第13話 姫の呪いと変態のぞき魔

近くでまじまじとカノン様を見る。ほんとに美しいお姫様だ。




 「私と同い年でそんなにすごい魔法使いなんて! いろいろお話聞かせてください」


 「は、はい。僕でよかったら……」




 「ふふ、さっそく仲良くなってくれてよかったよ。ペルーサ、ちょっといいかな?」


 「はい?」


 国王が僕を呼び、小さな声で話し始めた。


 「ペルーサ、君ならカノンの目を治せるんじゃないかと思ってな。診てやってくれないか?」


 「……はい。出来る限りのことはさせていただきます。」


 「ありがとう。よろしく頼むよ」




 「カノン様、ちょっと失礼します」


 僕はカノン様の目を【診察】した。


(これが呪いなのか……全然分からない)




「カノン様、治療魔法を使ってみてもいいですか?」


「はい。お願いします。」




【治療魔法】




 オリビア様が光に包まれる。


 「おお! すごい! こんな魔法も使えるのか」


 驚く国王。しかし、治療魔法は全然効いていない……


オリビアさんの弟オリバーを治せたことからカノン様の目も治せると思っていた。


 しかし、呪いというものは厄介なものなようだ。




 「すみません。僕には呪いは治せないみたいです……」


 「そうか……まあ仕方ない。ありがとうペルーサ」


 残念がる国王。僕も落ち込んでいた。


 レベル100になりなんでもできると自惚れていたのだろう。




 「ありがとうござます。すごい魔力を感じましたよ」


 寂しそうに微笑むカノン様。




 「ディランにも診てもらいましたが呪いをかけた魔獣を倒さないと呪いは解けないみたいなんです」


 「そうなんですか……その魔獣というのは?」


  自分でも不思議なくらいカノン様を助けたいと思っていた。その気持ちがなんなのか、僕にはわからなかった。




 「デーモンです……」


 「!!」


 デーモン、僕でも知っている最強の魔獣だ。間違いなくS級魔獣だろう。




 「どうしてデーモンのダンジョンなんかに?」


 「私は古代文字を研究しているんです。前にデーモンのダンジョンの古代文字を見に行って、もちろん奥までは行っていません。入口の古代文字を見ていたのですが、その時にデーモンに出くわしてしまって……護衛の魔法使いのおかげで命は助かりましたが」




 運は悪かったのだろう。それにしてもデーモンからカノン様を救うなんて流石王宮の魔法使いはレベルが高いようだ。




 「……カノン様、僕、デーモンを倒します。必ず倒します」


 自分でもびっくりするくらい力強く宣言できた。カノン様の呪いは僕がといてあげたい。




 「……うれしいです。ペルーサ、また私に光を見せてください……」


 カノン様は泣き出してしまった。


 「頼むぞ。期待している……」


 国王も涙ぐんでいた。







 カノン様の部屋を出る。


 僕は国王にディランとのダンジョンへ行く話を引き受けた。100レベルでも戦い方を知らない僕がいきなりデーモンのダンジョンは厳しいだろう。弱いダンジョンからクリアしていこう。


 国王は大変喜んでくれた。






 図書館に戻るとオリビアさんが怒って待っていた。


 「どこへ行っていたんだ! 30分で戻るといっただろう!」


 「ごめんなさい……」




 オリビアさんに今あった話をした。




 「そうか……姫様と会ったか。ペルーサがダンジョンへ行くというのなら止めないよ」


 「すみません。せっかく守ってくれていたのに」


 「そんなこといいんだよ。しかし、やはり心配だな……よし! 私も一緒に行こうかな?」


 「え? オリビアさんも?」


 「ああ、やはり戦士団に入るには実戦経験を積むのが一番いいと思うんだ」


 「そうですか。じゃあ一緒にお願いします」




 「とりあえず部屋の戻ろうか」


 「……もう少し図書館で勉強していってもいいですか?」


 「ん? もちろん大丈夫だが」




 僕は図書館中の呪い関係の本を集めた。




 「おお! さっそく研究熱心だな。まさか姫様に惚れたんじゃないだろうな?」


 茶化すオリビアさん。


 「……」


 「えっ? ほんとにそうなのか?」


 「う、うるさいなぁ! 読書の邪魔しないでくださいよ!」


 「!!! そ、そんな……ペルーサが恋なんて……まだ子供だろ……」




 ブツブツ言いながらオリビアさんは部屋へトボトボと戻っていった。ちょっと悪いことをしてしまったかな……




 僕は呪いの本を熟読する。しかし内容が難しくなかなか進まない。


(はやくカノン様を治したいのに……これじゃいつになるんだ……まてよ?)




 僕はある魔法を思い出した。




【速読】




文字を早く読める魔法だ。この魔法自体はそれほど難しくなく、使える魔法使いも多い。


僕は本を開き全体を眺める。すると


「! すごい! 一瞬でこのページが頭に入るぞ」




【速読】は使う魔法使いのレベルに応じて読むスピードが変わるようだ。


僕は次々に本の内容をインプットしていく。











数時間後、僕は呪い関係の本をほぼ読み終えた。


やはり強い呪いを解くには呪いをかけた魔獣を倒す以外に方法はないようだ。




僕は本を棚に戻す。


 このペースなら数日で魔法の本も読破できそうだ。




 僕が図書館を出ようとしたとき、部屋の隅で本を読んでいる女性に気づいた。


 その女性も【速読】をしているようで次々とページを進めていく。


 (速い! あの人もかなりのレベルだな。さすが王宮の魔法使いだ)




 ◇




 部屋に着くとオリビアさんが剣幕な様子で僕を待っていた。




 「ペルーサ君。ちょっと話があります」


 いつもと違う言葉遣いがより恐怖を引き立てる。




 「ペルーサ、君は姫様に恋心を抱いているのかね?」


 「……いや、その、自分でもよく分からないんです」


 「そうか……まあ恋をするのはいいことなんだろう」




 オリビアさんは王宮の戦士で忠誠心が高い。もしかすると僕みたいな人間がカノン様に好意を抱いていると知ったら黙っていないのかもしれない。普段はおかしな人だが、締めるところは締めるのだろう。




 「すみません。オリビアさんは気分良くないですよね……僕みたいなのがカノン様に近づくのは」


 「そんなことはどうでもいいんだが」


 「え!?」


 「問題はここからだ。その……なんというか……君は女性に……興味があるのか……?」


 「え?」




 オリビアさんは顔を真っ赤にして質問してきた。


 「……まあ、なくはないですね……男ですし…」


 「そうか……」


 ますます顔を赤らめるオリビアさん。




 「あの、それがどうかしたんですか? 城内の規律だとかカノン様に近づくことを怒ってるんですよね?」


 「違う! そんなことはどうでもいいんだ!!」


 (!? どうでもいい!?)


 「私はその……弟がいるせいかペルーサはまだ子供だからそういう事に興味がないと思っていたんだ……」


 「ああ、確かにお風呂に遠慮なく入ったりしてましたね」


 「……まさか、君は……私の裸をそういう目で見ていたのか……?」


 「えぇ……まあ、そりゃ多少は……」


 「!!!」オリビアさんは今日1番の真っ赤な顔になった。




 「信じられない!! 変態め! エロガキめ! 出ていけ!」


 涙目になりながら僕を叩いてくる。


 「ちょっと待ってくださいよ! オリビアさんが勝手にやってたんでしょ? それにここは僕の部屋ですよ!?」


 「うぅ~~とにかく! 今日から変態とはもう一緒に風呂など入らん! 私をそういう目で見るな!」


 「勝手だなぁ」




 「なんてことだ。もう嫁に行けん……こんな変態だと知っていれば……」


 ……変態って。









 オリビアさんはのぞいたら切り刻むと言い残し、1人お風呂に入る。


 もうラッキースケベがないと思うと少し寂しいのは嘘ではない。






 僕は今日読んだ本を思い返していた。


 強力な魔獣には経験を積まなければ倒すことはできないだろう。


 【鑑定】【治療】【速読】などいくつか使いこなせているがもっとバリエーションを増やさないといけないな。




 僕は移動魔法の練習をした。ゴーレムのダンジョンから抜け出した【瞬間移動】だ。


 この魔法は行ったことある場所に瞬間移動することができる。


 (人がいるところにいきなり僕が瞬間移動すると驚かせてしまうな)




 僕はとりあえず部屋の中で瞬間移動を繰り返した。


 『ヒュン! ヒュン!』


 ベッド、訓練場、キッチンを行ったり来たりする。


 こういう細かい動きが今後の戦いには必要になってくるのであろう。


 しかし、思ってる位置に移動できない。スピードを上げると精度が落ちてしまう。




(もっとだ、もっとスピードを上げないと実戦じゃ使えないぞ)




僕はスピードを上げる。


 『ヒュン! ヒュン!』




 その時、




(ん? ここはどこだ?)


 部屋とは違うムワッとする湿度を感じた。




 目の前に見覚えのある2つの肌色の球体。




 「……おい、ペルーサ」


 視線を上に移すと鬼の形相のオリビアさん。


 どうやら誤ってお風呂場に瞬間移動してしまったようだ。




 「!!! 違うんです! デーモンを倒すために……」


 「ほー、訓練か。さすが恋する男は練習熱心だなぁ……」


 「ははは、それほどでも……」


 「風呂をのぞいて倒せるデーモンがどこにいるんだ!! この変態が!!」




 僕はパンチをくらい外に投げ出された。


 おそらくデーモンすら一撃で倒せる強烈なパンチだった。

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