第5話 少年は戻らない

少年は戻らない


 合宿五日目。七日目は掃除と帰宅で費やされるので練習できるのは実質あと二日しかない。


「ヒーローはいつだって遅れてくる」

 深山市の小学校は商店街の先にある高校のすぐ隣にある。隣と言っても大きな建物が建ち並ぶ高校は小学生にしては長い直線だ。西日の照らす通学路を歩いていると、金網越しに高校生がグラウンドを走っていた。レンガ造りのような学校は、子ども心に憧れがあった。だからその前を走る高校生たちは輝いて見えた。

 金網越しに一人の教師と対峙した、その小学生は、かけられた言葉に胸が躍った。まるで自分がヒーローになって遅れてやってくるかのような言葉は、初めての挫折を味わっていた小学生を立ち直らせるには充分だった。

 くさくさしていた気持ちが晴れ渡り、その日の帰り道は走って帰った。高校生のまねごとをしていたのだ。サッカーのスパイクをランドセルに結びつけた少年はそれからも、高校の前を通るたびにその教師に話しかけた。

 といっても、ただいま帰りました、の一言ではあるのだが、いつもその教師は「ヒーローのご帰還だな」と言ってくれた。当時の彼には「ご帰還」の意味などわかりはしなかったが、良い意味だととらえていた。

 だが、いつしかその教師は姿を現さなくなった。もう二度と会うことはないのかな、なんて思っていた。

 今日も一人で高校の前を歩いていた。西日が強く照らす道には何も怖いものはなかった。たとえ、本当の自分がヒーローではなくても、その少年にとってのヒーローの言葉があれば、いつでもヒーローになれた。


 清水かえでは、まるで映画のシーンを切り取ったようにベッドから飛び起きた。二段ベッドが三つ並ぶ部屋の一番真ん中の上段。本来かえではこの合宿に参加するようなレベルの学生ではないのだが、彼がインターハイに出ることを拒んだのだ。

 リレー走がいい、と言い続けて早、五ヶ月が経とうとしていた。リレー走でなければ大会には出ないと言い続けた時間と同じだった。

 懐かしい夢の欠片はすぐにかえでの記憶から消えていく。だが実際に見た景色だ。すぐに思い出すことができる。かえでは目覚ましの前で、寝息やいびきのひどい部屋を見回して、もう一眠りしようとベッドに体を沈める。

 それにしても久しぶりに見た。かえでは夢の余韻を引きずって甘い眠りに向かう。初めて会ったのは六年前くらいだろうか。ちょうどかえでは九歳、小学四年生の初夏の頃だ。

 四年生以上が所属できる、小学校の部活動が当時のかえでは嫌でしょうがなかった。原因はこれから先もつきまとい続ける、あの人に他ならない。それでも辞めなかったのは、ヒーローという言葉のおかげだった。

 かえではもそりと体を動かした。眠ろうと思っても、先の夢で興奮したのか眠気はやってこない。今日もどうせ、つまらない百㍍走だ、とため息をつく。どんなにつまらなくあっても、リレー走を走るためには百㍍走を頑張るしかない。二百㍍走でもよいが、リレー走は一人あたり百㍍だ。

 合理主義者、というよりは、ゴールまでの最短距離を愚直に突き進むタイプの人間だった。だが、現状、最短距離でゴールまでいくことはできていない。なぜならあの人がいるからだ。

 かえでは良い夢に影が差し込むのを感じた。自分で思い出しておいて、その影に腹が立つ。日はすでに昇っているが、目覚ましにはあと一時間ある。このむかむかを抱えて過ごすには、一時間は長い。

 眠るのを早々に諦めたかえでは、ベッドから降り、部屋を抜け出した。早朝練をしないのは、暑い夏に夏ばてしないよう、しっかり休眠するためであった。だが、禁止はされていない。シューズを持って、出入り口に向かう。

 早朝の館内は、まだ誰も起きている様子はなかった。自分だけの特別なもののような気がして、かえでは眩しくすでにじりじりと地表を焼く太陽すら気持ちよく感じた。わずかに風が吹いている。雲は移動が速く、水色の絵の具を水で薄めずにのばしたような空をすいすい進む。

 グラウンドに一番乗り。

「おはよう」

 かえでが意気揚々とジョグで体をほぐそうと走りかけたところを遮るようにして声がかかった。聞き覚えのある声だった。いや、聞きたくない声だった。無視して走ってしまっても良かったが、条件反射のように一度止まった足を再び動かすには、鉛のように重かった。

