第13話
学園の集中治療室に、魔法少女ヒビキは運ばれた。
一方で、検査室に呼ばれた
身体スキャンの結果、能砥はトランスセクシャル魔法少女だと判明した。
それだけではない。
世にも珍しき〝
「だからキミは強くなれるんだノートちゃん。強くなれる
にゃはは、と執務机にすわる少女。いや、学園長。
「いや、あの……〝稀代の魔法少女適性〟って本当なのか? ですか?」
「下手な敬語ぉ。というか
「学園長……あんたとってもいい人だなっ!」
「ヤ、信用早いって。ちょろインか」
「死にかけそうになったのに元気ね」
応接間をかねているため広々空間な学園長室。そこで電灯のように立つのが能砥。備わったふかふかソファで落ち込むのが
————そう雷無とモノギ。なぜか二人がご一緒している。
「ええと。なんで二人がここに?」
「功労者よ私たちは。……あんな絶好のタイミングで、ミノと
「っつーかさ、あのバカでか鉄柵がなくなったんだから大惨事は確定してんの。あれって魔法少女の可愛さが
避難
だが、それを誇りとしない。実績をもとに
それは謙虚さからくるのではなく、
「……
「……? 何を……?」
「幼女が、流れ弾に直撃したのよ。……私たちは、間に合わなかった」
昨日を
魔法少女ノートがでたらめに使った魔力は、その余波だけでも一般人に害をなす。毒に触れたように昏倒した人もたくさんいた。あの鉄柵そのものが、一般人にとっては
予期していたのか否か。さだめはどう曲がっても大被害を起こすよう仕組んでいた。魔法少女ノートの魔力余波は、しっかり建造物にもダメージを与えたのだから。
つまるところ、
「モノギちゃんは幼児向けのモノに〝
「それでも救わなければいけない一人を救えなかった。……そこに、尽きるのよ」
「それも子ども。あーしら、まだ
能砥が現場へ真っ先にかけつけたことも、ふたりの心を焼く。止められなかった。一緒に向かうことを選べなかった。自分は現場へただちに向かえなかった。
能砥は——たとえ一瞬の間でも——ヒビキにとっての救世主たりえた。自分たちは、きっとそうではない。
だから、もっと気持ちを固める要因たりえる。
「私はもっと強くなるわ、つまり可愛くなる。そして、魔法をより幅広く扱えるようにする……能砥、アナタよりも、私は可愛さをきわめるわ」
「いつもだったらとんでもメルヘン発言、とか言うけど。今回ばかりはあーしも同じ。強くなって、可愛くなって、魔法少女としてみんなを楽しませ守る。……とくに子どもなんて、いついかなる時でも守れるようにするから」
雷無とモノギはそう意志を決める。
一方で、能砥。
「俺は————」
「フフン。そう
言いさした能砥を、さえぎる学園長。ひとつの封書を
「『その首ィ、一週間でもすれば殺しに向かうからよォ』……って、殺害予告か⁉︎」
「ん。まぁそれぐらいはするだろう、というかヒビキちゃんの記憶にもノートちゃんがターゲット、って言っているんだもんね?」
「……ああ確かに。さだめは、俺が名乗ってすぐにターゲットと言ったぞ」
「ふぅむなるほど。それまでは気づかなかったのかぁ……」
まるでおバカな同僚でも思うように、幼げな顔が苦笑する。
だがそんなことは
「さ、て。学園側としてはね、とびぬけた逸材であるノートちゃんを簡単に失うワケにはいかないんだよね。キミの
「護衛……ガードマン、を?」
「もちろん。キミが思っている以上に、キミの存在は大切だからね」
学園側の指針として、
「〝稀代の魔法少女適性〟ってやつはね、明確な武器として可愛さが存在する魔法少女の子を
「無知って! 俺はそんなに
「そうね」
「おおむね同意」
異論反論はゼロ。能砥が無知を可愛さのエネルギーとすることは確実だ。
「適性者はホントに希少でね。せいぜい六人————いままで現れた適性者は、六人ていどしかいないのさ」
「六……っ」
「重要さが
どれほどレアリティを貼られたのか、能砥は自認せざるを得ない。
「でも護衛をつけたからって安心されても困るワケだ。だって学園の本質は魔法少女の育成————ノートちゃんは可愛くならないと学園に来た意味ないし、可愛くなってもらわないと困る」
「もちろんだ。俺は最高に可愛い魔法少女になるって決めた!」
「うんうん。だからこの一週間でノートちゃんには三つ、課題を与えるよ」
意気込みバッチリな能砥、その鼻先に突きつけられた紙ぺら。
「えぇ、と……」
「ひとつ、ノートちゃん自身が可愛く強くなるための特別講義。
ふたつ、ノートちゃんだけで心
みっつ、実戦経験を積むこと」
「……ヤ、ハードな一週間になるでしょこれ」
「本当ね。ある
書面につらつら書き留められた三つの事項。フリータイムがあるようには思えない。二十四時間をきっかり管理する用意もされている感じもある。
————
ここで、能砥はハッと我に戻る。
「……今、何時だ⁉︎」
「あん? 昼の二時だけど」
「
「学園で言うところの四月四日目ね。まぁ大体、あれからアナタはすぐ気絶していたみたいだもの。一日ぐらいは経過しているのがセオリーよ」
一日。二十四時間。いわゆる
能砥の顔はたちどころに青く
「なっ————どこに行くのよ! 殺害予告でてるんだから、無闇に外歩けないでしょう!」
「妹が! 料理できない妹が、一日
「は、ぁ……?」
しゃにむに
いやいっそ、そうなのだ。お昼ご飯すら冷蔵庫にしまっておかないと行き倒れる妹が、一日ほったらかし状況。料理もできないハズ。
そんな
これを見て、学園長はたははと笑う。
「兄
「いやいや、楽観視。すぐにでも連れ戻さないとマズイでしょ」
「んー。メインディッシュって認定されたっぽいし、そんなスピード重視にする必要ないよ。どうせ別セカイの住民だもの観光気分じゃないかな?」
にっこりご
それに比べ、雷無もモノギも、苦虫を
「————————なぁんだよ☆
不意に、厚底ブーツがカツカツと鳴る。学園指定のローファーならざる音調。生徒ではない証拠だ。
お
「っつーかどしたよ☆ わりとしょぼくれてンぞ☆」
「ヤ、特に……。むしろ、ンでセンセがここにいるのかが不思議。とうとう
「お変わりなさそうで安心だよテメェ☆ ま、学園長に呼び出されたって点では同じだよな、理由は全然違ェけど☆」
可愛げのない子どもをわしゃわしゃ撫でるように、ハナリはモノギの頭を
ところで、ハナリがここにきた理由とは、
「あん? 能砥いねェけど、
「妹が危ない! と走って行ったとも。わりと本格的な説明パートに入ろうと思ったんだがね……フフン青春か」
「魔法少女ストーカーかつシスコンかァ☆ ヤベェけど、そのぐらいじゃねぇと魔法少女適性バチバチ、とは思えないっつー話だな☆」
探し物は能砥。目的も能砥。
とどのつまり、
「え……? もしやすれば、此森先生が特別講義の担当を」
「どこがもしやだよ☆ これ以上に適役いねぇだろ、オイ☆」
「まぁ、実際ハナリちゃんは色々と問題児を
空いた口が塞がらぬ、とは
ハナリはもちろん、グーパンチを炸裂させたいほど不服そうである、が、それよりも耳寄りな情報を持っている手前、
「テメェらにも用事があんぞ、モノギ、おバカ雷無☆」
「用事て……ハッ。まさか能砥の付き添いに出た出欠分、補習とか、」
「ンな鬼じゃねぇし☆ むしろ
警戒する雷無とモノギ、だがふたりの
ただし、役者はふたり。モノギと、雷無だ。
「テメェら二人とも〝稀代の魔法少女適性〟だからよ☆ 特別認可っつーカタチで、もうスタートアップコマンド叫んでも魔法少女になれんぞ☆」
「「…………は?」」
立て続けに、
のみならず、ハナリは立て続いて報告。
「能砥のお仲間として、テメェら二人は選別済みだから☆ 精一杯まもれよ☆」
「「————————」」
視野がひっくりかえるほど、仰天しそうになった。つまりは、なんだ。能砥だけが戦いに赴くのではなく、
つきましては両者ともにハードスケジュールの仲間入りに……
だが、
「あと、テメェらが助けきれなかったロリっ子、目ぇ覚ましたぞ☆」
「なんッ、直行しなきゃじゃんソレ」
「なによなんなのよ、豊満ね情報の量が!」
ともすればひとつ、かたわらのバナナジュースを啜って、
「ンー……ケッ、果肉がなきゃあ、果物じゃあないね!」
学園長は、にへらと笑った。
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