電界の侵略者

文月 いろは

第1話 エンターダイブ

「エンターシステムオールクリア。雲ひとつ無いのは素晴らしいね」


 西暦せいれき二二三六年。僕たち人類は新しいステージへ登った。

 『DNA量産プログラム』身体情報しんたいじょうほうの全てをデータとして利用できるようになり、遺伝子いでんしの組み替えが可能になった。

 そこで僕たちは身体データをパソコンの中にねじ込めば、インターネット上で作られた場所を自由に探検できるのでは無いかと考え、研究を続けていた。


 そして、ついに完成した。

 僕たちはこのシステムを『エンターダイブプログラム』と名づけた。

 今日は完成したプログラムを初めて使う試験日。

 このプログラムが完成すれば、世界中の人を笑顔にできる。新しい娯楽ごらくを作り出せる。


「はっちゃん。もう一度確認ね。今から君を送る場所は二〇二二年東京渋谷。というか渋谷までしか作ってないから。転移したら一旦帰還。いいね」


「おっけ!まかせろり!」


 『エンターダイブ開始まであと六十秒。身体データの転送を開始。酔いにご注意ください』

 聞き慣れたデジタルボイスの後、目の前が真っ暗になった。


 『─三、二、一』


 次の瞬間僕は暑い日差しに照らされ、意識を取り戻した。


 西暦二〇二二年──七月─東京


 たくさんの人に暑い日差し。

 現代じゃ考えることすらできない過去を今僕は体験している。


「うぉぉお!渋谷!きたぞぉ!」


 パソコン上で作られたとは思えないほど正確で、過去のビデオでしか見たことのない街並み。

 まるで、実際にタイムスリップをしているかのような感覚だ。


「ついに完成したんだな」


 感極まって泣きそうになるが、今はそんなことをしている場合ではない。帰って京輔きょうすけに伝えねば。

 僕は過去に京輔と話した帰還方法を思い出す。

 

 

「帰りたいと思う脳の信号をこっちで捉えて引き上げるってのはどうかな?」


「たしかに、何か物を持っていくよりはストレスがないな。それでいくか」

 

 帰りたいと思えばいいのか。


 『プァァァ!!!!!!』


「おいガキ!車も見えねぇのか!危ねぇだろ!」


「あぁ!すんません」


 京輔のやつ、パソコンが熱持つのにこんなイベントまで作りやがったのか。無駄が好きな奴め。


 ええと「帰りたい!」

 

 数秒待ったが、うんともすんとも言わない。

 機械の不具合か、脳の信号をうまく受信できていないような気がする。


「まぁ渋谷しか作られていないなら渋谷の端っこまで行けば京輔が見つけてくれるか」


 僕は渋谷をまっすぐ北に進んで新宿との境目に行くことにした。

 暑い。過去の文献とか映像とかで気温が引くほど高いのは知っていたけど、見るのと実際に体験するのは違うな。

 飲み物が欲しい。


 そんなこんなで渋谷と新宿の境目までやってきた。


 おかしい。流石の京輔でも予定と違うことはしない。

 サプライズ程度なら日常茶飯事にちじょうさはんじだが、取り返しのつかないミスをあいつがするはずがない。

 転移してから数十分は経過している。京輔も一度強制的に俺を連れ戻すはず。

 それにさっきから人が減っているどころか増えている。一人一人表情も違うし、車も通る。現代の技術でもここまでリアルに再現するのは不可能だろう。

 そこから察するに、俺は本当に『タイムスリップ』したのだろう。


「まじか。日本の転換期のこの時代にここに来ちまうとはな」


 未来の人間が過去に干渉すると未来の軸がずれて未来が変わるってのはよく聞く話だ。

 現代でも未来から生命体が来たことはない。

 幸いにも人の作りは変わってないし、救助が来るまで大人しくしてるってのもありだな。

 でも気になる。

 未来の人間が未来を変えるとどうなるのか。

 この時代からすれば未来から来た人間なんていいネタになる。

 うわさにヒレがつきまくれば世界も変えられるかもしれない。

 未来の力で人類をさらに進歩させよう。

 そうなれば早速行動だ。

 この世界のSNSに情報を出そう。そうとくれば名前だな。

 こう、かっこいい感じの名前が欲しいな。


 『──異界からの侵略者に人類は勝てるのだろうか!』


 俺も電脳を使った侵略者になるのか・・・。

 決めた。

 『電界の侵略者』だ。

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電界の侵略者 文月 いろは @Iroha_Fumituki

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