花火は正しく、適切に
今日も今日とて晴れ渡っている夏空。お昼ご飯を食べ終わって元気を回復している……もとい、力を有り余らせている従兄と私は居間で二人、窓の外を眺めていた。
「これから何する?」
私が聞くと従兄は『そうだなぁ……』と腕を組んで考え込む。それからふと思い出したように『あれやろう!!』と叫んだ。
「昨日買った、蛇玉と煙玉!」
花火と言えば夜のモノのイメージがあるけど、昼間にやるものがあることを知ったのは今回の花火の買い出しの時だった。
「ねぇ、これ。やったこと無いけど、どんなのかな?」
――どの花火が良いか、選んでおいで
そう言って『おばあちゃんは夕飯の買い物を済ませてくるから』と、従兄と私を花火コーナーに置いて自分は食材の売っている方へと行ってしまった。
一昨年くらいに『ある程度大きくなったし、やってみてもいいよ』と大人たちから許可が出て、その年に初めて打ち上げ花火を選んで、従兄のおねえちゃんも巻き込んでやってみた。だけど存外響く大きな音に(田舎の夜は本当に音が良く響く。逆を言えばとにかく静かなのが当たり前なのだ)結局『夜に打ち上げ花火をやると近所迷惑になる』と、打ち上げ花火を夜にやるのは禁止令が出た。同様の理由でねずみ花火も夜は禁止令が出ている。……その分、カラスを追い払える……とかいう理由で、昼間にやることは大目に見てもらえることになったけど。
だから昼間から花火をやることに関しての抵抗、みたいなものは感じなかった。だけど今、目の前にあるこの“蛇玉”と“煙玉”とは……?
「……なんかこれ、昼間にやるっぽくない?」
横で説明を読んだ従兄がそう言った。そして二人、なんだか興味が出てしまって、買い物かごにその二つを入れたのだ。
「あー! いいね、やろう!」
私もそれに賛成した。そうと決まれば話は早い。従兄はバケツに水を汲みに、私は仏間へマッチを拝借しに行く。
従兄は自分の家なのに、仏間が苦手、らしい。かくいう私もその部屋が得意ではないけれど、夏の昼間の明るさであればまだ我慢が出来る。仏さまに手を合わせて、心の中で『マッチお借りします!!』と手短に伝えて一箱拝借する。外に向かうと、従兄は既にバケツに水を張り終わって私を待っていた。
火の準備と水の準備。それらが終わると、まずは蛇玉からやることにした。
「これに直接、着火しちゃって良いんだよね」
従兄が一円玉くらいの大きさの、少し厚みのある黒いそれを一つ手に出して、コンクリートの上に置いて着火する。するとモクモクと煙と少しの火を上げながら、炭のようなものが蛇状の形となってコンクリートの上に這い出てくる。
「……え。これ、だけ?」
私の拍子抜けした声。
「……たぶん」
従兄も拍子抜け、って感じ。二人そろって顔を見合わせる。お互い無言ではあったけど、確実に『来年はこれ、無いなー……』という空気。
「……まぁ、気を取り直して」
従兄が仕切り直して、今度は煙玉に着火した。こちらはピンポン玉くらいの大きさのものに導火線が付いている。そこに着火をすると、玉の色と同じ色の煙が出てくる、そういう感じの説明だった。
「よっと」
無事に着火したものをコンクリートの上に置く。すると予想以上に煙が出てきた。
「おぉー!!」
二人とも、こちらにはめちゃくちゃ反応した。これだけ煙が出るとなると、やることと言えば……
「……ふっふっふっ……。貴様が我々の邪魔をしているやつらか……」
……従兄の方がわずかに早くスイッチが入るのが早かった。
「……お前、まさか……!」
そして始まる、謎設定の“正義のヒーロー”ごっこ。
「あーあーあー……なにかと思えば……」
しばらくしてあまりの煙に驚いたのか、おばあちゃんが様子を見に来た。だけど私と従兄二人そろって、もうそれどころではない。
「くらえ!ビームッ!!」
「ぐはっ……、やるな……しかし負けはしない……!」
お互い小学生あるあるの『もはやどっちも全然死なない』戦いが始まっていた。もうこうなると、第三者が止めなければどちらも止まらない。呆れ顔のおばあちゃんが『一回休憩!お茶タイム!!』と叫ぶまで、二人そろって永遠にビームだのキックだのパンチだの、大騒ぎをしていた。
「ふーん、なるほど。そういう花火もあるんだ」
夕方になって従兄のおねえちゃんが部活から帰ってきてから、従兄と私で蛇玉と煙玉の話をする。従兄のおねえちゃんもやったことが無かったみたいで、『まだ残ってる?』と聞いてきた。
「うん。まだ残ってるよー」
「え、姉貴、これからやるの?」
「え、ダメなの」
「いえ……」
そして従兄と私が昼間同様に花火の準備をしていると、従兄のおねえちゃんは打ち上げ花火も一本だけ持ってきた。その為にわざわざチャッカマンも持っている。
「打ち上げ花火もやるの?」
私が聞くと従兄のおねえちゃんは怪し気に笑う。
「中学生の本気、見せてやる……!」
この後、蛇玉と煙玉にして私たちとほとんど同じ反応を示したおねえちゃんは、『こっからが本番だぜ』と言って、ジャガイモを掘り起こした後の畑へと向かった。
「ちゅーもーく。良い子は……悪い子も、マネしないように!」
そう言って、ジャージを手の先いっぱいまで伸ばして、その手に打ち上げ花火を持ったかと思うと、反対の手にはチャッカマン。そして打ち上げ花火を地面に刺さず、手持ちのそのまま着火、した。
「えー!?」
「わー!?」
「ギャーッ!!」
おねえちゃんの手から離れた花火は畑に落ちて、その場で破裂した。従兄と私が唖然とする中、おねえちゃんは一人叫んで『手が焦げたー!!』と騒いでいて。……後で聞いたら、火薬の墨で汚れただけだって。危ないよ……。
こうやって少しずつ覚えていく、渡っていい橋とダメな橋。
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