「・・・・・・はよーございやーす」

 渋々、挨拶し返す。縦にひょろ長い男は、かけていた眼鏡をそっとシューズ入れの上に置いた。どうやらこの男も走るらしい。

「ついてこないでくださいよ、健介さん」

「そんなこと言われてもな」

 トラックは一つしかない。タイミングをずらして走ろうとしたが、巻内健介は走り出さなかった。それに焦れたかえでが走り出すと、なぜか健介も走り出す。

「一緒に走らないでくださいよ」

「人がいると楽しいだろう」

 かえでのこめかみがひくりと動く。楽しいだけで走ることのできる健介の言葉が皮肉にしか聞こえない。人が必死こいて走っているのに、健介は楽しんでいるのだ。

 清水かえでと巻内健介は遠い親戚だ。その内訳は説明が難しく、同じ血が流れているとは言えない。深山市の墓園の付近一帯には巻内一族が多く住んでいる。巻内さんでは通じないので、いつも下の名前や家の場所で呼び合う集落だ。

 その分家の分家の分家ほどの関係である清水家は、駅の北側に居を構えている。かえでが健介と遠い親戚であると知ったのは、小学六年生のころだった。

 巻内家に出会ったら必ず挨拶をしなさい、という言葉の通り、小さいながらも序列のある一族だ。それゆえに、かえでは健介を無視できない。気になる存在、というよりは、気にならないわけにはいかない存在なのだ。

 健介に対して、かえでが敬語になるのも、そのせいであって、本来のかえでは先輩であろうが噛みつくくらいの気性だ。それは先輩に止まらず、教師、コーチ、監督の誰にも同じだった。

「リレー走、走ってみないか?」

 かえでが隣の存在など消してしまおうと必死になっていたところに、健介が甘い誘惑を持ちかける。かえでがずっとリレー走を志望していたのは前述の通りだ。

「俺の後釜を探しているんだ」

(要はこの人の代わりですかよ)

 かえでは思わず舌打ちしそうになってやめた。かえでにとって、健介は邪魔な存在だ。かえでがほしいものをすべて健介がかっ攫っていく。好きな人も、最新のお菓子も、おもちゃも、サッカーのレギュラーも。

 くさくさしていた子ども心が蘇ってくるようだった。

「健介さんの代わりには走らない」

 かえではそう言って、走るのを止めた。自分の実力で、もぎ取るものでなければ意味がない。かえでは、ちょうど一周したトラックから離れようとした。

 突如、体が後ろに引っ張られた。いや、前へ進んでいたので、いきなり腕を掴まれて体が後ろに傾いたのだ。ひょろいイメージがつきがちだが、健介は意外と力が強い。離せと睨み付けるが、健介は嫌だと首を振った。

「俺の代わりに走れ、なんて言っていない」

「はぁ?!」

 つい声を荒げてしまった。元来、直情型の人間だ。イライラが募って、小爆発を起こした。

「俺は、俺が抜けた後にリレー走メンバーに加わる人間を探しているのであって、俺の代わりに二走を走るやつを探しているわけではない」

 反論できずにかえでは口ごもった。難しいことはよくわからないのだ。健介の言う、代わりと後釜の差など、かえでにはあってないようなものに感じられた。

 健介の表情はあくまで真剣だった。健介が手を抜いていないことなど、知っていたが、それでも楽々と自分の前を走る健介は腹立たしい。自分から目をそらすことはできなくて、健介の丸い瞳をじっと見つめた。

 百㍍の自己ベストタイムは、かえでの方が速い。秀よりも速く、十秒二八。それでもかえでは健介に勝った気がしなかった。それもこれも、健介がリレー走に選ばれたからだ。

 なぜ志望している自分ではないのか。そればかりが悶々と心の中に暗雲を垂れ込めているのだ。多田の元で習いたい、多田の元でリレー走がしたい、自分をヒーローにしてくれた多田のために走りたかった。

「清水、何にこだわってるんだ?」

(こだわりなんて、ただ俺は、あの人に・・・・・・)

 どうして自分は多田に選ばれないのだろう。リレー走をしたい、と何度も多田にかけあっていた。多田からも考える、と言われている。でも声をかけてきたのは、天敵の健介だった。

「・・・・・・考える」

 やっと出てきた言葉は、ゴールまでの最短距離ではなかった。


 味の薄い昼食は、すでに小中学でも体験していたことだったので、市内生のかえではご飯が進むふりかけなどを持ち込んでいた。特に注意は受けなかったので、暗黙の了解なのかもしれない。

 だが、かえではいまいち食が進まなかった。それはそうだ、目の前を健介に占拠されたからだ。食堂には、六人掛けの机と、四人がけの机があり、席順は決まっていない。だいたい仲の良い連中でつるむのだが、かえでの周りにいた他の三人は後ろの四人席に移動させられている。四人席を二人で占拠することはそれだけで目立った。健介の後ろには、リレー走のメンバーもいる。

