1月20日

 健康っぽく、朝食の数十分前に起床。


 朝食はしらす大根、豚汁、厚焼き玉子は甘いのと甘くないもの2種類。

 切り身魚の照り焼き、佃煮と漬物セットは壺いっぱいに入っていた。


 甘味は手作りの橙マドレーヌ。

 クッソ美味い。


 最後に温泉へ。


 体重測定。


 おぉ、減っとる。




 旅館を出る時、女将さんとニコニコした料理長らしき人が見送りに来てくれた。


《お泊まり頂き有難う御座いました。コチラ、お邪魔で無ければお持ち下さい》

「え、あ、ありがとうございます」

「海苔はうちの実家のなんですよ、米は妻の、女将の実家で……」


(ショナ君、これは?)

(大丈夫です、食べっぷりが良かったのでご挨拶にと)


(あら、ちょっと恥ずかしい)

(そうですか?嬉しそうですよ)


「あの、どのご飯も美味しかったです、ありがとうございました」


《いえ、コチラこそ。日帰りもやってますので、またお越しくださいませ》

「また来て下さい!」


「はい是非、また」


 旅館の人に挨拶をし、車に乗り込んだ。




 暫く車を走らせ、人目につかないところで都心の省庁前までと、魔王の空間移動を利用。


『《とうちゃくー》』

(カッコいい建物)

『ですよねぇ』


 立派な門をくぐった先には、真っ白い漆喰の大きな洋館。

 少し中に入ると日本庭園に小雪が舞って美しい。


 玄関は薄い色の木材が使われ明るく、華美な装飾は無いが落ち着いた雰囲気。

 土足で上がるのが勿体無い。


 格子柄の装飾が施された廊下を進むと、次はガラス窓の渡り廊下、真っ赤な絨毯の廊下。


 そして何故か右往左往させられ、ようやく辿り着いたのは突き当たりの部屋。

 程よく装飾が施された観音開きの扉。


「お久しぶりです桜木様」


 協会で会った内の1人、袴が良く似合う優しそうなオジ様。

 柏木 茂さん。


『お元気そうで良かったです』


 それとガーランドさんも、揃うと気迫が有るな。


(お久しぶりです柏木さん、ガーランドさん)

「お久しぶりです、以前より顔色が良くなられた様で」

『本当に。さ、立ち話もなんです。お席へどうぞ』


 促されるまま席に着くと、2人によってお茶とお菓子が用意されていく。

 従者ズは資料整理だ何だと忙しなく動いてる。


 芋羊羹と日本茶、羊羹は浅草のお店と同じ味な気がして何だかホッとする。

 うまい。


『では、始めさせていただきます』


 ジュラが進行役でこれまでの流れを説明していく。

 スクナヒコさん、えびすさん、突然の魔王来訪に、膜が脆弱である事等々。


 ショナや魔王が補足していき、今度は世界樹での話も終わると、質問タイムへ。


「後は…何かありますか?桜木さん」

(この国の世界樹に行きたいです)


「既に手配しておりますので、いつでも行けますよ。場所は、タブレットに」

(ありがとうございます。後、身分証って)


「はい、もう暫くお待ち下さい。他には有りますか?」


 そしてジュラの交代要員と、今日の宿泊先。

 それから身を守れる用の簡易で最小の武器。


(んー後は何だろなー……)


「思い付いたら都度ご連絡下さい、ご用意させて頂きます」

(ありがとうございます、お世話になります柏木さん)


「いえいえ、何時でもご連絡下さい」


『では、本日はここまでとさせて頂きます。桜木様、皆様、お疲れ様でした』


 柏木さんとジュラが出て行くと、ガーランドさんが近付いてきた。

 紺色の立て襟のワンピース、今日も柔らかな雰囲気で綺麗なおばちゃんよな。


『昼食はどちらへ?』

(未定です、魔王の子供達次第かと)


『そうですか…では、昼食をご一緒させて下さい』




 また長い廊下を歩くと、今度は円形の角部屋に案内された。

 可愛い日本人の子供、男の子と女の子が大きく分厚い本を読んでいた。


「ただいま、リサ、ルカ」


「「おかえり!」」


(初めまして、桜木花子です。お世話になってます)


 睨まれた、こっちに来て初めての敵意ビンビンかも。

 魔王の服を両端の2人がしっかりと握りしめ、口を真一文字にしながらコチラを見上げてくる。


「こら、止めなさい。この人は良い人ですよ?」


「もう!何でパパは直ぐに信じちゃうの!」

「僕らはパパと違って直ぐには信じないからね」


(賢い。素晴らしい警戒心、先ずは話をしよう)


『そうですね。では皆さん、食べたい物はありますか?ここら辺は美味しいお店が沢山ありますよ』


「「「オムライス!」」」


《ふふ、気が合いそうじゃのう》


 日本語、いつの間に。


「「なにそれ!」」

(どうぞ)


《ドリアードじゃ、丁寧に扱うのじゃぞ》

(西の、木の精霊なんだって)

