額の十字架

「あ、それと...鶴が転んだ理由ってわかる?」

「え?なにそれ...」

「つるっと。転んだ。」

「さっむ。」

「なんかこんなくだらないのってウケないよね。」

「あ、でもこいつにはウケてたみたい。ほら。」

くだらない会話を楽しむその側に、私は座っていた。

「あ、それじゃまた。」

「授業終わったらまた会おうねー。」

いくらかのキャッチボールを終え、彼女らは席へつく。

私は明るさを吸い取りたかった。


前までは明るさは私の取り柄であった。

だが、いくつかの争乱を境に心へ雲がかかってしまった。

「付き合っている」との誤認があったあの日から。


私はクラスでいつも一人だったある男子に気がけていた。

どこへいくにも一人。

時々悔しそうな顔をし、辺りに沈んだ空気が流れているその子はいつも隅に座っていた。

ある昼休み、私は声をかけてみた。

「今度ある駅の...あのやつ?ハロウィンフェスタっていうんだけど、あれ、どう?私と一緒に行かない?」

言葉を絞り出す。

その子はそっと顔を上げた。

「なんだか知らない。でも、行きたい。誰かと一緒に遊びたい。たくさん話したい。」

秋風が窓を揺らす。


次の土日に私たちは駅にいた。

二人で占めるその空間に深い谷を感じた。

テンションの差、と言うのであろう。

私は明るく振る舞っている、でもその子は暗い顔をしていた。

手を引き、屋上の広場へ向かう。

あたりの喧騒が静かになるところを探して座る。


「そう...なんだ。」

あまり話してくれないその子は泣きながら自分の状態を教えてくれた。

「ごめん、そこは力になれない。でも、前のお母さんと同じような人の温もりを感じたいんだね。うん。わかるよ。」

私は優しく、その子を胸の中に抱いた。


それからというもの私は『付き合ってる』認定をされた。

ただ助けたかっただけなのに。

たくさんいじられ、いじめられた。

現状が嫌いだった。

そこへ拍車をかけるように、その子は転校してしまった。


私はだんだんと精神を削られていった。

本当は周りに明るくしたい、でもいじめがトラウマになり、明るくできない。

エネルギーを吸おうとしているのに、うまく吸うことができない。

これは、額の十字架が悪さをしているからなのであろうか。

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