 そして私だけが残された。


 ベータテストで生き残った私は後にゲームマスターとして、この世界に選ばれた。


 鏡台に座り、私はいつもの大きな鏡をのぞく。


 すると、一人の少女が目の前に映った。


「あの馬鹿姉貴、ほんと、どこにいったのよ。もう!!」

 

 彼女がプレイヤーに選ばれたようだ。


 プレイヤーとはこの世界で自由に行動できる権利を持った人間、この世界で1人だけがその権利を持つことができる。繰り返しこの世界で転生し遊ぶことができる選ばれた人間、だけとプレイヤーの精神に不具合が生じた場合、システムの検知によりデリートされる。変わりの新たなプレイヤーが選ばれてしまう。


 鏡に映っていた彼女の姿が薄くなって消えていく。


 ただの鏡に戻ったあと文字が浮かび上がった。


 新たなアップデートが加わり新たなエンディングとアイテム、NPCが追加されたそうだ。


 あとは指令書にそって動け、詳細はこの説明書に書いてあるとのことだ。


 鏡台のテーブルに一冊の本が現れた。


 それを手に取り、パラパラとめくりながら読んでいく。


「またダメだった」


 今回の私の役割は、メイド長ではなかった。私はどうやら、クロエというシャムリーナの専属メイドに選ばれたようだ。


 新たに追加されたNPCはシロエ。姉クロエの妹でメイド見習いだった。


 今回もおわずけだった。


 彼に愛されたかったのに(調教されたかったのに)


 欲望を抑え込み、この世界での自身の役割を思い出した。


 メイド長の服から専属メイドの服に装備を切り替える。アバターにも少し手を加える。今回は黒い猫耳と尻尾はそのままでいいようだ。


 シャムリーナの遠縁の子爵の娘のようだから。


 これでいいみたいね。


 トントントンと部屋をノックする音が聞こえた。


 トン、トン、ドーーーーーーン。


 扉が勢いよく開かれてしまう。


「ねぇ、おねぇさま、お嬢様が、うーん、なんだっけ? あは、忘れちゃったよ?」


 彼女はたしか、私の妹の追加されたNPCシロエよね?


 たしか、いつもおどおどして姉離れできない内気な少女の設定ではなかったかしら?


 エラー、それともバグなのかしら。


 彼女は私のお揃いのメイド服を着ている。


 胸元には猫の鈴。


 私は黒だけど彼女は白のネコミミをつけている。


「ああ、困ったよう。どうしよう。逃げる、いっそ逃げちゃう。わたしは鳥さんになるのだ。きーん!」


 私は振り返って逃げようとした。シロエの首根っこを掴んだ。


「ぐえっ」


 その口から残念な声が聞こえた。


 返事も持たずにドアーを開けるなんてマナーがなっていない。


 NPCとしての行動、台詞すら忘れてる。


 デジャブかしら、先ほど同じようなプレイヤーのお世話をしたような。


 ああ、なるほど、彼女が新しいNPCとしてリサイクルされたのね。


 元のスペックが規格外のおバカだったから、システムもバグを起こしてお手上げだったのかしら。


 生き残れるようにあそこまでお膳立てしてあげたのに。


 媚薬は小さじ一杯分って何度もいってあげたのに、復唱までさせたのに、一気飲みするだなんて、、、あれは予想外だったわ。


「うふ、あなたは本当に残念ね。でもそこが癒されるのかもね」


 彼女の頭をポンポンと叩く。


「ひどーい、お父様、また子供扱いした。あれ、わたし、何言ってるんだろう、前にもこんなことが、って待って、おいてかないでよ」


 ここはエミリア王国を舞台とした乙女ゲームの世界である。


 

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王子様は猫達を飼う。 眠れる森の猫 @nekoronda1256hiki

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