第1話 ラブコメはそこら辺に落ちている。
青春なんてアニメだけのものだ。
高校一年の春に運命の人に会ったりしないし、学年一の美少女もいない。何故かなついてくる後輩ヒロインなんて居なかったし、かっこいい先輩ヒロインもいない。俺の抱いていた輝かしい高校生活は存在しなかった。
だって、そうだろう?今はもう高校2年の9月。
青春ラブコメには欠かせない夏も終わってしまった。
こんな冴えない日々を送るよりも、二次元の世界にダイブするほうが有益な時間となるだろう。だからこそ・・・
「これで今日のホームルームを終わります。」
原先生がそういうやいなや、俺は颯爽と鞄を背負い、教室から出た。
今日は新作ラノベが出る記念すべき日だ。早く帰って特典を集めに行かなくては・・・
「おい、どこ行くんだよ?」
「なんだ、瀬川。俺を二次元ヒロインが待っているんだ。離せ。」
こいつは瀬川。僕の唯一の友達だ。
この学校はクラス替えがない。なぜなら、学校の方針として、全校生徒文系ときまっているからだ。
その方が学習効率がいいらしい。
しかし、そのおかげで瀬川と3年間同じクラスになれることはラッキーと言って差支えないだろう。
「部活行くなら一緒に行こうぜ。」
「悪い、今日は新作のラノベが発売されるんだ。」
瀬川は、残念そうな顔をしてそうか、というと去っていった。
まったく、あいつはイケメンなのに、僕と同じ『部活』に入るなんて残念なやつだよなあ。そんなことを考えながら、アニメショップにラノベを買いに行くのであった。
☆
ショップに着きラノベを探していると、あった、特典もまだ残っていそうだ。本に手を伸ばすと、
「「あっ」」
手が触れる感触。同じ本を買いに来た客が居たようだ。
「すみませ・・え?」
謝ろうと、その人のことを見ると
「え、す、す、すじゅき君?!」
僕と同じ学校の指定制服。黒髪ロングをフワリと揺らしながらこちらを驚いた表情で見てくるクラスメイトその1がいた。
「す、鈴木さん・・?」
彼女は確かに鈴木さんだった。
うちのクラスは席替えがない。
理由は原先生がめんどくさいと言ったからだ。
さすがのぼくも一年半も後ろの席にいる女の子を見間違えることはないはずだ。
特に彼女の特徴は、髪につけたピンクの桜の髪飾り。ここまで一致していたら間違いはないはずだ。
それにしても、何故彼女がオタクが集まるアニメショップにいるのだろうか。
彼女はいわゆる『清楚系』だ。吹奏楽部にいそうな雰囲気といったらいいだろうか。二次元とは遠く離れた存在に思えてならない。
「ち、違うの!」
鈴木さんはワタワタと慌てていた。ちなみに心なしか彼女が嬉しそうにしている気がするのは僕の気のせいだろうか。
「実はこの本友達から進められていて、それで仕方なーく買いに来たってわけだから!」
必死になって僕の誤解をとこうとしてくる。
そんなことしなくても、鈴木さんがオタクだなんて考えもしないのに。
そんなことよりも僕と同じ本を読もうとしているなんて好感度が高い。
・・・同じ本?
「この本、今日発売の新作だけど・・?」
そう、僕は「新作」を買いに来たんだ。友達から進められるにしてはいささかおかしいのではないだろうか。
「あっ!この作者が好きらしくて・・?」
鈴木さんは僕から目を逸らしながらそういった。
・・怪しい。女の子は秘密を隠し持っているというが、それを暴きたくなるのが男というものではないだろうか。
「この作品がデビュー作だって公式が言ってたけど。」
「そ、そこまで調べて・・?!」
鈴木さんは僕と本をちらちらと交互に見つめると、少し恥ずかしそうに顔を赤らめると俯いてしまった。
やはりほんのり嬉しそうなのは僕の気のせいだろうか。
「実は鈴木さんってアニメとかラノベとかすきなの?」
ポロっと、僕は願望とも取れることをつぶやいてしまった。
そんなわけないというのに。鈴木さんはそれを聞くとびくりと肩を震わせた。
「ごめっ!なんでもな・・」
「実は!!そうなの・・・。」
鈴木さんは語尾をしぼませながらそう言った。
しかしその表情は今まで見たことがないほどの笑顔だった。
「・・・マジで?」
本屋で同じ本を取ろうとして、彼女と触れあってしまった手。そこで明らかになる彼女の秘密。僕だけが本当の彼女を知っている。
・・・そんなラブコメのテンプレを詰め込んだような出会いを一年半越しにしてしまうのだった。
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