ラブコメ好きの女子高生とか、天然記念物にするべきではないか?

ぐらにゅー島

天然記念物に遭遇した。

プロローグ 青春ラブコメに憧れて高校に行ってはいけない。

日本で一番多い苗字は佐藤である。

ちなみに二位は鈴木である。


多い苗字に生まれるとなかなか不便である。たとえば、病院に行き案内をされるときに「すずきさん」と呼ばれても自分でないことが多々ある。

たとえば、ラインの名前を鈴木にしようものなら「どっちの鈴木?」と聞かれるだろう。

もはや、苗字の印象が薄すぎて親友にすらたまに苗字を忘れられる。


だからこそ僕は断言する。多い苗字に生まれても、いいことなんてないと。


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受験に落ちた。


私立高校に進学する人の大半は公立高校の入試に落ちたからという理由からではないのだろうか。


もちろん、私立のほうが設備も、教師も揃っているのかもしれない。

しかし、入学式からテンション高くなんていけないだろう。


だからとはいえ、このクラスの空気はなんだろうか。重い。

流石にこんなことはあるのだろうかと疑ってしまう。

…クラスメイトが全員揃っていて、全員無言で勉強しているクラスとかラノベでも見ないだろ。


キーンコーンカーンコーンと、どの学校でもおなじみのチャイムが鳴る。


すると教師が教室にはいってきた。皆の視線が教師に集まる。うわあ、こんなに注目されるなんて教師は大変だ。


「み、皆さんはじめまして!担任をする原です。よろしくね!」

シーン。という効果音が聞こえてくるような沈黙が流れる。帰りたい。


「じゃあ、出席をとっちゃうぞー!先生、みんなの顔と名前を早く一致させるために頑張るからね!」


もし、全国で入学式に教師が言うセリフランキングを調査したらこれが一位なのではないだろうか。


ちなみに二位は「このクラスにこのメンバーが集まったことは素晴らしいことです!」だ。てかテンション高めだなあ。


「一番から呼んでいくから返事してけよー」

と、担任改め原先生は名簿に目を通す。


クラスの雰囲気も徐々に柔らかくなっていく。まあ、元が硬すぎたというのもあるが。


原先生が呼ぶ名前を聞いた感じ、この三本木学園では男女関係なく名前順に出席番号が割り振られていくらしい。


「……14番、鈴木陽太すずきひなた

と、原先生が僕の名を呼ぶ。


高校生なのでアニメの主人公のように窓側の席に憧れていたこともあったが鈴木だと教室の中でも微妙な位置に配置されてしまう。

しかし、後ろから二番目の席というのはラッキーだ。


「はい」

と僕は答える。


ありきたりなこの名前も嫌いではない。しかし、苗字が多いと不便だ。


例えば、同じクラスに鈴木が二人いたとしよう。超ややこしい。


クラス替えの際は同じクラスに鈴木がいないことをいつも願ってしまう。まあ、ほぼ確定でいるんだけど。最高記録は小学三年生のころの一クラス五鈴木だ。


「15番、鈴木桜すずきさくら

と原先生がいう。クラスに二鈴木確定演出のお知らせ。あーあ。


「はい」

と、後ろから透き通った声が教室に響く。女子か。女子なら許す。後ろを振り向きたい衝動にかられるが流石にキモイかもしれないと思いやめておくことにする。


16番は瀬川というらしい。いいな、クラスに同じ苗字の人がいなくって。

多い苗字の人は一度は珍しい苗字に憧れるものだろう。


確かに珍しい苗字の人は初対面で苗字が読めなくて困ることもあるのだろう。

しかし、名前が覚えてもらいやすいという点では良い初期スキルとなるのではないだろうか。


僕なんて苗字が全国で二番目に多いうえに、名前もよくある陽太なんて名前だ。


ひなたなんて女子にもよくある名前だし、無個性だ。クラスにひなたってやつがいたら先生に鈴木って呼ばれても陽太って呼ばれても自分が呼ばれているという確信が持てなくなる。もはや死といっていいだろう。


「21番小鳥遊陽向たかなしひなた

と、原先生が言う。まじかよ同じクラスに二ひなたは初めてだ。記録更新。まったくうれしくない。


「はーい」

右からほんわかとした声がきこえてくる。女子か。ちらっと右を見てみると

(イケメン、だと・・・)

そこにいたのはまごうことなきイケメンだった。


茶髪のショートヘアに、眼鏡。スラっと伸びた足に学校指定のズボン。こいつはモテる・・・。そんな確信を持ちながら、僕は先生の声を聞くのであった。ここから僕の青春ラブコメが始まることを期待しながら・・・




そして9月。しかも、二年の9月。あれから一年半も経ったが、女子と会話することすらなかった。

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