「食欲がないのか?」

 健介もここの食堂の味を覚えていたらしく、調味料などをテーブルに備えている。中に激辛唐辛子の一味があって、この男の味覚がまだおかしいことに気づく。一気に食欲が失せた気がしたが、食べないことには午後練習がきつくなる。仕方なく、持っていたふりかけをたっぷり白米の上にのせた。

 白米に関してはおかわり自由だ。白米自体に上限はあるが、おかわり回数には上限がない。好きなだけで食べて良い。だが、おかずは余り物を奪い合うしかない。どんなにおいしくないからと、白米のみを食べ続けることはできない。

 かえではいつもなら白米大盛り三杯くらいは食べるのだが、まだ一杯目だった。対して、健介はもう二杯目を食べ終わるところだった。まるで粘土を食べているような気分で、白米にふりかけでも、おいしいとは思わなかった。

「なんで嫌われているか知らないが」

 無自覚さに腹が立つ。

「俺はお前のこと、好きだから」

 男に男が気持ち悪い。かえでは無言で目の前の男を睨み付けた。だが眼鏡の奥には好意を感じない。それがとても自然な感情で、特別表に出す必要がないような。

 好意を向けられても困るが、と視線を白米に向ける。健介は前言を撤回するつもりはないのか、おかわりをしに席を立った。不意に健介の後ろにいた秀と目が合う。今は勝てるような気がしなくて、目をそらした。同じ学年の秀と涼はかえでが苦手とする人間だった。人畜無害そうな亨も爪を隠しているような気がして、あのメンバーに加わることを考えると、胃が重くなる。

 健介が何を思ってかえでを推薦しようとしているのか、わからなかった。リレー走が都幾川スプリントで表彰されてから、転向の意思を掲げる者は多かったはずだ。もちろん、かえでは入学の時から多田に迫っていた。最初は選ぶ権利がないと断られていたが、今は保留まで進展した。

 かえででなくてもよい、そんな場所に興味がなかった。

 だが、リレー走を一刻も早く走りたい気持ちはあった。多田に選ばれなくても、それで良いじゃないか、と言う自分がいるのをかえではわかっていた。意固地になって、せっかくのチャンスを逃してしまうかもしれないことも、頭の中にはある。

 多田はあの日、自分をヒーローに変えてくれた頃の多田ではない。ずっしりと肩まで重くなったような気がした。午後を走ることができるだろうか。ついに手の中から箸が落ちた。茶碗を持っていた手もテーブルの上に置かれて、けだるさにかえでは小さくため息をついた。

「体調が悪いのか?」

 きっと走ろうと思えば、走ることができた。だが、かえでは小さく頷いた。サッカーを嫌いになったように、このまま陸上も嫌いになるのだろうか。目の前に座る健介を睨み付ける気力もなく、のろのろと立ち上がった。 突如、胃からせり上がるものを感じて、口元を抑えた。のど元まであがってきたものを飲み込む。かえでは鋼をまとうことによって、強靱さを得ていたが、実際のかえでは鋼でできているわけではない。酸で喉が焼けるような感覚がして、もう何度目かわからない挫折の時がきたのだと、かえでは感じた。

 体は頑丈にできているが、心は意外と脆い、そんな自分を自覚していた。そこからどう回復していくか、それも心得ていたのだが、もうヒーローだという呪文は効果をなさなくなった。早朝のすがすがしい気持ちなど、もうない。

 いっそ、お前はダメだと言われた方が楽になるな、とさえ思っていた。だが吐き気はおさまらず、かえでは食器も片付けずに食堂を飛び出して、すぐ横のトイレへ駆け込んだ。

 奥に長いトイレの一番手前のドアを開けて、そこに飛び込む。少しばかり的を外して、便器に吐瀉物がひっかかった。さっき食べた昼食が飛び出していく。目の奥から涙が流れた。泣きたくて泣いたわけではなく、生理的に流れてくるものだった。

 ぜぃぜぃ、と荒く息を吐く。すべて吐き終えても、胃がひっくり返りそうだった。とはいえ、もう出す者もないので、便器を備え付けのアルコールで拭いて、水に流す。

 喉の奥が痛くて、すぐにでも水を飲みたかった。だが、まだ食堂にはリレー走メンバーがいるだろう。行きたくない気持ちが先行する。いつまでもうじうじとそこで悩んでいると、不意にドアがノックされた。鍵があいていることは見てわかるだろう。出ないでいると、もう一度ノックされた。

 他の便座が埋まっているとは思えなかったが、いつまでも占領しておく訳にもいかず、かえでは渋々ドアを開けた。そこにはひょろ長い男が立っていた。申すまでもなく、健介だ。昔、祖父がかけていたような、上だけに黒い縁のあるフレームで、一見すると古くさいのだが、健介には似合っている。

