Episode1・ゼロス誕生10

「ブレイラ」


 低く名を呼んでハウストが口付けようとしてきます。分かりますよ、このまま天蓋付きのベッドへ雪崩れ込もうというのでしょう。

 でもハウストの動きがぴたりと止まりました。


「ブレイラ?」


 今度は困ったように名を呼ばれます。

 しかし私は両手で顔を覆ったまま首を横に振る。

 ダメです。今は顔を見せたくありません。だって私、すごく赤い顔をしています。


「…………あの、すごく恥ずかしいんですけど」


 コレットやマアヤをはじめ、さっきの寝所の前で控えていた侍従たちは察しているのです。今夜、ハウストと私がなにをするか。

 ハウストもとてもあからさまな態度で、隠そうともしてくれなかったです。


「何がだ」

「何がって、……そんなのっ。……少しくらい隠してほしいです。こんな、いかにも、みたいな……」


 顔を両手で覆ったまま言うと、ハウストがくつくつと喉奥で笑いました。

 そして私の左手にそっと触れる。


「隠せるものでもないし隠す必要もないだろう。お前は俺の指輪を嵌めたんだ」

「それはそうですけど……」


 それは伴侶の証。環の指輪です。

 ハウストは私の左手薬指の指輪を撫でると耳元で低く囁く。


「顔を見せろ」

「…………もう少し待ってください。見せられるような顔ではありません」

「駄目だ。今お前の顔が見たい」


 鼓膜を震わせる甘い命令に唇を噛みしめる。

 いつも思いますけど、この声質、ずるいです。

 こんな声で、こんなふうに命令されたら拒否権なんてないじゃないですか。

 顔を覆っていた両手をおずおずと外す。

 ハウストを見上げると満足気な笑みを浮かべていました。


「口付けてもいいか?」

「……ど、どうぞ」


 答えるとハウストに口付けられます。

 しかもいきなり呼吸を奪うような口付けで目を丸めると、至近距離のハウストと目が合いました。


「ん……、ぅ、目を、閉じて、ください」

「お前こそ」


 言葉を交わし、また口付けあう。

 舌を絡め合う深い口付けに私の背が弓なりに反る。

 でもハウストの手が腰に回され、ぐっと引き寄せられました。


「ブレイラ、ベッドへ行こう」

「……また、いかにも、みたいな……」

「構わないだろう。ここには誰もいない」

「そうですけど……。あ、こら」


 ローブの裾がするするとたくし上げられていく。

 思わず腰を引きましたが、抱き寄せられてひょいと体を持ち上げられました。


「わっ、いきなりっ……」


 驚いて抱き着くとハウストは軽く笑い、天蓋付きベッドへと足を向けます。

 そして天蓋のレースを開けると、私の体をベッドで降ろしました。

 柔らかなベッドに体が沈む。

 ハウストが私に覆い被さって、額と額をくっつけます。


「ハウスト……」


 名を読んで背中に両手を回すと、彼は優しく笑んで口付けてきました。

 戯れるような口付けを何度も交わす。ちゅ、ちゅ、と漏れる水音がなんだかくすぐったいです。

 でも戯れは最初だけで、徐々に口付けが深くなっていく。しっとりと唇を重ね合わせ、角度を変えて何度も互いの唇を感じあう。

 口付けを交わしながらハウストの手が私の寝衣のローブを乱していきます。

 ゆっくりとローブを捲られていき、露わになった素足を彼の大きな手が撫で上げる。

 なぜでしょうね。今まで何度も体を重ねているのに、彼に触れられていると思うと、そわそわした落ち着かない気持ちになります。


「くすぐったいか?」

「はい」

「ほんとうに、くすぐったいだけか?」

「え? あ、わ……っ」


 曝された太ももに触れるか触れないかの感触。

 ぞくぞくとした感覚が背筋を這いあがって腰の奥がジンッと痺れました。


「な、なんですか、さっきの」


 今までなかった感覚です。

 まるで剥きだしの神経を撫で上げられたかのような、少し怖いくらいのそれ。

 でも彼は口元にニヤリとした笑みをつくる。


「お前を何度抱いてきたと思ってるんだ」

「え」


 困惑して見上げると唇に口付けを落とされます。


「抱くたびに俺の為の体になっていく。堪らないな」

「い、意味が分かりません……」


 でもどうしてでしょうか。嫌な予感がするのです。

 さっきの感覚もそう。太ももを羽のようにそっと触られただけなのに、なんとも言えないゾクゾクした感覚を覚えたのです。


「心配するな、意味ならすぐに分かる」

「分かるって、そんな、あっ、まって、やっ……」


 足の付け根をなぞるように撫で上げられました。

 それだけで私の性器が緩く立ち上がり、期待するかのように固さが増していく。

 たったそれだけの事なのに体が自分のものじゃないみたいです。


「あの、これはいったい……、こんなのおかしいです。あっ、もしかして、また妙な薬を使いましたか?!」

「まさか。使ってほしいなら使わなくもないが、そんな物いらないだろ」

「え、でも、それじゃあ」

「分からないか? お前の体が変わっていったんだ。俺がお前に作った性感帯の場所を教えてほしいか?」

「ハウストっ……」


 一瞬で顔が真っ赤になりました。

 耳朶まで赤くした私にハウストは目を細めます。

 そして熱の灯った耳朶を軽く弾くと、耳元に顏を寄せてきました。

 耳に口付けられ、耳穴に窄めた舌を入れられて背筋がゾクゾクしてしまう。


「あ、んんッ……」


 クチュクチュとした卑猥な音に聴覚を攻められる。

 くすぐったさと気持ち良さが混じりあった感覚。肩を竦めて身を捩るも、ハウストが追いかけてきてしまいます。


「みみ、いやです……っ」

「気持ち良くないか?」

「み、耳元で喋らないでくださいっ」


 声を上げた私にハウストが喉奥で笑いました。

 でもその笑う吐息さえも耳を刺激して体が小さく震えてしまう。

 ハウストは耳にちゅっと口付けると、そのまま耳朶を甘く噛んで、首筋へと口付けていきました。


「うぅ、ん……っ」


 首元に顔を埋められ、首の柔らかな肌を強く吸われます。

 ピリッと痛むそれ。きっと鬱血になっていますよね、明日は首元まで隠れるローブにしてもらわなければ。

 そんな思考の余所見に気付いたのか、ハウストが眉間に皺を刻んでしまう。


「考えごとか、余裕だな」

「ち、違います。きっと痕になっているでしょうから」

「そんなこと考える余裕があるのか。それは申し訳なかった」


 そう言って口元に笑みを刻みました。

 ちっとも申し訳ないなんて思ってない顔です。


「待ってください、余裕なんてっ」


 言い返そうとしましたが遮るように唇を塞がれました。

 ハウストの手が寝衣の薄い生地越しに私の脇腹を撫で上げて、胸へとたどり着く。

 薄い胸なのに揉むように手で這わされて、指先で突起を軽く押し潰されました。


「うぅっ」


 むず痒い感覚に唇を噛み締めます。

 でもハウストは突起を軽く抓んだり押し潰したりしながら、もう片方の突起に顔を寄せてきました。

 薄い生地越しに甘噛みされて強く吸われる。


「ンッ……」


 鼻にかかった吐息が漏れてしまう。居た堪れなさに顔が熱くなります。

 背筋を這いあがる感覚は紛れもなく甘い快楽で、お尻の奥がきゅっとするのが分かりました。

 はしたない、こんなの。愛撫の刺激に体が浮かされ、無意識に期待しているのです。

 しかも今、私の体は生地越しの愛撫に物足りなさを感じてしまっている。


「あの、ハウスト」

「なんだ?」


 胸の突起を口に含みながらハウストが上目に見ます。

 目が合って、居た堪れなくなって、結局なにも言えません。


「いえ、なにも……」

「そうか」


 ハウストはそう答えると何ごともなかったように愛撫に戻ってしまう。

 しかも素足を撫でる手も際どいところを這うばかりで、熱くなっている性器に触れようともしないのです。

 分かっています。あなた、分かっていて触らないんですよね。

 意地悪なそれにハウストを軽く睨むも、突起を強く吸われてぴくりっと腰が引きました。


「ぅっ……」


 太ももをもじもじと擦り、無意識に腰が揺れてしまう。

 その動きにも構わず相変わらず際どいところしか触らないハウスト。

 私はそろそろと手を伸ばし、太ももを這うハウストの手に触れました。


「あの、ハウスト」

「なんだ」

「……さ、触らないんですか?」


 おずおずと聞いた私に、ああそういえばと白々しくハウストは顔を上げました。


「なんだ、触ってほしかったのか。それはすまなかった」

「分かっていた癖に……」

「どうだろうな」


 ハウストは楽しそうに笑って言うと、ようやく突起から口を離してくれます。

 薄い生地越しに胸からお腹に唇を這わせていき、私の足をゆっくりと開かせていく。

 開いた足の間に体を割り込ませ、太ももの裏側に口付けを一つ。


「ンッ……」


 背筋がふるりと震えました。

 彼の目の前で私の性器が立ち上がり、先端から雫を零しています。期待にふるふると震えるそれに居た堪れなくなる。

 でも足を閉じることも出来ず、それどころか体は期待に熱くなっていくのです。

 ハウストは太ももを甘噛みし、そのまま舌を這わせて足の付け根に口付けました。

 この足の間で彼の動く気配。きっと次は性器に触れてくれるのではと期待しましたが。


「ひゃあッ!」


 高い声を上げてしまいました。

 彼は性器を通り越し、お尻の割れ目を指でなぞり上げたのです。

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