「「へー!」」


 ドリアードを手渡した後、両手に抱えていた2匹にも紹介する様に促した。


『あい、ご主人の神獣なの』

《なの、名前はまだなの》

「「わあ!ぬいぐるみじゃないの!?」」


「はいはい、落ち着いて下さいリサ、ルカ。続きはご飯を食べてから」

「「はーい!」」


 ガーランドさんの案内で近隣の洋食屋へと向かった。


 途中の鰻屋を通り過ぎた時に、腹からデカイ唸り声が体内で響いた。

 子供達に笑われた。




 そうして省庁から数分で着いたのは、白い一軒家の洋食屋。

 ショーケースにはどれもボリューム満点で美味しそうなサンプルが並んでいる。


 店内に入りメニューを見ても実に豊富、いつもなら絶対迷う自信がある。


「コレとコレ(2色オムライスにエビグラタン)とコレ(エビピラフ)と(ミニハンバーグとエビフライのセット)と、それからコレ(デザートセット)冷たい紅茶で」


「「2色オムライスとリンゴジュース」」


「僕はサンドイッチセットを、温かい紅茶で」

『私はサンドイッチとケーキセットのハーフで、ホット珈琲をお願いしますね』


「「パパはデザートセットね」」

「はい、デザートセットに温かい紅茶をお願します」


 注文を終え双子に視線を向けると、また威嚇の表情で視線を返してきた。


 分かってるが、結構傷付くかも。


(で、リサさんとルカ君、信じない理由は?)


「こっちの人はイイ人ばかりだけど」

「あっちはイヤな人ばっかだった」


 マジで召喚者か、しかもこんな小さいのに。


(わかる)


「あなたは女だから」

「パパを取るかもしれない」


「パパが変わっちゃうかも知れない」

「嫌なパパになって欲しくない」


(なるほど。取りません、ちょっと借りるだけ。2人のパパのまま返す)


「あなたがどんな人かしらない」

「名前しか知らない」


(どんなんが何が知りたい?)


「パパをすき?」

「こどもはすき?」


(友達として好き、2人の事が1番大事なパパが好き。子供は…見てるのが面白いので、そこそこ好きだと思う)


「パパが消えたいって言うの賛成?」

「どう思う?」


(賛成。どうにかしたいと思ってるし、するつもり。でももし2人がパパに消えて欲しくないなら、2人が生きてる限り消さない)


「「それは大丈夫、パパには幸せになって欲しいから」」


(そっか、なら消すのがんばる)


「「ねえ、なんで小声なの?」」

(魔力を省エネ中)


「「少ないの?」」

(うん、溜めてる最中)


「「いたい?」」

(痛くないから大丈夫。食べて眠るばっかりで何も出来て無いけど)


「赤ちゃんみたい」

「大きな赤ちゃんだ」

(たしかに、でも自分でトイレいけるし、1人で夜にお風呂入れるぜ)


「夜のお風呂1人で?」

「頭洗うの怖くない?」


(怖いお話を聞いた後は、怖いから朝に入る。頭洗うのは顔上げて洗うから平気。下向いてると疲れる、髪が長くて重いから、こうやってワシワシすると怖く無い)


「たしかに」

「なるほど」


(トイレ怖い時は音楽を掛ける、電気付けまくって、ドアをちょっと開けとく)

「私もやる!ルカに外に居てもらうの」

「僕も!大人でも怖いの?」


(そら怖いよ、暗いのは、見えないのは怖い)


「「お兄さんも?」」


「え、僕も、怖いですよ。真っ暗な海で訓練した時は、ちょっと怖かったですね、底が見えなくて、1人ぼっちで」


「「(うわぁ、なにそれこわい)」」


『私も、こんなお婆さんですけれど、怖いですよ。真っ暗な森へ天体観測をしようと来たのに、急に1人が怖くなったりしますから』


「私達が怖いのは大人、人間、あっちの人が1番怖い」

「あなたが嘘を言ってるかも知れないって怖い」


「嘘か本当か分からなくて怖い」

「信じるのも怖い」


(良い魔法があるよ)

「桜木さん、それは」


《お待たせしました》


 サンドイッチに2色オムライスと紅茶が運ばれてきた、ティーポットで来たのがまた素晴らしい。


「「わぁ~」」


「リサ、ルカ、お話はまた後で、お食事にしましょう。お先にどうぞ」


「「「いただきます」」」


「「おいしー!」」


(なー、ソースうまいなー)

「私は白いのがすき!」

「僕トマトの!」


(外にあった茶色いのも旨そうよねー)

「あれからくないの?」

「カレーじゃないの?」


(あれは辛くないよー、ハンバーグのソースみたいなんよ)

「「今度パパに作ってもらうー」」


(いいねー、美味しいねー)

「「うん!」」


 次にエビピラフ、小さいエビたっぷりで上手い。

 完食すると次はミニハンバーグとエビフライのセット、大きなエビフライにはタルタルソースがたっぷり。


「桜木さん、エビ以外に好きなものって?」


(んー、イクラ、ジンギスカン、ビターチョコ、ハンバーグ、竜田揚げ、マグロの赤身と…)


「「ジンギスカン?」」

(ひつじ)


「「たつたあげって何?」」

(唐揚げみたいなやつ)


「「すきーハンバーグもすきー」」

(なー洋食屋さんは楽しいなー)


「「ねー!」」


 次にエビグラタンに向かう。

 きつね色のチーズの下はペンネマカロニ、ココにも小さなエビがたっぷり。


「さくらぎは猫舌ねー」

「ふーふーたいへん」


(そうなのよ、でも食べちゃう」


 最後にデザートセットが並び出す、魔王のデザートは双子が分けあ合って食べている。

 チョコムースにミルフィーユのセット、甘過ぎずとても美味しかった


 ついでにと、人数分のサンドイッチの持ち帰りを頼んで貰い、話を続行。


「「ごちそうさまでした、お話の続き良い?」」

(どうぞ)


「魔法のお話」

「良い魔法があるって」


(嘘か本当か見分けられる魔法、パパに掛けたけど効いた。使う?)

「「うん!」」


(じゃあ帰ってからしよう、他には?)


「「もどりたい?」」

(いやだな、ずっとこっちがいい)


「さくらぎも嫌なことあった?」

「痛いのあった?」

(うん、あった、病気とケガが多かった)


「ママ?パパ?」

「お友達?」

(違うよ、病弱だった、体が弱かった。直ぐに風邪を引いたり、熱を出したり、捻挫しまくり)


「「今も?」」

(ちょっとだけ)


「「ここ好き?」」

(いまのところだいしゅき)


「「あっちいや?」」

(イヤだねぇ、嫌な人が多いよね)


「「大人になっても?」」

(うん、大人でもイヤ)


「「そっか、戻さないでってさくらぎの分もお祈りしとくね」」

(ありがとう)


《そうじゃな、そろそろ昼寝をしに行こうぞ皆のもの》

「「おー!」」

「ガーランドさん、ドリアードさんがそろそろ出ようと」

(じゃの)


『では、お散歩しつつ戻りましょう』

「「はーい」」




 ショナは双子に魔法の事を忘れて欲しいみたいだが、そうはさせんよ。


「お帰りなさい桜木様」

(ただいま柏木さん)


「交代要員の件なのですが…」

(あ、ワガママ言って申し訳ない)


「いえいえコチラこそ…それで、エルフから選んでも宜しいでしょうか?」

(勿論、あ。ごめんガーランドさん、双子ちゃん達を部屋に)


『はい、送ってきますね、では』


「それと、はい、コチラが身分証です」

(おー、パスポート)


「宿泊先はタブレットに送っておきました」

(はい)


「悪魔文字の学習には許可が必要でして、今暫くお待ち下さい」

(はい、残念)


「それと、転生者様である加治田リズの件ですが、今晩は如何でしょうか?」

(うん、是非)


「それから武器なのですが、この小刀で宜しいでしょうか?」

(初武器)


《扱えるのかの?》

(初めて触る)


《心配じゃのう、後でコッチにも取りに来い》

(世界樹に?)


《うむ》

(追々な)


「それと、ホテルのチェックインまで暫くお時間がありますが、どうなさいますか?」


(ちょっとここでゆっくりしてても?)

「はい、では」




 また長い廊下をショナに案内され、ゆっくり扉を開ける。


 双子達は話し疲れたのか、爆睡お昼寝タイムを満喫している。

 昼の陽射しを後光にした魔王を真ん中に、鳥を抱えるリサ、竜を抱えたルカが両脇に華を添える。

 綺麗で可愛い、絵の様。


 勿論、タブレットで撮りまくった。


《まったく、うぬは魔王の何がそんなに良いのかの》

(イケメンで気が利いて優しくて気さく)


《ベタ惚れでは無いか》

(惚れては無い)


《なんなんじゃ》

(なんじゃろね。双子が起きるまで勉強する)

「何が知りたいですか?」


(憤怒さんて、おいくつか知ってる?)

「国の資料では……こちらです、凡そ100年程前に来られたそうです」

「そうそう、大体その位ですよ彼は。もう、私の手にも負えなくって」


(転移した祖父とかかも知れないと思うと、色々とこわいわな)

「マニュアルでもそうですね、召喚者同士や転生者が惹かれ合わない理由の1つですから」


(そう言えば、美醜の話しがフワッと終わってたな)


「世間的には、色々な意味で中身重視なんですが。ソチラ以上に整形が容易に可能ですし、何とも言えないんですよね」

「オーラ、遺伝子で惹かれる事が多いと思って頂ければ大丈夫かと」

(良い意味でも悪い意味でも、外見の扱いが軽いのね)


「そうですね」

「はなちゃんの好みの男性はなんですか?」

(男性とは限らんかも知れんよ)


「え」

「確かにそうですね」




 トントンと小さなノックの後に、ゆっくりと扉が開く。

 美しい細工の施されたカートを押して、ガーランド女史が静かに入ってきた。


(失礼します、ガーランドです)

(はいはい、どしました)


『起きてらっしゃいましたか、こちらターニャ達からです』

(封筒?写真だ)


『それから、桜木様専用の通信機です』

(お、ありがとう)


『国内のみでしたら安全です』

「使い方は僕がお教えしますね」


 昔の折り畳み携帯電話に似てるが、小さく薄くて軽い。


(ありがとうございます。それと…)


『双子の事ですね。健康ではあると思いますが、1度検査をさせて頂きたいですね』

(うん)

「私からも是非お願いします、ですが召喚者としては」


『はい、あまりに幼過ぎます。戸籍は普通の子として登録させて頂きます』

(それと病院は…北の病院が良いと思う、ガーランドさんとこの)

「そうですね、起きたら話してみましょう」


『では、今夜には帰りますが、決まりましたらいつでもご連絡下さい。では』


(ショナ、写真のデータを現像したい)

「はい、コレに接続して、画像をこうすると」


(おぉ)


 写真を現像し終え、休憩。

 写真良いな。


「はなちゃん、今日は何かご予定は有るんですか?」


(特には)

「でしたら折角都会に来たんですし、少し買い物をしませんか?」


 先ずは買い物リストの製作へ。


 下着、服、靴、カバンだ財布だ……。

 後パンツな、誰が揃えたんだこんな可愛いの。


(この下着とかって、誰が選んでくれたの?)

