第5話
寒さと疲れで眠りに落ちて、どれくらい経っただろうか。
ふと目が覚めて朝かと思った。
誰かがそばにいる。
柔らかくしっとりした艶やかな感触。
「淋しくて、出てきちゃった」
女の声がそう言った。
目が覚めたと思ったのにここは夢の中だろうか。夢の中で夢を見ているんだろうか。ぼやけた頭で目を開ける。
色白の美しい女が彰人の胸にしなだれかかっていた。
彼の胸に頬を寄せて彼の胸板を愛しそうに手で撫でている。しかし、女から体温が感じられなかった。
「だっ! 誰だお前!」
飛び起きた彰人を追って彼女も身を起こす。仰向けのまま床を這った彰人が壁に背をぶつけて動きを止める。その女はぴたりと付いてきた。
いや。
付いてきたんじゃない。
付いてる。
彼女は彰人の腹から上半身だけを生やして彰人に頬ずりをしていた。
「うわぁ────っ!! 離れろッ!」
接合部は一体化していてどこからが女の部分なのか分かれ目が全くわからない。まるで結合双生児のように、どんなにもがいても彼女から逃れられなかった。
彼女を引き剥がそうとする彰人の背に彼女の腕が回っていく。
大切な人に抱きついて離さない。彼女の全身がそう言っている。
「あぁ、愛しい人」
体温のない彼女の腕が彰人の背を撫でる。しっとりとひたりと彼女の腕が背に密着していた。
彼女は本当に自分の体から生えてるのか。逆に自分の体に入り込もうとしているんじゃないのか。そう思うと言葉にならない恐怖が彰人を襲った。
(と・・・・・・取り込まれる!)
「やめろ!」
口を寄せる彼女の顔に手を掛けて彰人は必死に逃れようとした。
「消えろッ! どこかへ言ってくれぇ!!」
「ここに住むかって聞いてきたのはあなたよ」
はっとした。
『お前、ここに住む?』
何気ない一言が、あの一言が引き金になったのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます