第2話
1
ほとほとと時を重ねる。
ゆっくりと淹れたてのコーヒーを唇から喉、食道へと流し込む。
ゆったりとした時の中で延々と本のページをめくる。
ぺらりぺらり、一枚の紙をめくるたびに生を実感する。生きる意味を深く感じながら読み進める。
本は現実ではない夢の世界に僕を没入させてくれる。
本を読んでいる時だけは現実の事を忘れることが出来た。
どんな映画も、音楽も、テレビだって、街の中の喧噪でさえもかき消すことの出来ない不安、不満、自分を責め続ける自分自身の醜い心の声。
今日もやってくる自責の声。幾層にも重なった今と過去の自分を責める声は鳴りやまない。何を責めているのか意識すれば聞こえるかもしれないが脳が自然にモヤをかけて自己防衛をしてくれているのが分かる。
きっとすべてが鮮明なら僕は既に耐えきれなくなっているだろう。
2
今日は調子が悪い。今日というより今、が正しい。
気分がいい時と悪い時を某有名遊園地のジェットコースター並みに乱高下する僕の情緒は相も変わらず平常運転している。
昨日の夜、気分が良かったので幸せな一日について考え、明日の休日は幸せな一日を過ごそうと決めた。
朝、焼き立てのトーストパンとコーヒーを食べ、そのあと執筆して、昼ご飯は手作りのフランスパンサンド、午後はライターの記事を書いて、夜は友達と食事をする。
そんな日常が幸せだ、と起きてすぐに書いた日記を思い出し二度寝した。
次に起きたのは14時だった。レトルトカレーを温め、レトルトライスとともに胃に流し込む。そもそも食パンは買ってきてないし、フランスパンもなければ一緒に夕食を囲む友達すらいなかったことに気が付いた。そして一日自堕落に過ごして同じような明日を迎える。
こんな日常が好きなわけではない、ただこんな日常を繰り返すということは現状に満足し変わる気がないのか、誰かに変えてもらうのを待っているかのどちらかなんだと思う。どちらにせよ自分からは変える気がないという事実に気づきまた眠る。
今日はもう疲れた。
3
また新しい朝を迎える。こんな日常がいつまで続くんだろう、と不安になる。
逆にいつまでも続くことが確約されていたら幸せな気持ちになる。
きっとこの不安はいつまでもこのままでいられないだろうと、いつか変わるかもしれないという予感や杞憂が生み出している。
明日世界が終わればいいのに。
棚からレトルトカレーとレトルトライスを取り出し温める。
古い扇風機を回し煙草を吸う。
寝たり本を読んだり自堕落な時間を過ごしてまた眠る。
こんな日常がいつまで続くんだろうか、毎日同じことを繰り返し考え今日も眠る。
疲れた。
4
「ブロロロロロロロロ」
昨日は扇風機のタイマーをつけずに寝たらしい。露出した下腹部が冷やされ極度の腹痛と真夏の暑さという、夏で一番嫌な目覚め方をした。
風邪や腹痛に見舞われるといつも不安が増大する。きっと科学的にも不安と体調不良の相関性には相関が認められているに違いない。今日は気分が果てしなく悪い日だ。
不安になっても腹痛になっても毛布にくるまられない夏が余計に絶望感を提供してくれる。何も上手くいかない、何も成長しようとしない自分に嫌悪感を抱きつつも結局何も行動することは出来ない。今日こそは変わろう、と決意した2秒後にはもう諦めている。諦観。絶望。
夜には元気になってテレビ番組を見て笑っていた。
そして寝るときに日常に不安を抱いてまた眠った。
5
レトルトカレーとレトルトライスのセット。また今日も一日が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます