第2話

「・・・・・・きのこ」


 紛れもなくきのこだ。

 黒っぽい茶色の傘を少しだけ広げて、1センチくらいのきのこが1本生えている。


『変なのが生えると困りますから』


 不動産屋のおじさんの言葉が耳の内側で再生されてひきつり笑いをする。


「冗談、キツいな」


 迷わずきのこを引き抜いた。そして、親のかたきかというほど生えていた箇所をしっかりと洗った。


「よしっ」


 窓を開けて浴室を出る。

 帰ってきてすぐに窓を開けたはずの部屋はまだ湿っぽかった。でも、自分の体がしっとりしているせいかと流してビールを口に含んだ。


「ん──! 風呂上がりの一杯、最高ッ」


 寝る前に浴室の窓を閉めさっぱりとした空間に満足して彰人は寝た。





「え? どういうこと?」


 朝、風呂に入ろうとして何気なく見たあの場所にきのこが生えている。彰人は思わず笑った。


「いやいやいや、嘘でしょ?」


 昨夜見たのと同サイズのきのこがちんまりと居座っている。とりあえず体を流して朝食をとって家を出た。


(帰ったら抜いてやろう。カビ取り剤ってきのこにも効くのかなぁ?)


 そんな事を考えながらの出勤。




 帰宅してすぐに浴室をのぞく。

 当たり前だがきのこはそこにいた。朝よりもほんの少し育っているようだった。


(これ・・・・・・食べられるきのこかな?)


 ふと育ててみたい気持ちが湧いた。

 丸みを帯びたかさが心なしか傾いていて「よろしく」と言っているようだった。


「お前、ここに住む?」


 言って彰人は笑った。

 きのこに話しかけるなんてヤバいやつになりかけてる。いや、もうじき30代突入だ。独り言の多いおじさんになりつつあるのかもしれない。


「食べ頃を教えろよ」


 何の気なしにそんな事を言って、買ってきた弁当を食べる。食後に風呂に入った。

 風呂に入りながらきのこが気になって、なるべくシャワーが直接当たらないように気を付けながら体を洗った。





 朝、目が覚めていつものように浴室へ向かう。


「・・・・・・ッ」


 ぎょっとした。

 きのこが大きくなっていた。いや、極端に大きくなっていた訳じゃないけれど、形にどきりとしたのだ。






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