 健介に毒づくことはできないので、心の中で舌打ちをしておく。昔からの因習にまみれた体を憎く思う。こんな時くらい一人にしてくれ、と思うがこんな時だから天敵である健介はいるのだった。

「水。飲んだ方がいい。俺からもらうのが嫌なら他のやつに渡しておくけど」

 差し出された水を拒むか迷って、結局喉のヒリヒリ感に耐えられなかった。手を伸ばしてペットボトルの水を受け取り、すぐに冷たい水を喉の奥に流し込む。口の中も気持ち悪かったので、うがいをしてトイレに流す。 うがいから振り返ると、そこには健介はいなかった。まるで幽霊でも見てしまったかのようだが、不思議と気味の悪さはない。お礼を言いそびれてしまった。本家の人間にお礼を言わないなど、清水家ではあり得ない。

 いやでも健介のところに行かなければならない用事ができてしまった。胃のひくつきは収まったが、鬱屈とした気持ちは晴れはしない。大丈夫か~と間延びした声がトイレの入り口から聞こえてきた。がらがらと痰のからまったような声で、返事をすると先ほどまでかえでの後ろで食べていた三人が個室にかけよった。

「ほんとに大丈夫かよ」

「ん、胃弱なだけだから」

 かえでの胃弱は今に始まったことではない。健介にサッカーのレギュラーを奪われたときも、健介の陸上の記録を抜けなかったときも、リレー走に選ばれなかったときも、吐いた。記録会や大会の時はプレッシャーに潰されることはないのだが、挫折のたびに嘔吐を繰り返しているのだ。

「午後練休んだら?」

 もとより、走ることに対しては特に思い入れのないかえでだ。多田のもとで習うことを目標に走っているのだ。それも叶わないのかもしれないという今では、走ることの情熱も失せ始めていた。

 いや、最短距離は用意されている。そこを通るには少々やっかいだと言うだけで。

 かえでは友人たちに練習は休まない、とだけ告げてその場を離れた。ちょっとだけ休めばこの気持ちも落ち着くと思ったのだ。ふらふらと脱力しそうな足に力を込めて、しっかりと床を押し込む。それでも友人たちから

は、かえでがひどく打ちのめされたように見えていた。


 夕方の体育館。宿舎より坂を一㌔ほど登ったところに体育館はある、そこで午後のトレーニングが行われていた。学校の第一体育館より一回り小さい。造りはほとんど高校の体育館と変わりない。コの字型にギャラリーがあり、壇上にまで生徒があがってひしめき合っていた。

 女子陸上部は男子陸上部とは反対に、夕方をトラック、フィールド練習にあてている。同じ部活ではあるのだが、五十余人いるうちのほんの十人ほどの女子陸上は影が薄い。宿舎も女子棟、男子棟とわかれているので、これまでかえでは女子の存在を意識したことはなかった。

 もちろん、クラスには女子がいるし、接触がなかったわけではないが、かえでにとって女子とは未知の存在だった。そんな女子が体育館にいた。短い黒い髪は一瞬男子を思わせたが、胸の膨らみや全体的に丸いフォルムで違うものであると気づく。

 その女子と話しているのは、ひょろ長い、健介だった。近くには多田が立っている。腕を肩から吊っているようだが、骨折とは聞いていない。いつも通り少し離れたところでリレーメンバーの様子と健介と女子の様子を見ているようだ。

 何かあったっけと思い巡らせば、実質最終日の明日、夜、近くの空き地でバーベキューを行うことになっていた。どうやらその準備にリレー走メンバーと女子陸上部があてがわれたらしい。といっても、保護者会が主催なので、手伝い程度なのだろうが。

 かえでは薄々勘づいていた。この陸上部におけるリレー走の立場を。底辺の底辺だ。落ちこぼれの吹きだまり、と聞いたことがある。しかし、かえではそれを信じてはいなかった。

 競技大会での走りや、都幾川スプリントでの表彰。それが彼らの実力を物語っている。リレー走、走ってみないか?健介の言葉が聞こえてきたような気がした。そのとき、なぜ自分が頷かなかったのか、わかった気がした。本当にリレー走を走りたいなら、あのときは是が非でも走ると言えば良かったのだ。言わなかった、それが事実だ。つまり、リレー走にはさほど興味がないのだった。多田がいる、という一点が、走りにたいしての情熱を保っていた。

 今はどうだ。自分に問いただす。今はヒーローと呼んでくれた多田はいない。あの頃と違うのに、走る理由はあるのか。速いことに情熱なんてみじんも感じられない。なんなら、他の部活に転向してもよい。かちり、と自分の中のパズルのピースがかみ合ったような気がした。

 もう走らない。

 それはかえでが出した答えだった。かえでは球技ができないわけではない。事実、小学生まではサッカーをしていた。二度とサッカーはしたくはないが、他の競技ならやってみても良い。

