Episode1・ゼロス誕生9
その日の夜。
夕食と入浴を終え、私はイスラとゼロスを寝所で寝かしつけます。
まずはゼロスです。ゼロスを抱っこで揺らしながら眠らせ、起こさないように気を付けながら赤ん坊用のベッドに寝かしつける。
「おやすみなさい、ゼロス」
小さく囁いてゼロスの額に口付けました。
小さな口をむにむにさせて、寝返りを打ってスヤスヤと眠っています。
可愛い寝顔です。指で頬をひと撫でし、今度はイスラの番です。
「お待たせしました。イスラ」
「ブレイラ、こっちだ」
イスラがうとうとしながら言いました。
今にも眠ってしまいそうなイスラに笑いかける。
本当はすぐに眠りたいのに私が来るのを待っていてくれたのです。
「眠いんでしょう? 眠っていてもよかったのに」
「だめだ。ブレイラがいい」
イスラがベッドの中で首を横に振ります。
窓辺で書物を読んでいるハウストを見ると、目が合った彼が苦笑して肩を竦めました。
「お前じゃないと駄目だそうだ」
最初、ハウストがイスラを見ていてくれたのです。
イスラを寝かしつけようとしてくれていたようですが、「あっちいけ」と追い払われたようでした。
「イスラ、せっかくハウストがいてくれたのに……」
「ブレイラがよかったんだ。ハウストは、……ちちうえだけど、ブレイラとねたい」
眠そうにしながらもイスラが言いました。
私を求めてくれるのは嬉しいのですがハウストも親なのです。
申し訳なさを覚えてハウストを見ると、彼は穏やかに笑って私とイスラを見ていました。
「気にしていない。お前と寝たい気持ちは分からないではないからな」
「ハウストっ」
「しっ、ゼロスが起きるぞ?」
そう言ってハウストが口元に指を立てました。
私は慌てて口を閉じるも、悔しくてハウストを軽く睨む。
「……まったく、ずるいですよ?」
「それは申し訳ない。それよりイスラが待ってるぞ」
「分かっています。イスラ、待たせてしまいましたね」
「ブレイラ、とんとんしろ。ちゅーも」
「はいはい」
今日は剣術のお稽古を頑張っていたこともあってとても疲れているようです。
いい子いい子と頭を撫でて、額にそっと口付ける。
するとイスラは照れ臭そうにはにかみます。
「おやすみなさい、イスラ」
「ブレイラ、おやすみ」
優しくトントンするとイスラはすぐに寝入っていきました。
どうやら限界だったようです。
イスラの寝顔にもう一度口付け、体を冷やしてしまわないように布団を直してあげます。
ようやく二人の子どもが眠っていきました。
「眠ったようだな」
「はい。眠たかったのに、ずっと我慢していたみたいです。すぐでしたよ」
小さく笑って答えると、ハウストも面白そうに目を細めます。
そして読んでいた書物を閉じると側まで来てくれました。
「イスラは眠る時はお前でないと駄目なようだな。異界にいた時もそうだった」
「異界……。勇者の宝でアロカサルが転移していた異界ですか?」
「ああ、お前を探してイスラと野宿したんだ。その時は黙って一人で眠っていったが、お前のいない寂しさに耐えていた」
「……可哀想なことをしました。でも頑張ったのですね」
たくさん褒めてあげたいです。
イスラの髪をそっと撫でて、側のハウストを見上げます。
「イスラを守ってくれてありがとうございます」
「礼は必要ないだろう」
「ふふ、そうでしたね」
イスラはあなたと私の子どもです。
でも嬉しくて、ハウストに擦り寄るように凭れかかりました。
大きくて、温かくて、とても居心地の良い場所です。
イスラは眠る時は私が良いと言ってくれるけれど、ハウストの側も悪くないと思うのです。
「ブレイラ」
「なんでしょう」
心地よさに少しだけうとうとしてしまう。
身を任せるように擦り寄っていましたが。
「行くぞ」
「えっ?」
がしりっ、腕を掴まれました。
何ごとかと彼を見上げると、そのまま私を連れて扉に向かって歩きだします。
「あの、ハウスト?」
「ここでする訳にはいかないだろ。お前にそういう趣味があるなら付き合わないでもないが」
「な、なんてことを言うんですかっ」
またしても声を上げてしまう。
ハウストは軽く笑っていますが、意味を察して私はそれどころじゃありません。
言い返したいのにハウストは扉の外に控えているコレットとマアヤに声を掛けました。
「コレット、マアヤ。入ってこい」
「失礼いたします」
「失礼いたします」
ハウストの命令に二人が静かに寝所に入ってきました。
二人は普段と変わらぬ様子で恭しくハウストと私にお辞儀する。
「いかが致しましたか?」
「俺とブレイラはここを離れる。イスラとゼロスを頼んだ」
「畏まりました」
ハウストはイスラとゼロスの見守りを二人に頼みました。
夜中にハウストと私が子ども達から離れる理由は一つです。
もちろんコレットとマアヤも察していることでしょう。居た堪れなさでいっぱいになる。
「行くぞ」
「は、はい」
文句を言いたいのにコレットとマアヤの前では余計に恥ずかしくて言えません。
できることといえば、ハウストの後ろにこそこそと隠れることだけです。
二人はすべてを察しているだろうにハウストと私に深々と一礼する。
「おやすみなさいませ」
「おやすみなさいませ」
「……お、おやすみなさい」
二人に見送られて寝所を後にしました。
扉を出ると他の侍従たちが整列しています。
更に居た堪れなさが増して私はこそこそしてしまう。それなのにハウストは無駄に堂々としているのです。
城内に数多くある寝所の一つ、大きな天蓋付きベッドのある寝所へ連れてこられました。
パタンッ。扉が閉まる。
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