第23話

(まぁ、本当にそうならばの話だが)


 璃兵衛は積み上げられた石を避けながら墓地の中へと進んでいく。

 そんな璃兵衛の行動に驚き、異を唱えたのはレンだ。


「おい、なにをしている! 他人の墓所を踏み荒らすなど……」


 レンは戻るように言うが、璃兵衛はレンの言葉など聞かず、そのまま墓地の中を歩いていく。


「……くそ、とにかく戻れ!」


 レンは躊躇しながらも、何をするかわからない璃兵衛のあとを追いかける。

 璃兵衛は墓の間を歩き慣れた道を散歩でもするかのように、時折墓を眺めながら歩いて行く。


 石が置かれただけの墓は、さほど珍しいものではない。

 角石の墓が少ないのは身寄りがない者を供養していることも、おそらく関係しているのだろう。


(だが、これは……)


 墓を見ていた璃兵衛はあることに気付いて足を止めた。


「いい加減にしろ!」

「見てみろ。この墓には塔婆が刺さっていない」

「塔婆というのはこの木の立て札のことか? たしかにこの墓にはそれがないが」


 塔婆がささっていないのはその墓だけで、両隣の墓には塔婆がささっている。

 見たところ他と同じように石が置かれた墓で、特別な違いはない。


(石自体も別に変わったところはないが……)


 璃兵衛はおもむろにその場にしゃがみ込むと、墓を手で掘り始めた。


「おい、墓を掘り返すなど何を考えている!?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る