第6話
ただし、おねだりの仕方が
「あにぃ。丸いものが好きだな、妹は。映像媒体ってそーいえば丸い。
「えぇと……」
オムライスを運んできた能砥は、能曽実の部屋前でかたまる。
「……欲しいものでもあるのか?」
「そのものズバリ言わないぞ。妹はあまのじゃくだ。
「そうか……だけどその情報量じゃ、予定してないクリスマスプレゼントみたいになるぞ。これじゃないと駄々をこねる」
「——
ぼそり、とタイトル名を
「わかった。ブルーレイディスク、でいいのかな」
「さすがあにぃ。できる兄。………………
「スイート? あぁ大丈夫だ、オムライスの卵は甘く仕立ててある」
「はぁ〜〜〜〜……
不機嫌さを歯に
だが、今日ばかりはちょっと違う。
「能曽実。ドア越しでいいんだが……いっしょに、食べないか」
「……
「大したことじゃあないんだけどな。すこし話をしたい気分に駆られた」
「————許可」
すると、開かずのドアに
能砥がそっと配膳台をそこに近づけると、そそくさ小さな手が受け取る。どうやらドアの前にいるらしい。
すとん、とほんの
「今日、帰り道にちょいと疑問が浮かんでさ」
「ん——」
「歯に物が挟まったような感じで、話題が
「情報量不足。判断がむずかしい」
パラパラのチキンライスをはむはむ
さて
そこまでの
「————っていきさつがあってだな」
「……そっか」
か細い声が、聞こえる。
「いやぁどういう意味なんだろうな……。ピュア、苦悩……うぅん」
「あにぃ。人には誰でも秘密があるよ。あの……あにぃは
「秘密……。秘密か」
やけに真剣な声色だった。つい能砥まで、大事なお話を持ちかけた気分になるほど。
「じゃあ、俺がミノ先生だったり、
「うぅん、あにぃの場合は人じゃないと思う。人じゃなくて、物。それもきっと知識とかとりまく環境だとか……重要なもの」
能曽実は、そこで一旦ことばを区切り、
「常識、とかの致命的な違いがあるのかも」
「常識……」
「教育方針とか、家庭内事情とか、ことばが出てきたみたいだし。あにぃも、私も、なにか気づけていないことがあるのかも」
まるで、ずっと前から怪しんでいたように。能曽実は
だが、しょせん答えに辿り着かない会話だ。明確に解答をもっている人物が、この場にはいない。
「……家庭内か。じゃあ、母さんや父さんに聞いてみるのが手っ取り早い、のか」
「ん。私やあにぃよりも長く生きてるから。……心当たりはあるかも」
この場はそう結論づける。ごもっともだ。きっと、変に結論を急いでしまっても、先入観が
しかし能砥は、そんな
「ふふふハ——いやぁ嬉しい」
「? いまのトークに喜び要素あったかな。あにぃはたまに変人」
「……ほとんど孤食していたからさ、いつも。家族といっしょに食事ができるって、すっげぇ嬉しいんだ。ちょいと
「……っ」
ところで。
「あにぃ。……ホント、いつ後ろから刺されても不思議じゃないよ。ピュアって言われたのも遠回しな
「そうなのか⁉︎ どんな皮肉なんだ?」
「そういうトコ。あにぃは夜道に気を配るべき」
能曽実がやけに機嫌をそこねている。口を
だが表情の豊かさが感じられて嬉しい——と、どこまでもニコニコする能砥。いっそ魔法少女になれる、とさえ一考しているものだ。
「ごちそうさま。……あの。いつも、ありがとあにぃ」
「————。やめてくれ能曽実、俺が泣いてしまう」
感きわまる。
そこに、綺麗さっぱり平らげられたお皿が戻された。
「ぬぬぅ。……リアルトークは精神
「お、おう……。いい夢を見てくれよ、おやすみなさいだ」
「ん……」
就寝前のおきまり文言を
能砥もまた、夜を迎えるにあたって
この段になって、能砥のあたまには能曽実との過去が
「(……能曽実。秘密か——それは、つまるところ)」
能曽実が小学生の時。まだプライバシーなど毛ほども考えていなかった能砥が、
能砥は、ドアをそっ閉じしたのだ。
お友達にもらったコスプレ衣装に、ちょっと目覚めてココロ踊らせていた能曽実の姿。それを前にして、能砥はとてもドギマギした思い出がある。この感情の正体がまるきり分からず、あのときは扉をそそくさ閉めたものだが……
「(扉をしっかりロックして、俺の前に姿を現すことはない。秘密の保持。秘密がバレることを恐れる——俺が、トラウマを植え付けたようなものだ……っ)」
能砥は能曽実の秘密を、今の状態を、そう
能曽実は過去のトラウマから、こうなっていると。
「(だが)」
能砥には申し訳ないという気持ちとともに、ひとつ、
「(間違いない。能曽実はとんでもない魔法少女の素養がある)」
血縁関係からの
純粋に、魔法少女をめざす一人として、そう感ぜざるをえない。既に現役魔法少女として活躍している、と言われてもおかしくはない。
だけど能曽実は中学生。そして、魔法少女認可の儀式は、たいていマスメディアを通して大々的に行われるものだ。
そんな場面を見ていないし、そんなお話を家族として聞かされた覚えはない。能曽実はまだ魔法少女にはなっていないワケだ。
「なんて、それこそ妹だから、と思ってしまうのかな」
罪悪感とともに
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