第8話
満員御礼。八層にも
会場前の雰囲気はどこか
ここ
つまりは、機械音が聞こえることが、まもなく開演を告げることとイコールで結ばれるということ。
照明が
開幕ブザーがとどろく。喝采がホールを揺らしにかかる。
相食んで
「お人形遊びは得意かしら? こどもの頃、両親にぬいぐるみを買ってもらった記憶はある? ……それとは一八◯度も
「人形劇じゃないよ。少なくとも、私は息をしていて、あなたは心があるように思う。人同士、だと私は思うな。だから劇団だよ」
「ひどい三文芝居ね。ああけれど、そうね、可愛さの
「……美しさだけじゃあ、ないよ」
言葉のふしぶしに感情をこめて、芝居がかった
その調子で双方、かろやかなジャンプで山台に飛び乗り、
「「
刹那、
「イイ舞台装置。私の美しさに拍車がかかる!」
「ありがとうみんなの声援っ、私の可愛さがヒートアップ!」
第一投票フェーズは、六◯パーセントと四◯パーセントの比率だった。魔法少女のパーセンテージが低い。新人であることも相まっている。
「その可愛さ、すぐに
「美しさの黄金比、崩させてもらうよ!」
投票によるバフを受けて、ふたりは武器をもちだす。舞台装置製作科によるハンドメイドだ。
魔法少女はラブリーさを
ドールは一振りのたおやかな細剣を。
ここで、舞台中央にて曲面削り出しの大ホールが出現。アクロバティックな一挙手一投足を披露しながら演者は向かう。
「鮮やかに散らせ血の
スタートを切ったのはドール。
であるが、しょせん刃引きされた模造刀。舞台である以上、血の表現はライト演出によって織り成されるものだ。
「っとと!」
その筈が、ヒビキは必死に
ともすれば返し刃が
「ぐぅぅうぅうう!」
すかさずステッキの柄が、胴体と刃との間に挟まる。間一髪、ギャリと金属の擦れる音階がステージマイクに轟いた。
もっとも、細剣の本分は刺突にあり。ドールは先触れをしているだけだ。
そして、魔法少女の本分もまたステッキに魔力を込めること。
「色味を〝赤〟に、燃えゆくお人形の
息が触れ合う
ドールはすぐに刃を離し、
「なかなかどうして、やるじゃない」
「この晴れ舞台に選ばれたんです……っ。ちょっとやそっとで、負けられない!」
オーディエンスの感情をさそう言葉。戦闘は感情とともに激化していく。
——さて、ここまでが一般席から
裏幕、いわゆる関係者席からアクセスする事の一連は、まるで違う。
「————っ」
大好きな演情のハズなのに、言葉を絞り出すことさえできずにいる。
無論、両隣は不審に思うにきまっている。
「能砥。……能砥! いったいどうしたっていうのよ!」
「…………ッ。なん、で。アレ、は……
「は————?」
いっそ悲鳴すらあげそうに、能砥は
そう。能砥の目の前の光景と、オーディエンス席の光景とは、まるきり違う。
考えてみればわかることだ。学園では、どの科であろうとも魔道学が必修科目。それは、どの科においても魔術が必要不可欠であるということ。
とりわけ、舞台演出にたずさわる者は、
スポットライトなどの機材操作にたずさわる者は、ぶしゃぶしゃと飛び散る鮮血を、あたかもライト演出のようにするべく、ライト光量を魔術で処理せねばならない。
そして、演者。魔法少女とドール。
魔法少女は、
「どういう……ッ! 知ら、ない、なんで魔法少女が血を流して……ッ」
痛みをこらえ、笑顔をつくる。
声色に苦しさをにじませることなく、ファンの応援——入場チケットによる間接的な
魔法少女は、血みどろだ。
「なぁ止めないと……、こんなのイレギュラーだよな……っ、こんなの、」
「これが魔法少女だっつーの☆」
「っっっ」
当惑する能砥のとなりには、いつのまにやらハナリが侍っていた。見れば仮設シートを用意してあり、ちゃんとお
用意がいい。まるで事態を予見できていたかのよう。
「魔法少女はキレイで、可愛い。オーディエンス席から見れば、その通りだよねぇ。けど、これもまた魔法少女の一面なんだよ能砥クン」
「ミノ先生……⁉︎ 一面、って」
「やっぱ知らなかったんだな☆ ヤ、いまの時代、そういう教育方法も間違いじゃねぇよ。むしろお
ミノも仮設シートに安座して、驚愕に
「悪いね能砥クン。親御さんには責任をもっておじさんたち教師が謝罪にいくさ。だから……これから味わう魔法少女の真実は、ぜったいに記憶に焼き付けてくれ」
「まぁこの学園に入学するには保護者同意書がマストだからな☆ 本人たちも、遅かれ早かれこれを打ち明けるつもりはあったハズ」
驚きと動揺をハーフアンドハーフにする能砥。ただでさえ情報量に流され、いままで固持していた常識がまるきり
これでは細かな説明をされようが、ハンパに理解することもできないだろう。能砥自身、
故にあらかじめ準備をそなえていた二人が、
「ちょい待ちー。本人同意ゼロで話進めるとか、これ以上に理不尽ぶつけんなし。こいつはたった今、
「本人認証は重要なハズね。どれだけ最優先に押しつける事があっても、本人の意思だけは確認すべきだもの。それに、」
こうも情報の波に
「劇、というエンターテインメントに
「……この場。こいつにとって、これからどう魔法少女を認識していく、向き合っていくかの大切な
つたない
だが興味深そうに、ミノは問いを投げる。
「ふぅむ。そうまで言葉を重ねる理由はなにかな?」
「こんなにも真っ向から競い合える
「大事な仲間だっつーの。……それに、単純な話、いっしょにいて楽しかったし」
クイックレスポンス。決まりきったことを聞かれたように、雷無とモノギは即断即決。
これには、感心とばかりに眉を上げるミノ。
そこに挟み込まれる当人の懇願。
「————俺も、いや俺は! 自分で見極めたい、真実とやらを」
「たとえ想像の三歩先にあっても、かァ☆」
「……情けない話だが。魔法少女の真相にすこし触れたぐらいで驚いてしまった。だけど、そのていどで俺を
キッと、カモフラージュにまみれた壮絶ステージを見据えた。
「俺は、魔法少女になりたいんだからな! そうやって、憧れてしまったんだ」
「……ハッ。やっぱ最高に魔法少女バカじゃん」
あまりにも
——嗚呼すなわち。
さすがは、と
一方。思うことがあるように、ミノとハナリは黙し……
「ハハッ良いな、最高にうだった心構えだ☆ 文句ゼロ」
「青春なんてリアルに見せられちゃあね。おじさんは弱いのさ」
芝居
「そこまで言うならよ、見極めろよ自分の進みたい道☆」
「うん。これ以上おじさんたちは演情中、口を挟むことはしないさ。能砥クンはそう決めたみたいだもの」
あっさりと。きっぱりと。
生徒の行く末を真正面から向き合おうとしていた講師二名は、仮設シートを閉じる。薄暗闇に戻っていく背中すらも、
——さしもの雷無も、モノギも、能砥も、眉を
「通じたんだな……俺の、魔法少女愛が」
「ヤ、違うでしょ。もっとこう、
「そうね。けれど、今はいいとこ取りだけを考えるべきよ。棚上げにしろ、とまでは言わないけれど……良いことのために悪いことを正す方が、だんぜんイイもの」
不確かなものを考えるよりも先ず、
実際、どっさり背もたれに戻ったミノもハナリも、そうしてほしいと願う。
都合がいいことだが、
「なるほどなァ、あれが能砥の魔法少女たりえる可愛さ☆ なんとも
「しかも、無知であるほどに魔法を制限してしまう
「ハ————無知故の可愛さ、とかさァ☆ あいつの両親はこれを予想して教えていなかったのかぁ? なら策士だ」
ひたむきに推進する魔法少女志望の姿。まさかそこに、そんな要素が
「いやすまないね。おじさんの
「そりゃあ無想定だっつーの。あいつの場合は無知——知らないこと、だ☆」
「うーん。なるほど、異常児というか、異端児が集まるんだねぇ、
「つくづくな。だからこそ育ちきったのを見ると、最高に感情ズタズタにされんだよ☆ 今だって、気張るヒビキの姿を見りゃあ——感情が動くって話☆」
ハナリの視線は元・異端児のもとへ。追って、ミノもまた魔法少女のもとへ。
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