 結局、自分は信念とかやりたいこととか、そういう重いものを持っているわけではないのだと、やる気だけが下降する。私立はスポーツ学校だが、もちろん文系の学生もいる。その中に入って堅実に大学を目指しても良い。

 明日を最後に、陸上部は辞めよう。

 足の速いだけの自分がいるところではない、と思った。涼みたいに目指すものがあり、秀のようにひたむきで、亨のように目的をもったやつが相応しい。

 そういえば、健介が陸上をする理由を、リレー走をする理由を聞いたことがなかった。知ったところでどうするつもりもなかったが、最後に聞いておいてもいいかもしれない。

 不意に女子と話していた健介と目が合う。だが、いつもなら負けじとにらみ返すかえでは目をそらした。一人一人が目的や目標を持って走っている光の輪の中にいる健介と、目を合わせる資格はない。

「清水」

 だが、健介はそんなかえでのことなど知ったことではない。容赦なく呼ばれた名前を無視するわけにはいかず、座った体勢から見上げた。そういえば、水の礼を言わなければいけない、そう思ったが言葉にはできなかった。

「まだ、調子悪いみたいだな」

 おもむろに伸びてきた手をよけずにいたら、頬に触れた。汗でべとべとしているから気持ち悪いのだが、健介の方が低いからか、ほんの少しだけ気持ちよいと思った。はたき落とすのも面倒で、そのままにしていると、健介は怪訝な顔をした。

 それはそうだ、いつも噛みつかんばかりの勢いのかえでが大人しくしているのだから。自嘲の笑みすら作れずに、かえでは泣きたくなった。遠くの記憶の断片が蘇る。

 それは市内の寺に預けられていた幼少期。町一帯が檀家であるからか、大きく広かった寺の中で迷子になっていたかえでを見つけたのは健介だった。すでに今と同じような眼鏡をかけていた健介に抱きついて泣いたのを今の今まで忘れていた。

 思い出したところで抱きついて泣きじゃくるわけにもいかず、泣きたい気持ちをもてあまして、健介から視線をそらす。

「休もう、俺が付き添うから」

 上からタオルが落ちてきた。かえでの頭にかぶせられたそれのおかげで、かえでの涙は誰にも見られることはなかった。近くにいたコーチに宿舎に戻ることを健介が告げたのをまるで他人事のように聞いた。かえでは左肩を持ち上げられて、やっと自分がこの場所から必要ないと言われているのだとわかった。

 走らないと決めておいて、いざ走るなと言われると、寂しいものだ、とかえでは思った。健介を頼りにかえでは約一㌔の道を歩きだす。本当は支えなど振り払って、走り出したかったが、泣きながら走るには、道が悪かった。

 アスファルトはところどころ陥没していたり隆起していたりしている。すぐ横は雑木林から山へ通じている。たまに躓いて本当にこけそうになるのをうまく健介が支えていた。そんな状態が情けないやら、悔しいやらで、また涙が溢れる。

 遠い親戚だなんて知らない幼少期は兄ちゃんと呼んでなついていたのを思い出した。もしかしたら、健介はあの頃の思い出の中のかえでのままなのかもしれない。

 どれだけ子どもだったのだろうか、とかえでは恥ずかしくなるが、子どもな自分がいなくなったかえでの中身は空っぽに感じた。幼い承認欲求が涙とともに霧散していく。どんどん無になっていく頭の中で、そういえば蝉が鳴かない、と思った。

「やばい」

 妙に焦った声が近くで聞こえてきてどきりとした。しかしその瞬間に、滝のような雨粒が二人を襲った。にわか雨が降ってきたのだ。思わず立ち尽くしたかえでに雨ではたき落とされた眼鏡が見えた。みじめだ。承認欲求がないと、自立すらできないのか、とかえでは思った。

 すぐに、健介は眼鏡を拾ってかけ直す。ひどい雨は一瞬で。しかし健介のレンズの割れた眼鏡ではうまく歩けないのか、先とは逆にかえでが支える番になった。

 バケツの水をひっくり返した、とは言い得て妙だ。しとしとぴっちゃんと雨はすぐにやんで、澄んだ空から強烈な太陽光が刺す。

 足の悪い道が終わり、ようやくついた宿舎の入り口で、水浸しの自分たちを見て、どうするかと悩む。入ったら確実に怒られるだろう。かといって、このままだと風邪を引く。

 不意に笑い声が聞こえてきた。グラウンドを見ると、トラックやフィールドにいる陸上部の女子が雨でテンションがあがったのか、楽しそうにはしゃいでいた。

「管理人さんにタオルを持ってきてもらえないか聞いてみるな」

 呆けているかえでにそれだけ言うと、健介はさっさと管理人室に向かって歩き出した。かえではしばらく女子陸上部の様子を眺めた。レベルは人数が少ないながらも高校生トップレベルだ。そういえば。健介も楽しいと言っていたことを思い出す。人と走ると楽しい。

