第12話
「誰だお前ェ……?」
魔法少女ノート爆誕。声質すらも第二次性徴時にまで変わり
「魔法少女ノートだ。覚えておけ!」
「……。そうかよォ。お前がターゲットか」
口の端を極限にまで
だが屈さず。
「丸腰かよ、ッハッハハハ勝てる道理もねェのにナメてンじャあねェ‼︎」
「フ————————」
実のところ、ノートはただ最高に可愛い自分に酔いしれていた。
このたっぷりな隙を、男は詰める。
一歩で五歩分。まるで地面を滑走するかのようにノートの
「うおわぁっ危なっっっ⁉︎」
「ほォ磁力あやつッて高速移動ね……リニアの真似事かァ?」
ひとまず〝雷〟の魔術を応変させ、鉄柵にはりつくことで拳を回避したノート。
「お、お前な! もっとこうゴーサインぐらい出してくれ! いきなりは困る!」
「甘ッたれた野郎だなお前。そんな腑抜けなら俺の前に立ち塞がるンじャねェ‼︎」
ドスン、と男は鉄柵のふもとを殴りつける。まるで酔っぱらいの
しかし、男の拳は鉄柵を崩す。ぼろぼろと土砂崩れのように、魔術処理ごと鉄のしがらみを崩落させたのだ。
「はぁっ……⁉︎ 規格外すぎるぞぉおおおっ⁉︎」
足場の磁界がたちどころに変わる。ノートはつるりと磁力の支えを失ったために、そのまま一◯◯メートル近くから落下————
「へェ機転が
「……つよい……っ」
惜しみない拍手をもらっても、ノートは喜びきれない。
この男を打ち負かすヴィジョンが、一向に
「(ん、待てよぅ……?
風に飛ばされてく金属粉末を見て、ノートは漫然とそう思いつく。確証はない。いっそ魔術と魔法の知識に
もしも、雷無の魔法と性質が似ているとすれば。
術者の知識のなかだけが効果対象となる。
「(未知を、ぶつければ……っ!)」
ノートは男をキッと睨み据える。あどけない。まるで幼子が年長者に歯向かうよう。
「あァン? ンだその目、勝てる計算式でもあるッてンかよ」
「ああ、勝つ! 勝って、魔法少女の可愛さを傷つけた罪をつぐなえ!」
「……くッだらねェンだよ」
「お得意の三文芝居にャあ付き合ッてられねェ。さッさと死ね!」
「死ぬだとか、魔法少女にむかって言うものじゃあないぞ!」
「だァあッ口
ヅヅッ、と地表をスライドする男。ずいぶん取った筈の間合いは、せいぜい
一方、ノート。しゃにむに拳を握り、したたか魔力をこめる。
「(口ぶりから、男なのに魔法少女になるってことを衝撃的に捉えてた。なら、俺はそもそもこいつにとっての未知に該当する! いや、そもそも雷を操ってのレパートリーを感心するように見てたんだ。魔術とか魔法とかに、もっぱら知識がないと考えられる!)」
未知のものを崩せない。……とすれば、この男はノートという存在そのものを弱点として抱えるだろう。
しょせんは予想の
「憧れの、魔法少女を……魔法少女になれた今を、これからをっ、崩されてたまるかぁああぁああぁああッッッ‼︎」
魔法少女は可愛さをエネルギーにしてつよさのバフをもたらす。本人が可愛さを
とりわけノートの可愛さは、無知故の可愛さ。
相手がどんな存在かも知らない。この一手が通じるかどうかも知らない。このイザコザの果てに何が待っているかも知らない。
ヒートアップにはもってこい、だ。ここまで可愛さが揃ったのならば、
「あァ? あァそッかそォかよォ? ……お前、俺が知らねェものぜンぶ崩せねェとか考えたのかよ」
「な————————」
ノートの拳から崩れさる紅色の魔力の渦。まさしく男に触れた途端、
ニィ、と男は
「触れたもンが科学・魔術であるなら。俺ァどンな不可思議な理屈だろォが知らねェ理屈だろォが、崩す。問どォ無用でな、屁理屈を壊すンだよ」
「この……っ、チート」
「このセカイが魔法と科学のふたつきりで大別してンのが悪ィンだよ。お前が敗けるのもォ、死ぬのもォ、そこで転がッてる虫の
みみざわりな
ノートの鳩尾を捉え、骨ごと砕く勢いでめり込む。魔法少女衣装の治癒機能があれども、治りそうのない甚大な痛み……
「ヒャハハハハハハハアアアァアアァッ‼︎ じャあな気取りヒーローォ」
「ご、ぁ…………ぐゥッ‼︎」
刹那、くるしまぎれ、ノートの平手打ちが男をはたいた。
「ァ…………?」
「……————————っ?」
なぜノートの拳は崩れずに男をはたいたのかと目を点にする。
どうしてそれに気づいたのかと男は
「ざッ、けンじャあねエエェエエ⁉︎」
「っ」
ひどい癇癪を起こしたように、あるいは不確定要素の全力排除をこころみるように。男は
その土手っ腹を、横合いから蹴り飛ばされた。
「ヅッ、がァァアアッ……⁉︎」
「オイオイ☆ 嫁入り前の顔タコ殴りにすんとか、どんな了見だよ☆」
よく見知った顔が、そこにはいる。
「いやぁ、こういうヤンチャな子、必ずいるものだよ。うん、
「な、ンだお前らッ」
「ハハハ、教師☆ ンでこいつの引率で、あいつの元・担任————っつーか、そんな関係性言うまでもなくさ☆ 教え子に手ェ出すなよクソ野郎☆」
血みどろに倒れるヒビキに肩を貸すハナリ。
靴跡の残った男を
「ぐゥッ……離しやがれ
「初対面でひどいなぁ……え? というか魔法少女姿のおじさん、ちょび髭なのにそこ?」
スクリュー回転をつけたハナリのドロップキックが音もなく炸裂し、男がえがく奇怪な放物線を読みとったミノがキャッチ。それから関節技で完全拘束である。
ちなみにミノは魔法少女姿になっており、通常時よりも
「……⁉︎」
そう、あの男を吹っ飛ばした。
そして、あの男を
「あの、」
「詳しい話は後回しだ☆」
ノートが謎をぶつけようとした折、すげなくハナリは首をふる。ただでさえ教え子のひとりが瀕死に
「そうそう。とっととこの子を学園に送って……、」
ガチガチに関節を決めて、抵抗する力ごと意識を
「ハッ。勘違い……そいつァ……。……。……」
「————————どういう、いや、まさかっ、」
「ハッ! 揺らいじまッたなァ!」
驚愕に一瞬でも暮れたミノ、その手首めがけ隠し刀をふるう男。すばらしい腕前だ。寸分違わず親指の
ともすれば、回転の勢いをつけてミノを振り
「させないっつーの☆」
ああしかし、もちろんハナリが急行。男の絶大スピードに追いすがり、ヒビキを背負っていながら、首根っこを掴まんとする。
そこで、両者ともに動きをストップ。まるで映像停止でもさせられたように。
「できねェンだよ講師。俺ァ触れただけでたいてい崩せンだ……この劇場の壁だろォが床だろォが、触れちまえば一瞬で
「……っ☆」
「ほんとォは依頼通りそこの魔法少女をとッ捕まえるべきだが……ハン。ちャンんとガードマン騒ぎにしやがッて。ンな時間もねェ」
一抹の安全圏を勝ち取った男は、だが
「まァ、タスク完了まで一週間以上あンだ。お前はメインディッシュにでもしてやる」
「————いいぞ……魔法少女の可愛さが分からず、あまつさえ痛めつけるお前みたいな奴。何がなんでも魔法少女の可愛さで倒すッ!」
「ハッ。できンといいなァ」
ややもせず。
男は大崎劇場の壁を垂直にダッシュ。てっぺんの避雷針に乗りざま、フッと姿を消す。
さいごに、していなかった自己紹介を残して。
「
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