楽しいから笑うのか、笑うから楽しいのか

 今日も今日とて眩しい日差し。キラキラと眩しく光る青空を見上げて、私と従兄は二人、いつもの居間で何をして遊ぶかの話し合い。

「今日は何するー?」

「そーですねー……」


 結局話し合いの末、飽きずにいつもの缶蹴りをやることにした。従兄と二人、外に出ようと靴を履いているタイミングで、後ろからお母さんに声をかけられる。

「お母さん、今日はおばあちゃんのお手伝いするから。たまには弟の面倒見もお願いしたいんだけど」

「わかったー、一緒に缶蹴りやるー!」

「……危ないことはしないでね?」

「大丈夫!隠れるだけだから!」

 ――……そうして決まった、まだ幼い弟の缶蹴り参戦。


 履きかけていた靴を脱いで、私だけ一度家の中に戻る。居間にいた弟を連れて、先に表に出ている従兄のところへ向かうため、弟と一緒に靴を履いて表に出た。私自身、弟の事は大好きだし、一緒に遊ぶのも全然苦じゃない。

「……とは言ってもな……」

 如何せん、まだ弟は小さい。一緒のルールで遊ぶことは不可能だ。

「ま、いいか。お豆さんルールで」

 独り言を呟きつつ、弟と手をつないで従兄の元に行く。

「お待たせー」

「いいよー。で、どうする? 弟くん」

 弟の方に目をやりつつ聞いてくる従兄。従兄は普段、自分のお姉ちゃんにケッチョンケッチョンにやられているからか、私たち姉弟がこっちにいる間、私よりも率先して弟の面倒を見てくれる。たぶん、男兄弟が出来たみたいで嬉しいんだと思う。弟も弟でなんだかんだ『にいちゃん!』って言ってくっついて回るし。だから一緒に遊ぶこと自体は、私も従兄も何の問題も抵抗も無い。


「お豆さんルールで行こうかなと」

 従兄にそう相談すると、『お豆さん……?』って言われたので、こっちではそういうふうな呼び方しないのかなと思って説明する。

「小さい子用のルール。今日は、弟は鬼でも隠れる方でも好きな方にくっついて行ってOKにする。で、弟1人は危ないから、選ばれた方の人は弟と絶対一緒に行動する」

「あー、なるほどね。いいよー、そうしよっか!」


 鬼を決めるためにジャンケンをすることにして、従兄と二人、ジャンケンをする。先に鬼になったのは従兄の方だった。

「隠れるのと探すの、どっちやりたい?」

 弟に聞くと『かくれる!』というので、まずは私と弟のペア。

「じゃ、数えるよー。いーち、にー、さーん……」

 従兄が数え始めたのを確認して、弟と二人手をつないだまま、従兄の姿が確認できる範囲の隠れ場所を探す。

『車の裏が一番いいかな』

 そう思って弟と二人、車の影に身を潜めた。

「しーっ!だからね」

「しーっ!」

 弟と二人、小さな声で人差し指を口の前に立てるジェスチャーをする。弟は一緒に遊ぶのが楽しいのか、ずーっとニコニコしている。我が弟ながら、めちゃくちゃカワイイと思う。


「いくよー!」

 従兄が宣言をして、缶の位置から少しずつ離れていく。その様子を見ながら、ソワソワと落ち着かない私は、弟が隠れているのに飽きないように『そこ見えちゃう、もっとこっち』なんて言いながら、少しずつ隠れている場所をずらしていく。


 まだ、従兄と缶の距離が十分じゃない。もう少し、もっと――……

「あー! みーっけ!!」

 その言葉にうっそ!?と思いながら、だけどそんなことを言っている暇はない。

「ちゃんと捕まって!」

 弟をすぐにおんぶする。弟はいつもの事で慣れているから、私がしゃがんで背中を見せればひょいっと乗っかってくる。……大概、乗っかってきた弟が首を思いっきり絞めてきて(弟に悪気はないので怒りはしない)、グエッってなるまでがテンプレだ。


 先に走っていく従兄の背中をダッシュで追う。……まぁ、普段自分一人だけでも従兄に足の速さでは絶対に勝てないから、本当に形だけ追いかけてるだけになるんだけど。

「はい、二人ともみーっけ!」

 そう言いながら完を先に踏んだ従兄は、私たちの方を見て笑っている。背中の弟も、遅いとはいえ自分よりは速く走れる姉はある意味でアトラクションだから、つかまりながらずーっと耳元でケラケラ笑っている声が聞こえている。私も二人の笑いにつられて、負けているのに笑ってしまう。

「おんぶでダッシュは疲れるー!」

 そう言いながら弟を地面に降ろそうとする。だけど弟は今のダッシュが面白くて仕方なかったようで、降りようとしない。一方的に私の首が絞まるだけなので、諦めて弟を背負い直した。


「じゃ、鬼、交代ねー」

「おっけー」

 そう言って今度は従兄と立場を入れ替える。弟はまだ私の背中から降りようとしなかったので、そのまま背負って鬼をやることにした。

「じゃ、数えるねー。いーち、にー、さーん……」

 目を瞑って私が数え始めると、弟も少しずつ覚え始めている10までの数を一緒に言い始める。

「「よーん、ごー……」」

 自分一人で数えるよりもゆっくりと10数えて『いくよー!』と声をかけた。少しずつ缶から離れてあたりの様子を伺う。と、開始3秒。

「にーちゃん!」

 弟が建物の影を指さした。あ、しまった。と思ったけど。

「おりゃー!!」

 従兄がそれはもう全力ダッシュをしてきて、だけど流石に距離的に無理があった。罪悪感に苛まれつつ、先に缶を踏む。

「……みーっけ」

 そう言ってから、先に謝る。

「ごめん、目隠しするって教えてなかった!!」


「……じゃ、改めまして。もう一回」

 今度は弟にちゃんとルールを説明して(と言っても目瞑るんだよ、とかそういうレベル)、仕切り直してもう一回。弟が今度は従兄と一緒に行きたいというので、私は一人で数え始める。

「いきまーす。いーち、にー、さーん……」

 10まで数えて『いくよー』と確認の合図。返事も無いので目を開けて、周りを見回した。と、今度聞こえたのは『ジャラジャラ』という鎖の音。あー……、そっちにいるのね……。

 缶から離れてさくらのいる方へと向かう。と、やっぱり見えたのは、柱の陰に従兄と弟の影。

「みーっけ!」

 そう言って缶の元に走っていって缶を踏む。……一回目と言い、二回目と言い、なんか、ちょっとなんか……。

「あー!弟くん背負ってダッシュはきついー!」

 少し遅れて缶のところに来た従兄は、そう言いながらも笑っている。……弟を背負ってもそれだけ速く走れるの、羨ましいな、なんて思ったり。弟は無論、従兄の背中でケラケラ笑って、この三人の中で一番楽しそうだ。そんな二人を見て、一瞬だけ缶蹴りの結果にモヤッとした気持ちもすぐに無くなる。

「じゃ、次、鬼交代ねー!」


 そんな風にして三人で。おばあちゃんから『お昼できたよー』って呼ばれるまで飽きずにずーっと、ケラケラ笑いながら缶蹴りをし続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る