 かえでは今まで一人で走ってきた。友人はいても、その友人と走ることはなかった。かえでのレベルに足りなかったというのもあるが、かえでは一人が好きだった。誰かと競うことのない世界が心地よかった。

 陸上は速ければいい、そういう単純なところも好きだ。サッカーは人との連携が必要だったし、何よりフィールドに出るには技術が必要だった。かえでは自分が劣っているとは思わないが、それでも自分を差し置いてあとから始めた健介が試合のレギュラーになったことがショックだった。

 もしかしたら、それは年功序列というものだったのかもしれないが、幼い心にはわからない。仲間の間で必要以上に争うことはない、そんな陸上は自分の天職だと思った。でも、リレー走を走るには自分は不向きなのだと、わかった。リレー走はレギュラー争いこそないかもしれないが、一人ではない。

 第一走がいて、二走がいて、三、四、と続く。一走と四走が関係あるかと言えば、直接的にはないかもしれないが、一走が稼いだタイムが四走に響くことはあるだろう。そんなときにおこる軋轢などが、あるかもしれない。

 今のメンバーに自分が入ったときが想像できなかった。仲の良さそうな女子の中に入れないのと同じだった。空っぽだった。かえでの中に満ちていくものはなく、やはり走るのは止めた方がいいのかもしれない、と思うばかりだ。

「清水」

 突如、目の前に差し出された真っ白なタオルをかえでは素直に受け取った。Tシャツと靴下を脱いで、拭けるだけ頭と体を拭く。靴は乾かさないと使えないだろう。そう思って、宿舎の前の日の当たるところに置いておく。健介と並べておかれたそれを見て、人と走ることってどういうことか考えてみるが、わからない。

「リレー走、走ってみないか?」

 朝もされた同じ質問に、やはり即答できないでいたが、今は健介に感じる嫉みや僻みで戸惑っているのではなかった。

「・・・・・・なんで俺なんですか」

「お前、走るの好きって顔してるから」

「今も?」

「あぁ」

 健介は躊躇いなく頷いた。走りたい気持ちを他人から肯定されて、わずかにくすぐったい気持ちになった。

「・・・・・・健介さんがリレー走を走る理由はなんですか?」

「楽しいから」

 迷いのない声だった。

「それ以上の気持ちって、必要か?」

 健介の声がかえでの頭に響く。


 扉を三回ノックした。二回はトイレだとどこかで習ったので、意識して三回ならすことにしている。引率者用の扉は横にスライドさせるようにできている。すぐに低い声がどうぞ、と告げる。

 気づけばかえでの手は震えていた。いつも多田にリレー走に入れてくれと言うときは、勢いとのりだけでどうとでもしてきたのだ。今回も同じだ、と自分を奮起させる。

 それでもゆっくりと扉を開けた。失礼しますの声が震えていた。今まで行ってきたことを覆すのだ。緊張するのは当たり前だった。多田は現れた人物にすぐにほっと息をついた。だが、その様子がおかしいことに気づいて、怪訝そうに眉がしらを寄せた。

 空っぽの中身に不意に入ってきた楽しいという言葉は、かえでにとって、意味のわからない言葉だった。リレー走の楽しさを見いだせない。だから、リレー走についての話はなかったことにしてもらおうと、思ってやってきたのだった。

「先生。あの、俺」

「リレー走、走ってみるか?」

 それは多田に言われたくて仕方なかった言葉だった。瞬間気持ちが沸き立つ。だが、すぐに風船から空気が抜けるように、しぼんでいく。多田の言葉が魔法を持っていたのは、あの頃だけ、だった。きっと今は別の人に魔法をかけているのだろう。

「それなんですけど、俺」

「一回だけ、走ってみないか?明日、リレー走候補者を集めて走らせる。お前の実力は知っているが、適性を見ておきたい」

 まるで『辞める』を封じるように立て続けに言われた。

「と、言うより、一人納得しない男がいる。走ってくれ」

 なるほど、とかえでは納得した。健介が先回りして、多田に情報漏洩したのだ。やめると言うだろうから、引き留めろと。走るのが好きって顔、と言われてもかえでにはわからなかった。楽しいと思い込んでいただけで、今はちっともそんな感情がわき起こらない。それでも頷いた健介はどういうつもりなのか。

 多田に言わせれば走ると言うとでも思ったのか。もしそうならなんだかムカつく。走ってやらない、と言えばどういう反応をするだろうか、天邪鬼が顔を出すが、すぐに引っ込める。意地悪でもなんでもなく、走らないつもりだった。

「俺は」

 にゅっと顔の横から緑色の筒が伸びてきた。後ろを振り向くと、健介が立っていた。扉は開けっ放しだったので入ってくる気配を感じなかった。かえではぎょっとしつつも、頬を弛緩させた。

「俺はお前に繋げたい」

「無理です。俺には楽しさとか、そういうものがないんです」

「なくていい。これは俺の私情だ」

 私情を受け入れた多田にも驚きだが、それ以上に健介が私情を持ち込むことに意外性を感じた。しかしそれがどんなものであっても、かえでは受け入れるつもりはなかった。

「清水が好きだ。清水がいい」

 きっと速いからとか、そういう理由だと思っていた。百歩譲ってもかえで自身の走りが好きだ、とかいう青臭い理由だと。だが、それ以上にもっと青い言葉があるとは思いもしなかった。

 今朝までは気持ち悪いと一蹴した。だが、今はうまくけなす言葉が思い浮かばなかった。きっと、健介はかえでに向けるのと同じくらいの気持ちで陸上が好きで楽しいと思っている。それを馬鹿にすることはできなかった。

 圧力をかけるように、バトンを目の前に突き出される。受け取ることが正解か、受け取らないことが正しいか。これは、ゴールへの最短距離なのか。いや、まず、ゴールとはなんだ。

 かえでの中にもうゴールと呼ぶべきものがない。直線を走っているのか、婉曲しているのかもわからない。スタートすらしていない可能性もある。それでもわずかに手はバトンに伸びていた。

「俺がゴールで待っている」

 揺れる視線が、健介をとらえる。信じていいのだろうか、この人に向かっていくことは、間違えではないのか。そんな疑問にふたをした。バトンの表面に触れると、吸い付くような感触があった。ひんやりとしていて、少しだけかえでの心を動かした。

 握ると、まるでそれがずっと自分のものだったように感じた。

「・・・・・・俺は、俺のために走るけど、それでも健介さんは、いいんですか?」

 暗に気持ちには応えられないと言った。それでも健介は目をまっすぐに見て頷いたのだ。かえではもう断る理由をなくして、健介の手からバトンを引き抜いた。


「四走でいいのか?」

 涼がかえでに尋ねた。候補生は全員で三名。多田はその中から一人だけを選ぶつもりらしい。すでに涼たちは先の候補生のために二回ほど走っている。おそらく本気ではない。候補生に合わせるために少し手を抜いているようだ。

 リレー走に出たい、と長いこと考えてきただけあって、かえではアンダーハンドパスもある程度はできる。今のリレーメンバーがアンダーハンドパスだと知ってから、友人を巻き込んだパス練習は密かに行われていたのだ。

「今日は、な」

 選ばれたら、他のポジションでも走りきる自信はかえでにはあった。かえではバランス型、よくいえばオールラウンダーなタイプの選手だからだ。逆に、突出した何かを持っていない選手だとも言える。だからこそ速いので、監督が手放したがらなかった。

 かえでの今日のゴールは迷いなく健介であった。だから四走を選んだ。決別のゴールのために、かえでは走る。

 照りつける太陽はすでに容赦なく、地肌をじりじりと焦がしていた。痛いくらいの感覚なのは、見物人が多くいるからかもしれない。候補生はメンバーに一つだけオーダーを出すことができた。たとえば、パスはオーバーハンドパスで頼む、とか。

 現に、前の一人はオーバーハンドパスだった。その前はアンダーハンドパスに挑戦したが、レースだと思えばゆっくりした展開だった。おそらく、ゆっくりと頼まれたのだろう。

 かえではもちろん、本気で来い、と言った。本気以外のパスはとらないと。三走の亨は試すような視線を向けたが、かえでは意思を曲げなかった。

 リレー走のメンバー決めだと聞いて、女子陸上部までが集まってきていた。だがかえでは、一本だけはった緊張の糸を切ることはなかった。ぴんとピアノ線のようにまっすぐで、触れたら切られてしまいそうなほどだった。そんな緊張感が伝播したように、メンバーの顔つきも変わる。

 円形になったメンバーの顔を一人ずつ見て、それからかえではスタート位置についた。その場で三回ほどジャンプをして、自分が行くべきラインを見据える。

 一走を走る涼の背中が遠くに見えた。きっと二走を走っていた健介も、亨の背中をこんな風に見ていたのだろう。美しい光の輪ができあがっていた。

 涼がスターティングブロックに足をかけたので、かえでも心を落ち着かせる。フラッグがあがった。かけ声の後の笛の音で、振り下ろされる。その瞬間、見物人の声も、いないわけがないセミの鳴き声も、遠くに感じた。後ろから息づかいがだんだん近づいてくる。本気の意図がはっきりと伝わってくる。ほんの一分もかからない、レース。誰と競っているわけではないが。