「リズさんです、同じ世界の方が1番だろうと。昔からのルールでして」


(なるほど、絶対会わねばな)

「ご不便が?」


(いや)


 流行を知る為にもとファッション誌を電子書籍で読んでみた、どっかで見た様な感じ。

 流行は循環するとも聞いたし、まぁ、適当に選んでも問題は無さそう。


「「パパー」」


「はいはい、どうしましたか?」

「「おトイレ」」


「はい、一緒に行きましょうね」

「外に従者が居ますので、案内をお願いして下さい」


「はい」


(にしても、殺戮者に見えない)

「ですね」


(双子は知ってるの?)

「らしいです」


(超絶デカイ反抗期が来そう)

「そうなんですかね…僕、反抗期が無かったタイプなんで、ピンと来ないんですよ」


(大丈夫、絶対来るから、間違いない)

「じゃあ、親に覚悟しといて貰い…あの、桜木さん、本当にあの魔法を?」


(おう、がんばる)

「そこを頑張らなくても他に方法が」


(あるの?)


「いえ、ですが」

(異議は却下、死なないでしょう)


「死なないからってそんな」


「「ただいまー」」

(おかえり、魔法のお話しようか)


「「うん!」」

(嘘つくと痛くなる魔法、パパの小指にアザがあるでしょ?嘘つくとそうなる魔法。ショナが出来る。ワシにする)


「「ショナお願い!」」

「その前に、パパの小指は今は治ってくっついてますけど、魔法が効いてるか確認する為に嘘をついたから切れて取れちゃったんです。パパは痛いの慣れてるから良いけど、はなちゃんはパパより痛いの慣れて無いだろうから、パパは反対です。切断は経験無いでしょう?はなちゃん」


(無い、脱臼なら。関節のココ、骨と骨が離れるのが脱臼ね)


「「痛かった?」」

(治す時が痛かった。グってグンって、捻挫も治す時が痛い)


「「痛いの嫌じゃないの?」」

(痛いのは嫌い)


「「でも良いの?」」

(最初の嘘以外つかないし、平気)


「「パパみたいに効いてるか確認して良いの?」」

(良いよ、治してくれるでしょショナ)


「はい、勿論です。医療班もココには待機してますが」

「「いたいのは?」」

「勿論、治るまでそれなりに痛いですよ」

(ごめんな魔王)


「大丈夫ですよ、私は不老不死で直ぐに治りましたし。でも、はなちゃんは人間、痛い時間が長いと思いますよ?」


「どうする?」

「どうしよう」

(大丈夫、魔法の泉を知ってるから直ぐに治る)


「でも」

「いたくするのは」

(麻酔するか、ショナそういうの無い?)


「ぇ……」

(出しなさい)


「はい…緊急用のですが」

(よし、宜しく。コレで痛くなくなるからもう大丈夫)


「本当に良いの?」

「後で痛くなるかもだよ?」

(疑われるのも、信用出来ないのも辛いのは知ってる。全部直ぐ終わるし、大事な事だからやる)


「はなちゃん、有難いんですが何もそこまで」

(悩む時間は長いと辛い、痛くないし平気だって)

「桜木さん、申し訳ないのですが。省庁内でその魔法は使えないので、何処か場所を変えないと」


(そうか…じゃあ)

「「今度にしとく」」


(そっか、残念。楽しい場所でやろうかと思ったのに)


「「どこ?」」


(病院って知ってる?)

「「びょういん?しらない」」


(そっか、ガーランドさんが近くに居る場所なんだけど、パパと見に行ってみない?)

「「ガーランドさんの?きょうかい?」」


(そうそう、協会も公園も図書館もあるとこ。今ならまだ2匹の殻が見れるかも。魔法の事も相談出来るよ)

「「いってみたい!」」


(じゃあ、魔王と相談してみて)

「「うん、パパ、いついける?」」

「いつでも良いですよ」


「「今日は?」」

「良いですね、でもまずはガーランドさんに聞いてみましょうか」


「「あ、びょういんてどんな場所?」」

(具合が悪いのを治す所、ご飯も美味しい、優しい人がイッパイ。早く大人になれる)


「「絶対いく」」

「じゃあ早速、ガーランドさんの所に行きましょうね」

「内線で人を呼びますんで、少し待ってて下さいね」


「「はーい!」」


 ただの調度品だと思っていた、ダイアル式のアンティークな電話機。

 ショナが使いこなし、通話した。


 暫くしてジュラが到着すると、魔王と双子は出て行った。


「ハラハラしました、あんな駆け引きしないで下さい」

(駆け引きじゃない、マジ、本気)


「双子が引いてくれたから良いものの、体がいくつあっても足りなくなりますよ、大事にして下さい」

(してる。ドリアード、双子に付いてく?)

