小心者

近藤礼二

第1話

僕は茨城県に住む物書きの大学生だ。

今日は暑く今年初めて扇風機のスイッチをつけた。

「ブロロロロロロロロ」

いびつな音を立てながら15年ものの扇風機が動き始める。これは僕が実家から持ってきた数少ない家具の一つだ。


 18歳のある日、あるお兄さんに憧れて物書きになることを決心し上京することにした。小学校中学校は普通の公立学校で、高校に入ってからも将来のビジョンを持つことが出来ず全く勉強する気にならなかったが、この時ばかりは初めて真剣に勉強しようと思った。やはり数年間サボってきたツケが回ってきて英語は文型から学びなおしたし、数学も分数から改めて勉強する羽目になった。もっと真面目に生活してくれば良かった。そういう後悔は決まって収集つかなくなってからしか起きないので困る。神様にはこのバグを治して欲しかった。もしゲーム業界やSNS業界だったらすぐ動いてくれるのに全知全能の神様は、八百万と呼ばれる神様は誰一人としてこのバグを治してくれないみたいだ。不完全な状態で生まれてくる人間は様々な困難や嬉しい事、悲しい事を経験して成長し大人になっていく。勿論完全な状態になることは少なくとも肉体的には不可能だが、精神は段々と成長していく。その為困難や苦痛は神様から与えられた試練だ。という考え方があるが、正直試練なしで幸せに生きられるのが一番手っ取り早いのでどうにかしてほしいと常々考えている。そんな卑屈で叶いもしない事を考えながら必死に猛勉強を始めた。が、どうしても勉強を始める時期が遅かった。


 一日10時間近く勉強し、三年生の9月でやっと三年の4月の内容に追いつき、センター前には完全付け焼刃でギリギリ間に合ってないぐらいまで完成させた。後は当日の出題が自分の得意な領域に近づくのみ、と考えて試験に臨んだ。しかし神様はここでも性格の悪いことにいたずらをしてほとんど全教科で自分の苦手とする領域の問題が出された。数学bの確率問題、世界史の近代史、国語は難化した漢文、化学の良くわからない文章問題に英語の激ヤバリスニング問題。悉く打ちのめされた試験問題だったがなんとか抵抗した。正直半分半分だと思っていた。

 そして二次試験も終わりそこから数日後合格発表がそれぞれ行われた。結果としては第一志望、第二志望の東京の大学から落ち、ギリギリで第三志望であった茨城の大学に入学することになった。

 文系の学部だったため、大学のサークルの先輩に楽単を聞き、サークルでの飲みと週数回の大学の講義を除き、家にこもり執筆と向き合った。


 扇風機の音を聞きながらペンを取る。朝買ってきて窓際に置いたままの水は温くなっているように見え、せっかく買ってきたものの放置することにした。同時に買ってきた袋に入っている乳酸菌飲料に手を伸ばしキャップを開けて飲み、お湯を沸かしてカップラーメンを食べた。昔はしっかりと栄養バランスを考えて食事を取っていたのにお兄さん、もとい本に出会ってから食生活は一変してしまった。起床時間は朝7時から朝10時に、寝る時間は不規則になり、食事も専らカップラーメンになった。朝ゴミ出しに行く前にