第53話

(船が出るまでにここから出なければ)


 安楽は必死に箱の中から出ようとするが、箱はびくともしない。


 声も出せず、箱から出ることも叶わない。

 どうすればと焦る安楽は、ふと自分をのぞき込む者の存在に気づいた。


(あぁ、よかった……これで助かる……)


 安堵したものの、安楽はすぐに気づく。


 安楽がいるのは狭くて暗い箱の中だ。


 それなのに、どうして安楽をのぞき込んでいるのか。

 そして暗い中で、なぜのぞき込んでいるとわかるのか。


冷たい汗が背中を伝い、その汗を何本もの手が追いかけ、身体中を這いずり回る。


 ガタガタと身体が震え、気づけば足の間が濡れ、嫌な臭いが箱の中に立ち込めていた。それでも身体の震えが止まることはなかった。


「あ……あ……」


 涙でぼやける視界に映ったのは、安楽をじっとのぞき込む少女だった。

 その少女は母親をミイラにするところを見られ、口封じのために殺したはずだ。


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