《うむ、そうするかの》


(体はどうすんのさ?)

《手を貸せ、窓を開けよ、分裂する》


(あいよ)


 恐るべきスピードで体積を増やし、アッと言う間に分裂。

 コロン、と同じサイズのエアプランツが出来上がった。


《どうじゃ、凄いじゃろ!》


(凄いけど、ちょっとキモかった)

《な?!》

「モリモリ生える姿は圧巻でしたね」


《もう!美しく褒めんかぃ!》

(手がちょっとキモかった、モゾモゾして)


《きぇー!!》

(おもろ)




 暫くしてバタバタと廊下を走る音がしたかと思うと、勢い良く扉が開き、双子達が駆け寄ってきた。


「「ねー!ねー!びょういん行って良いって!」」

(やったね、いつ?)


『今すぐに、善は急げと申しますし、明るいうちに案内をと思いまして』

「リサ、ルカ、病院では走らないで静かにするんですよ」


「「はーい」」

(ドリアードも一緒に行くって)

《よろしくたのむぞ》


「「はい!」」

(魔王、行きたい場所があるので途中まで一緒に行こう)

「はい」

『では、私が柏木さんに伝えておきますね、皆さんはそのまま裏口へ向かわれて下さい』


(ありがとうジュラ)

『いえいえ、行ってらっしゃいませ』


(うん、またね)

『はい』



 そうして裏口まではあっという間だった、ガーランドさん達とはココでお別れ。


(あの、ガーランドさん、ありがとうございます。これをターニャ達に、飴と写真です)

『はい、確かにお預かりしました』


「「バイバイまたねー!さくらぎー!」」


(バイバーイ)


「はい、ではまた後で、お迎えに行きますね」


 裏口で魔王に空間を開いて貰い、森の中へ入った。

 潮風の匂いを辿り森を出ると、崖には素木で出来た鳥居と長い階段があった。


「お邪魔しまーす」


 木造の長い階段を登る、霧で先が良く見えない。


 高い、怖い。


 祭壇の様な広い場所に辿り着くと、顔を隠した巫女が1人居た。


《あちらへどうぞ》

(ドリアードも良いですか?)


《えぇ、どうぞ》


 彼女の指す先に、雲間に浮かぶ世界樹が見えた。


 今度は大きくなった竜種に運んで貰う。


 上陸すると、また違う巫女が案内してくれた。


《さぁ、こちらへ》


 右手には綺麗な小川が流れ、木々や草達が鬱蒼と繁っている。


 素木の建物を数件通り過ぎ参道を進むと、巨木の根元に着いた。


『我はクエビコ、宜しく頼む』


「宜しくお願いします、桜木花子です」

「従者のショナです」

《ドリアードじゃ》


『あぁ知ってい…どうした?』


 彼が樹なのか樹の一部なのか、手や背中、腹部まで巨木に融合している。

 真っ白い肌、真っ黒な長い髪も、樹に吸い込まれる様に繋がっている。


 大きな黒い瞳は真っ直ぐと、コチラを見ている様な、焦点が少し合っていない様な。


(あの、体は大丈夫なんですか?)

『大丈夫、元からこうだ気にするな』


(そっか、なら良かった)

『ん。魔力が足りていないのだろう、水に浸かれ、小さき神獣達もだ』


(はい)

『《はーい》』


《我はソコが良いんじゃが》

『あぁ、好きにすると良い』


 ドリアードが差した場所に彼女を置いた、木陰が揺れる青々とした苔の上。


 小川に手を入れる、欧州の世界樹と同じで暖かくて気持ち良い。

 離れて様子を見ていた巫女達が回りに御簾を立ててくれたので、服を脱いで入った。


《どうぞ、ここの桃です》

『食べながらで構わん』

(…うっす)


『先ずは医神か?』

(うん)


『スクナヒコはどうだ?』

(あ、前に会いました、はい、お願いします)


『では呼ぼう。スクナが来るまでに、何か聞きたい事は?』

(能力、主に使える魔法とか)


『お主の力は雷電だそうだ』


(マジかよ…)

『久しく聞かん魔法だが…喜ばんのか?』


(制御できる気がしない)


『そう、そこが問題だ。扱いが難しいと聞く』

(ですよねー)


『だが制御できれば、だ』


(ぅうんん)


《お、悶絶しおった》

『何か問題か?』

(だって理系じゃないし、数学苦手、知識も何も…)


《知識だけでは操れんぞぃ?何だってそうじゃよ、素質、感性、感と勘の良さが重要じゃ》

『だそうだ』

(いやでも、他にない?)


『夢見の力、以上だ。それ仮の杖だ、持っていけ』


 巫女の持ってきた指揮棒程の長さの素木、荒削りだが細長く持ち易い。

 マジで魔法の杖っぽい。


(ありがとう…でもどうしたら)

『ワシは口伝知恵しか持たん、実技を教えてくれる者に会いに行くが良い』


(ふぇい)

《まあまあ、一服どうぞ》

《桜木様、お茶を》

《献上品なのですよ》


(ありがとう、飴はどうでしょう)

《ありがとうございます》

《いただきますわ》

《可愛いわね》


(ショナもどうぞ)

「あ、はい、ありがとうございます」


《綺麗ね》

《美味しいわね》

《ふふふ、食べるのが勿体無いわね》

(ねー)

「はい」






『おい、スクナが来たぞ、起きろ』


「…へい、ほい、はい…」


『やぁハナ』

(どうも、スクナヒコさん)


『スクナで良い、無理をしたな、そのままで良い』

『膜を治してやってくれ』

《のう、前に会ったんじゃろ?どうして治さなかったのじゃ?》


『治してと言われねば治せない、それに最初は様子見をしていた。ハナの膜はかなり薄い、薄いだけかと思ったが、それだけでは無かったようだ。魔力の大きな流動で破れが分かり易くなったけれど、細かく小さくあちこち破れている。治すには場の魔力も願いも必要、分かるだろう、ほいほい治せない』


《うぅ…我も薄いだけだと思ったが。にしても、だって、お主は医神じゃろ》

『ドリアード、請われねばならないんだ。現にそちらでは失敗しただろうに』


《でもぉだってぇ》

『だからいつ呼ばれても良いように、準備していた』


(あの時は医神だって知らなくて、ごめんねスクナさん。お願いします)


『よい、だが目は専門外で完治は出来無い、どうする?』

(目?大丈夫です、取り敢えず出来るだけ全部治して下さい、お願いします)


『分かった【ゆっくり、休め、深く、深く】』






『ハナ、目を覚ませ。終わった、もう普通に話せる』


「おはよう…ありがとうスクナさん、でもまだダルい」

『魔力不足だ、万能薬は沢山ある』


「おぉ…有り難く、頂きます」

『ふふ、良薬なんだ、我慢してくれ』


「へい」

『名付けに耐えうる量の筈だ、足りなくなれば呼ぶと良い。いつでも、何処でも』


「うん、ありがとうございます」


「あの、桜木さん、着替えて貰ってもいいですか?バイタルチェッカーを」


《全く、便利じゃったり不便じゃったり》

『神も精霊もそんなものだろう』

「ねー、面白い。はいショナ、お待たせ」


「はい、少し待って下さい……はい、終わりました、魔力以外は安定しましたね」


「次は、エリクサーの儀式が待ってるのか…」

「お夕飯、バイキングですよ」


「ちょっとがんばる、桃のお代り下さい」

《はい、ふふ》


 本当にマズイ、いつか美味しく感じる日は来るのだろうか。


 佃煮の瓶1つ、桃をいくつか平らげ、貰った薬の半分を飲み干した。


「ご馳走様でした…クエビコさん、あの子達に、双子達に神獣は?」

『居らん、その予定も無さそうだ』

《じゃの》


「多分なんですけど、転生者に近いので、居ないのでは?」

「あー、確かに」

《我が一緒じゃ、それで充分じゃろ》

『そうだな』


「戦わなくていいんだね」

「勿論です」


「良かった、うん、良かった…あ、今何時?」

「20時前です、どうしました?」


「買い物、それと魔王が」

「連絡はしてありますし。買い物は開いてるお店がまだありますから、大丈夫ですよ」


「良かった、よし、帰ろう」

「はい」


「ありがとうございました、お邪魔しました」

「お邪魔しました」

《またの!》


『あぁ、またな』

『うん』

《ふふ、またいらしてね》

《うふふ、またね》

《またお越し下さい》


 ツルツルの竜に抱えられ、森の端に着陸すると魔王が既に待っていた。

 もうマジ忠犬じゃん。


「待たせたか」

「お帰りなさい、予定より早く双子達に追い返されたので、月見をしてました」


「ただいま、月?」

「ほら、綺麗ですよ」


「おー、本当に」

「本当に綺麗ですね」

「でしょう、あっちの病院では曇ってて見えなかったんですけどね」


「そっか、どうだった?」

「良かったですよー、結界の解除に時間が掛かってしまって大変でしたけど」


「ははは、ウケる」

「私が入れた時には既に一通り見回っていたそうで、逆に子供達に案内されました。大層気に入ってくれたようで、今日はお試しで泊まりだそうです」


《今はもう部屋で休んでおるぞ、しこたまはしゃいでいたからの》


「魔王、2人はもう寝てるって」

「はしゃいでましたからね、皆さん本当に良い人ばかりで、助かります」

「桜木さんがいつも抱えてるクマさんも、病院の方からですよね」


「そうそう、すべすべでたまらんの」

「そうしたか、それなら肌触りの良いパジャマも買わないとですね」


「いいね、でもご飯はどうしよう」

「今ホテルに行けばビュッフェスタイルで食べれます、ゆっくりしててもお店は開いてますよ」


「ご飯にします」

「ホテルですね、はい、どうぞ」




「マジでここ?」

「はい…ショナ君、合ってますよね?」

「はい、ここです」


「豪華過ぎ」

「要人なんですから、格安は無理です」


「ひゃい」


 ロビーの天井は高く、豪華なシャンデリアが煌めいている。

 床に敷かれた絨毯はふかふかで、梅の柄が華やか。


 ショナが鍵を受け取ると、そのまま食事会場に向かった。


 音楽の流れる落ち着いた雰囲気の会場には、アルコールを楽しむ人や食事を楽しんでいる人、そして沢山の食事が並んでいた。


「どの位食べて良いの?」

「勿論限界までですよ」


「やった!魔王はどうする?」

「配膳しますよ、ゆっくり食べて下さいね」


「ありがとう」


 ぬいぐるみの様に静かな2匹をすぐ横の椅子に置く。

 何故か、誰もぬいぐるみに気を留めない。


 先ずは魔王と2匹を置いて、真っ先にお寿司へ。


 海老と穴子、赤身にネギトロを中心に、箸休めでは納豆の細巻き。


 体が冷えそうだったので、けの汁、ペンネアラビアータ。

 特に気に入ったのは出来立てのローストビーフのマッシュポテト添え、次点で大ぶりの魚介の入った餡掛け焼きそば。


 デザートはチョコレートフェアが開催されていて、甘過ぎなさそうなのを少しだけ。


「もう良いんですか?」

「うん、一通り食べれて満足。ご馳走様でした」

「はい、ではお買い物ですかね。良いヘアブラシを買いましょうね、はなちゃん」


 ダボダボの服で助かった、お腹パンパン。

 預けてあったコートを羽織り、改めて夜の街を歩く。




 映画で見る様な洒落たガス灯風の電灯、常緑樹の街路樹。

 道路は煉瓦張り風のフラットな歩道、良く整備されていて段差は殆ど無い。


 交差点では背の低い錆色の鉄柱が歩道と車道を分けている、青信号になると自動で鉄柱が地面に収納される。


 冬の冷たい匂い、吐く息が白い、夜空には所々に灰色の雲が見える。


 備品の手袋はサイズが合わないので、鳥類をカイロ代わりに抱えて歩く。

 竜は魔王に抱っこされている。


 本当に、元の世界とは違う、テクノロジーが違いすぎる。

 人種の配分も何もかもが目新しい。


「さ、ココです。遠慮なさらず何でも買って下さいね」


「どう見てもド〇・キホーテやん」

「それが元だそうで、転生者様の発案です。他のお店が閉まっている時間は、ココで代理販売を行ってるんですよ」


「シャンプーも洋服もか」

「はい、布団も靴も何でもです」

「その方は商才あるんですねぇ、今や各国に必ずありますよ」


「そうですね、国からかなりボーナスを頂いたとか」

「わお」

「さ、一番上から回りましょうね、はなちゃん」


 煩雑に品物が沢山積んであるワケでもなく、整然としたコンパクトな百貨店。


 各階には男女の警備員、下着や靴売り場には計測販売ロボット、ソルトちゃんがサイズを図り、オススメをも目の前に陳列してくれる。


 あまりにスムーズで、うっかりホイホイと買ってしまいそうだ。


「礼服用のパンプスは1足は持っていて下さいね、何があるか分かりませんから」

「へい」

「はなちゃん、あそこのみたいに可愛い靴も1足位は良いんじゃないですか?」


「いい、いらん。このブーツと運動靴、パンプス、スリッパ、以上だ」


「次は服ですね、礼服は2着、冠婚葬祭用を」

「はいよ。ソルトちゃん、冠婚葬祭用と普段着用の暗い色で動き易い、ゆったりした服を宜しく」

 《はい、少々お待ち下さい》


「ショナ、ソルトちゃん欲しい、可愛い」

『ぶー』

《ぶーぶー》


「いやね、君達も可愛いけど違うのよ、違う可愛いなのよ」

「連れ歩くんですか?」


「いんや、お世話してもらう」

「それは僕が」


「違うんだよ、ロボットにお世話されたいのさ、アンドロイドだともっと」

 《お待たせしました、コチラはオススメです》


「ありがとうソルトちゃん。コレ、コレ、コレと」

「お金は心配無いですから、もう少しお洒落な服も」

「そうですよ、はなちゃん」


「今度ね」


 《更にオススメがございます。傾向から選んだ、靴下と肌着、ハンカチです》

「ありがとうソルトちゃん、コレ、同じの7枚づつ」


 《コートは如何ですか?》

「コートは今着てるのでいいや、後は…」


 《カバンや財布等の小物は如何でしょうか?》

「いいね、それから寝間着と…膝掛けも、コレみたいなスベスベ、持ってきて」


 《了解です》


 結構買った。

 もうコレは、夢でも妄想でも無いな。




 次は、日用品の階へ。


「後は、シャンプー等は、どんな匂いが良いですか?」

「せっけんとかサボンの匂い、で通じる?」

 《了解です》


「お化粧品は良いんですか?はなちゃん」

「お化粧出来ない」

「僕や従者がしますから買いましょうね」


「ふぇい」


 化粧品は試しもせずに、バカバカ買われた。

 怖いわこの2人。


 お供物用のお酒や食べ物はたっぷりと、一応は選んで買った。

 なんなら唯一率先して買った。




「お疲れ様です、次は雑貨の階に行きましょー」

「なんね」

「髪留めに鏡や櫛ですかね。折角、綺麗な髪の毛なんですし」


「髪留めだけで良いよ、櫛は備え付けので」


「まぁまぁ、見るだけでも行きましょう、はなちゃん」


 半地下の階には、沢山の正方形のガラスケース。

 小物や雑貨が所狭しと詰め込まれていた。


「たまらん、可愛いがいっぱいだ」

「でしょう、子供達が喜びそうな物ばかりですねぇ」


 シンプルな半月形のつげ櫛、可愛い小瓶、綺麗なガラス細工の箱、燭台、小さな花瓶、サンキャッチャー、花の形の置物。


 手に取って眺めていた物、視線を止めた物全てが買われてしまった。


「何で買っちゃったのよ」

「衣類代がかなり浮いたので。それに、遠慮してばかりだからですよ、こうでもしないと買わないじゃないですか」

「ですねー、うんうん。良い買い物が出来ましたねー」


 やっと帰路へ。




 街灯の合間、薄暗い夜道にあったのは小さな手作り蝋燭の屋台。

 行きには無かった筈。


 透明な蝋で出来たガラスの靴の蝋燭は、細い芯が柄になっていて細工が細かく美しい。

 乳白色の満月や蓮の花、蝶と椿、非売品の藤の花の蝋燭は特に美しかった。


 思わず何点か見とれていると、あっと言う間に買われた。


「また買って」

「非常用の品ですし」


「でも良い匂いですし、使うのが勿体無いですよねぇ」

「ね」

「だから非常用なんですよ、満月は使ったほうが綺麗だそうですけど。他に何か買いたい物はありますか?」


「ない、マジもういいです」




 ちょっと忘れていたが、凄いホテルに泊まるんだった。


 コレはもう、妄想の範囲を完全に超えている。

 室内は大きな窓にダブルベッドが2台、ソファーにテレビに冷蔵庫、普通に暮らせるわ。


 でも、コレでセミスイートだそう。

 空気清浄機のイオンの匂いが良い匂い。


「一応安全ですけど、窓には行かないで下さいね。飲み物も僕が用意した物だけで」

「はーい。ショナ君、ホテルのタブレットってコレで良いんだよね?」


「はい、どうしました?」

「洗濯したいんだけども、一部は手洗いを自分でと」


「でしたら僕が操作しときますから、仕分けしたり下準備をお願いしますね」

「へい」

「手伝いますよ。はい、はなちゃん、さっきの可愛いハサミですよ」


 暫くするとソルトちゃんの様なルームサービスロボットが、ワゴンを押してやってきた。

 名前はシュガーちゃんだそうだ。


 ワゴンには洗剤以外にも靴の消臭剤や防水スプレー等が積まれてやって来た。


「サービスが充実し過ぎてて怖い」

「何処もこんな感じですよ、桜木さん」


「もっと怖いわ」


 今日買ったばかりの洋服や、今までの洗い物はランドリーサービスへ。

 靴の手入れやその他の下準備は魔王に任せ、今度は車で省庁別館、開発部へ向かった。


 転生者に会えるらしいが。




「加治田リズ、今年で6歳」

「桜木花子です、21歳です。遅くにありがとうございます」


 時間はもうそろそろ23時。

 黄色いフリフリのパジャマを着たリズちゃんは、茶色い瞳に茶色い髪、ゆるふわショートカットの可愛いらしい女の子。


「すまんな、こんな時間しか空いてなくて。俺は32で死んだプログラマーだった、そこんとこ宜しく」

「ウッス」


「東京出身か?」

「ウッス、知事は女性っした」


「はー、ベル〇ルクはどうなった?」

「まだ途中ッス、新作出した」


「ハンターは」

「休載中」


「はぁ~、プ〇キュアは何代目だ」

「見てないっす」


「ヘ〇シング」

「新作書いてる」


「どんな」

「異世界転生モノ」


「まじか」

「那須与一とか織田さんが」

「あの、リズちゃん?相手の方が格上なんだから、少しは」


「あ、パパさん、お気になさらず」

「そうそう。で、何だ」


「いや、世間話をしに」


「どんな」

「んー、今さっきみたいなのとか」


「ヲタク」

「うっさいチビ」


「うっさい、パパみたく大きくなる予定じゃい…何か聞きたい事があるんじゃないのか?」


「実は…パンツのチョイスが可愛いって褒めてやろうと」

「ごめんなさい、やめてください」


「半分は嘘です。安心したくて、現実だって、異世界だって、確認しまくりたくて」

「何が不安か」


「皆が優し過ぎる、そして自分は無能。だからもう、全部が不安」


「あぁー、だが今日更新されたデータじゃ、雷電使いなんだろ?今では古く珍しい魔法。そのせいで資料が殆ど無いのが残念だが」


「うわぁ…文献無いとか…頭も良く無いし知識もそんな無いし、運痴やし」

「気にするな、俺もだ」


「ココでプログラマーなんて勝ち組じゃないっすか」

「C言語なんて何も役に立たん」


「女子のパンツ選ぶ才能があるじゃないっすか」

「お、やんのか小娘」


「お、やりますか先輩、魔法使えないの知ってるんすよ」

「それなー、今はお前もだろ」


「もーね、本当に困っちゃう」


「まぁ、気長にやろう」

「無理」


「なんで」


「何か、早く何かしないといけない気がする」


「勘は、良い方なのか?」


「どうだろ…金の絡まないクジ運は良いけど、デカいぬいぐるみ当てるとか…アヒルの雛当てるとかなら…」


「絶妙な特性だなぁ…」


「ね…モフモフなー…」


「…どした?」


「すまん、急に、眠くて」

「何、末っ子って皆こうなの?」


「なんで知ってるの」

「資料で読んだ」


「うーん、ギブ、またくる」

「はいはい、またな、お子ちゃま」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る