第四章
第55話
四、
翌日、璃兵衛とレンの姿は蓬莱堂にあった。
璃兵衛は相変わらずあの座ったものが死ぬはずの椅子に座って鏡をのぞき込んでいるが、その椅子も鏡もいわくつきの品物として蓬莱堂へとやってきたものだ。
「……お前は、あれでよかったのか?」
「なんのことだ?」
璃兵衛は鏡から顔を上げると、そばにいたレンに逆に問いかけた。
「安楽はいなくなり、寺に埋葬されていた遺体は別の寺で供養されることになった。それのどこに問題がある」
安楽がいなくなり、安城寺やそこにある墓を見る者がいなくなったということで、安生寺に眠る者達は改めて供養されることになった。
墓に遺体がある者は限られていたが二度も悲しませる必要はないと、真実はごく一部の者達のみが知るに留められた。
真実を知る者の中には富次郎もいた。
真実を知った富次郎は身寄りのない者も供養してもらえるよう、あちこちの寺に掛け合い、安生寺に墓のあった者達はようやく眠りにつくことができたのだ。
「安楽がいなくなったのはお前のせいではないだろう」
「もう噂になっているのか。まぁ、安楽がいなくなったのが俺のせいというのは嘘ではないからな。高僧の木乃伊として祀られて未来永劫崇められるか、それとも薬の材料になるかは運次第……まさに神のみぞ知ることだ」
そんなことを話していると、あの日と同じように茜がやってきた。
あの時と違うのは茜が赤い着物ではなく、萌黄色の着物を着ていることだ。
「お兄ちゃん達のおかげで、お母ちゃんを送ってもらえたし、うちももう行くな!」
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