 かえでは足を一歩踏み出した。ぐんぐん加速していく、手にあの冷たい感触がしっかりと感じられると、それを思いっきり握って最後の直線を全力で駆け抜けた。呼吸などしていられない、ほんの十秒。

 歓声があがった。

 記録は見物人のために読み上げられる。だが、かえではそれを聞く前に、探し始めた。伝えないといけない人がいた。その人は、ゴールから一番遠いところにいた。たむろするための飲み物を持って、水場に立っている。一走を走った涼がまず水をとり、それから二走、三走の秀と亨が向かう。それに続くように、かえでも走り出した。

 緊張の糸はすでに切れていた。速くこのバトンを渡したくて走った。フォームは乱れているだろう。みっともない走りだったかもしれないが、健介の前に来ると、徐々にスピードを落とした。

「お疲れさん」

 健介がボトルをかえでに差し出す。だがかえではそれを受け取らなかった。焼けた肌が少しばかり色を変えるぐらい、強く握りしめていた。握りしめていたものは、緑色のバトンだ。それを健介に突き返す。

「俺は、辞める」

 誰よりもほしかったものだったはずだ。それを手放すと走る前から決めていた。そして走り終わった今だから、わかる。かえでは、陸上への情熱を失っていることが。嫌いになったわけではない。ただ、やりきったのだ。

 やっとかえではヒーローになった気がした。偽りでも虚栄でもなく、胸を張って、楽しかった、と言える。

 涼が何か言おうとしたところを、秀が止めた。そして、健介が口角をあげた。長い腕がゆっくりと持ち上がって決別を受け取った。

「ありがとう、清水」

 かえでが高校陸上界に名前を残すことはなかった。


 かえではバーベキューの中心から離れたところにあるブルーシートの上に座っていた。学校から離れたところにあるわけではないのだが、ちょっとした遠足気分である。

 空き地だけでは狭いので、道路にまで生徒は溢れている。この時間、自然の家にだけ通じる道を行く車はないので、誰も注意などしない。保護者会で持ち寄った食べ物は、この合宿中に食べた中でも一番うまいといえるだろう。

 生徒は肉の焼ける網に集まって我先にと飛びついている。その様子をじっと、かえでは見つめた。監督以外、かえでを責める者はいなかった。引き留める者は友人を含め何人かいたのだが、楽しかった、とそれだけしか言わないかえでを遠巻きにするようになった。

 今も、かでしかブルシートに座っていない。目の前にはいくつもの光の輪が広がっていた。その中についさっきまでかえではいた。戻りたいのではないか、少年は自分に問いかける。

 戻りたい。だが、それは熱量を持った言葉ではなかった。ただ、そこが眩しいから、虫のようにむかって行くようなもので。それは違う、とかえでは思った。かえでが求めているものは、かえでではないとダメな場所であり、また、かえでがほしいと望む場所、であった。

 サッカーではなかった。陸上でもなかった。では次はなんだろうか。かえでは考えるが、まだそれを見つけるには早いのかもしれない。今は楽しかった、といえる思い出を見つけては箱にしまうように、かみしめていた。

「隣、いいか?」

 座ったのは、多田だった。あのリレー走のあとは何も言わなかったが、小言の一つでも言われるだろうかと、身構える。だが、多田はかえでに肉を分けただけだった。ありがたくいただいて、タレにたっぷりと絡ませ、一口で食べる。

「俺には景色が変わっているようには、感じないんだがな。あるコーチによると、毎年、何かが変わって見えるらしい」

 何が言いたいのかわからずに、かえでは小首を傾げた。

「お前には、俺が変わったように見えたんだろうな」

 かえでが横を見ると、老けたがあの頃と変わらない多田がそこにいた。眩しそうに西日に顔をしかめるのと同じように、目の前の生徒に目を細めている。あのときも、もしかしたら生徒を見て眩しかったのかもしれない。多田は確かに、もう、かえでのヒーローではない。だが、ヒーローだった。その事実は変わらない。

「変わることは悪いことではない。変わらないことも悪いことではない。そのときにお前が納得するものを選べばいい。まだチャンスはいくらでもある」

「先生」

 返事の代わりに肉を一口ほおばったのを見て、かえでは思わず笑った。

「俺も、好きだった」

 多田がそうか、とひとりごつ。

 空には星が広がり始めていた。テントのそばから照らすライトのせいで、いまいちロマンチックにはならない。しかし、あ、と思わず声を上げていた。流れ星が見えた気がしたのだ。気のせいだったかもしれないが、薄い線がすっと通って消えた。

 三回も願いを唱える余裕はなかった。だからあえて、ゆっくりと一回だけ、願いを唱えた。

(変わりませんように)


おわり

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