輸血者の夜

-N-

輸血者の夜

 眠りについた。夢を見た。

 羊の群れが私の血管の中で踊っているのが分かった。それらは二足歩行で立って、シープドッグに追われることもなく、ただ、あなたの流行の音楽に合わせて踊っている。

 私はその光景を、病室の天井から自分の身体をのぞき込むようにして観察できていたが、しかし、血液型が一致しないことに気がついた羊が悲鳴を上げて、それで目が覚めた。

 夜だった。

 叫び声を上げたらしく、聞きつけた看護婦がやってきた。その顔は、なんてことはない、羊だった。羊がいると叫んだ。周りの病人もなんだなんだと起きたが、その顔は羊で、葉をむしっている。私は愕然とした。

 声も出せずにいると、

「ここに羊などいませんよ。寝ぼけているのでしょう」

 とわらって罵られたので、私は怒って言った。

「おめえ!」

 私の声が、羊であった。めえとしか声の出ない、羊である。全身ががさばった羊毛に覆われていくのを感じた。いやだ、けものになりたくない!

 ベッドから飛び起きて、私は看護師を押しのけ病室を出た。その時、私の肛門から、ころころと汚物が出てきたものだから、これはダメだと思いつつも、何とかして羊を殺してもらおうと、当直医まで駆けた。

「当直医は言いました」

 めえめえ。これはゆめえ。


 目が覚めると、昨日に運び込まれた屠殺場は朝であった。周りは何事もなく、正常な羊であり、看護婦も医師も全員、羊であった。正しい羊である。そして自らも、まさしく羊であれた。幸せだ。

 ところで首のないめーはいつ覚めますか。めぇめぇ。

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