第3話

 きのこの笠が不均等に広がっていて、何となくおかっぱの女の子みたいな形になっている。女の子が小首を傾げながらこちらを見上げている。そんな形に見えた。


「エリンギみたいに軸が太いタイプのきのこ・・・・・・かな?」


 きのこに背を向けて風呂に入った。なんだか見られている気がして恥ずかしさを感じた。


(きのこに見られて何が恥ずかしいんだか)


 自分に突っ込みを入れて笑う。

 跳ねた水できのこがぬるりと光っていた。







 仕事を終えて帰宅した彰人はドアを開けて驚いた。


「・・・・・・ッ! うっわ!」


 部屋の湿気が酷い。

 ドアを開けたとたん重みのある空気に包まれて思わず声がでた。


「なんだこれ!」


 扇ぐようにドアをパタパタと動かしてみるがそうそう換気はできない。

 彰人は部屋に走り込んで窓という窓を全開にした。そして浴室の窓も開ける。ふと気配を感じた。


 誰かの視線を感じる。


 そろりと浴室内に目を向けると、きのこが・・・・・・こちらを見ていた。


 つるりと白い軸にはくびれができて、なまめかしくしなを作っている。そして、丸みを帯びた顔らしい部分がのっぺらぼうのままこちらを見上げていた。


「・・・・・・な、なんで?」


 換気を怠ったのは一度だけ。

 あれから欠かさず換気しているのに何故。

 なぜきのこは生えたのか。今ごろになって不思議さが彰人の胸のうちで膨らんでいった。


 妙なきのこが浴室で育っている。


 またあの時の不動産屋の声が彰人に耳打ちした。『変なのが生えると困りますから』頭の中から押し出そうとするように彰人は頭をブルブルと振る。


 きのこを避けて浴室から出る。なぜか目が離せなくてきのこに視線をロックオンにしたままドアを潜った。


「嘘だ・・・・・・どうかしてる」


 きのこが振り返った!

 そう見えた。






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