第12話 図書館と美しい姫

「はぁはぁはぁ」


 すごい。対峙して初めてオリビアさんの、いや剣士のすごさを知った。


 魔法で肉体強化してもオリビアさんの攻撃を受けるだけで精いっぱいだった。




 「いやー、ありがとうペルーサ! 良い訓練になった! また頼むよ」


 (もう無理ですよ……)




 「すごいですね。オリビアさん。当然ですけど歯が立ちませんよ」


 「ははは、そりゃ私は剣だけを10年以上毎日振っているんだぞ? 君には負けられないよ」


 「そうですけどすごかったです。これで35レベルなんて……」


 「それを言ったらペルーサは100レベルだろ? もっとすごいじゃないか」


 (そうだよな……もっと魔法を使いこなせれば……)




 オリビアさん相手ではフルパワーの【肉体強化】は流石に使えない。本気の【肉体強化】した力はどれくらいなんだろう……?




 「でも初めてにしては筋が良かったぞ? しっかり剣を学んでみたらどうだ?」


 剣か……考えたこともなかったな。


 「もっと剣の腕を上げて訓練に付き合ってもらわないとな!」


 「はは……」











 訓練を終え、2人で遅めの朝食をとる。


 頼めば城の調理人が朝食を持ってきてるようだが、作った方が早いとオリビアさんが作ってくれた。シンプルな朝食だがとてもおいしい。女性っぽいところもあるもんだな。




 「午後から城内を案内するよ。行きたいところとかあるか?」


 「んー、図書館ってありますか?」


 「もちろん! 国で1番の図書館があるぞ。なにを調べたいんだ?」


 「ちょっと魔法のことを調べたくて」


 「勉強熱心だな! さっさと食べて行こうか!」


 「はい。お願いします。」




 「あっ、食器はペルーサが洗ってくれよ?」


 「……」




 ◇




 ほんとに立派は図書館だった。何千、何万冊の本がある。


「うわぁ……どれから読めばいいんだろう」


「ははは、とりあえず魔法関連の本はこのあたりみたいだな。私は読書は苦手だからな、このあいだに調査団の倉庫のチェックでもしてくるよ。30分ほどで戻ってくる」




 僕は初心者向けの魔法の本をとる。魔法を覚えたての子供が読むような内容だ。レベル100になってからこんな基本的なことを勉強するなんてな……


 僕は黙々と本を読み続ける。読書は昔から嫌いではない。




「おや? ペルーサではないか?」


 聞き覚えのある声に呼ばれて顔を上げる。


「!! こ、国王!?」


 なんと、何冊か本を抱えた国王が立っていた。僕はとっさに立ち上がろうとする。


 「よいよい、そのままで。部屋は気に入ってもらえたかな?」


 「は、はい。立派過ぎるくらいです……あっ、報奨金もあんなにありがとうござます」


 「気に入ってもらえてよかった。あれは当然の報酬だ。コレの代金も払わないといけないくらいだよ」


 国王は首にぶら下げた【石化の首飾り】を笑顔で見せてきた。




 「僕も気に入ってもらえてよかったです」







 国王は難しそうな呪い関係の本をたくさん抱えている。




 「ああ、これか?」


 僕の視線に気づいた国王。


 「ずっと呪いについて勉強していてな」


 「そうなんですか。あっ、そういえばディランさんも呪いに詳しいとか?」


 「そうなんだよ。呪いのスペシャリストとして最近に雇い始めたんだ」


 (呪いか……誰かに呪いをかけたいのかな……?)


 「君は呪わないから安心してくれよ?」


 国王がいたずらに笑う。


 「は、はぁ」


 こんな時、僕は苦笑いしかできない。




 「読書中悪いがちょっと付き合ってくれるか?」


 「? はい。構いませんが」







 「君のような魔法使いに一度診てもらいたかったんだよ」


 国王に連れられ城の奥の部屋に案内される。




 「ペルーサは何歳だったかな?」


 「15歳です」


 「ほう。なら同い年だな」


 「?」




 部屋に入る。本や文献のようなものがたくさん並んでいる。見たことない文字だ。


 真っ白な猫が積み上げられている本の上で昼寝をしている。




 窓辺に誰か立っているようだ。


 「カノン、おはよう」


 国王が話しかける。


 「おはようございます。お父様」




 光を背に美しい少女が立っていた。どこか儚く、陰りのある美しさ。


 長い黒髪の華奢な少女だ。




 (お父様……? この人はお姫様ってことか?)




 「私の娘、この国の姫のカノンだ」


 「そちらの方は?」


 「あ、えっと、ペルーサと申します!」


 僕はとっさに跪く。


 なんて綺麗なお姫様なんだろう……僕は緊張しながらカノン様を見る。




 カノン様は跪く僕を全く見てみない。


 (あれ? やっぱり王族の方は僕なんて眼中にないってことか……?)




 「初めまして。カノンと申します。そこにいる猫はペットのミネットです」


 カノン様は僕を見ずに話し始める。


 「すまないなペルーサ。カノンは目が見えないんだ」




 「! そうなんですか……」


 「数年前、古代文字にの研究でダンジョンへ行ったときに魔獣に呪いをかけられてしまってな。それから目が見えていないんだ……」




 (呪い……なるほど、それで)




 「カノン、ペルーサは1人でゴーレムを倒したほどの魔法使いなんだぞ。それにお前と同い年だ」


 「まあ! ゴーレムをお1人で?」


 なにやら興奮しているカノン様。


 「それはすごいですわ! ゴーレムといえばA級ダンジョンのボス。それをお1人で倒すなんて!!」


 どうやらカノン様は国王譲りのダンジョンオタクの気質があるようだ。




 「それでカノン、今日はお土産があるんだぞ」


 国王が【石化の首飾り】をカノン様の首にかける。




 「これはもしや? 幻のアイテム【石化の首飾り】ではありませんか!?」


 ますます興奮するカノン様。




 「ペルーサからのプレゼントだよ」


 「いいのですかペルーサ!? こんな貴重なものを」


 「あ、どうぞどうぞ、もう国王にお譲りしているものですし」


 「うれしいですわ……」


  (こんなに喜んでくれるならよかった)




 その時、カノン様が僕に飛びついてきた。


 「ありがとうござます。ペルーサ! 大切にしますね!」


 「!!!」


 (だめだ……最近オリビアさんとの生活で女性への免疫ができていたと思ったが……)




 赤面する僕を国王は微笑ましそうに眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る