第3話
正気を取り戻した私はメイドさんにこれまでの経緯を尋ねることにした。
階段から落ちて、頭がイッてしまった私に責任を感じたレオンハルト王子は私との婚約を決意したらしい。
決意しなくていいのにどうしてこうなっちゃうの。
シャムリーナの家、アークヤーク家は王家の次に権力のある公爵家だ。
だから問題がない。
いやいや、問題だって、王子の性格が終わってるのよ。
どうにかして、断ることはできないかな。
だけど周囲が許してくれない。
私のために豪華なドレスを仕立てるとか、これで我が一族は安泰だとか、家族、一族? そろって宴会気分になっているよ?
この目の前にいるメイドさんが、盛大に婚約話を広めたようだ。
たった数分で一族そろってパーティとか、どうしてこうなった。
なんて、なんて、有能で、、、とっても迷惑なメイドさんなんだろう。
ああ、憂鬱だ。
部屋に取り付けられている大きな鏡の中には金髪ロールにしたお嬢様がいる。
その表情はげっそりしている。
それでも、ふつくしい。
なんて美少女なんだろう。
うっとり、いやいや、今の現状をなんとかしないと、私は悪役令嬢で、しかも王子と婚約したんだよ?
ストーリーがかなりおかしい気がするけど、このままだと……
たしか話を進めていくうちに、ああ、胃が痛くなってくる。
あれを乗り越えないとまずいのよね。
思い出した。
あれを……
私は首に手を当てる。
ヒロインの攻略対象がレオンハルトだと非常にまずい。
このままだと私は確実に死ぬ。
考えないとだめだよ。
あの天使のような微笑みは悪魔の微笑みなんだ。
性格は超がつくほどのドSで性悪男だったはず、レオンハルトENDだけは阻止しないと……
「首が……首が……このままじゃ……なくなる」
★★★
『君には悪いけど僕のために死んでくれないかい?』
考えるのよ。
レオンハルトENDだけは阻止しないと……
「やだ、やだ、首が……首が……うがああああああ!!」
「どうしたのですか、お嬢様、急に雄叫びをあげて、頭がおかしくなってしまったのですか、ああ、すぐにでも専属の医師を……」
そう、レオンハルトENDとは……
レオンハルトがヒロイン様に恋をすることではじまる。
学園主催の卒業式の夜。
満月が綺麗なのよね。
お月見したら最高かも、団子も用意しないとね。
ではなくて、なんと、レオンハルトが私に向けて婚約破棄を宣誓するのだ。
そして私は断罪される。
ヒロイン様に度重なる嫌がらせをしたことがばれてしまうのだ。
それと公爵家の悪事まで暴露されてしまう。
正義に目覚めた義弟がたしか裏切るんだっけ。
私がヒロイン様に嫌がらせをしないクリーンで平和な学園生活を送ったとしても、レオンハルト、ヤツなら私に無実の罪をきせて強制的に婚約破棄するだろう。
私は身分を剥奪されて身一つで国外に追放される。
それだけではないのだ。
私が魔物の餌になるエピローグがもれなくついてくる。
ああ、よく覚えていますとも。
画面がブラックアウトして、なぜかご丁寧にクチャクチャ魔物に食べられている効果音つき、最後は画面がUPして、モザイク付きの、通称、首だけENDになる。
そこでなぜかレオンハルトが登場して、
「なんてイイ顔をしているんだ。君のことが初めて綺麗だと思えたよ」
クスクスと綺麗な笑みを浮かべるのだった。
もう一つのENDでは、私がヒロイン様にナイフで襲いかかり、返り討ちにあうENDだ。
レオンハルトが側にあった(パーティ会場になぜ落ちているのか不明)バトルアックス(すっごくおっきな斧)を拾い上げ、私の首から下に向けてそれを振り下ろすのだ。
最初から、あんた、絶対、殺る気だったんだろう。
ねぇ、その大きな斧はな~に? どこから現れたの?、とツッコミたくなる。
この時もあれだよ。
首チョンパされてモザイクがつくのだ。
通称、首チョンENDである。
ヒロイン様がレオンハルトに寄り添いハッピーエンドを迎えるのだが、いくら悪役令嬢だからって、この扱いはどうなの?
泣いてもいいですか? ぐすん。
これらのENDを回避するには……
「ああ、困った、どうしよう」
こっちから婚約破棄でもしようかな。
いや、不可能だ。
仮にも王子からの婚約だ。
さすがに無理がある。
一族そろってパーティまで開いたぐらいだ。
有能すぎる、あのチートなメイドのせいで。
って、いない、さっきまでいたのにどこにいったんだろう。
メイドはおいといて、うーん、ここで婚約破棄してもいいですか、なんて言ってしまったら。
たぶん、私は地下牢に監禁されて度重なる調教で洗脳、人形にされてしまう。
薬学(危ない薬)と洗脳魔術が大得意なアクヤーク家だけにね。
まさしく悪役令嬢様のお家であーる。
地下牢、そういえば調教END、お人形さんENDだっけ、たしか、そんなENDもあったような……。
これらのエンディングは見たことないかな。うん?
『いつになったら、いつになったら、わたしを』
なんだろう。幻聴が聞こえたような、まずはバトルアックスをなんとかしないと、いっそ王子を返り討ちにしてヤればよくない?
私は自分の華奢な腕を見て、無謀な考えを思いついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます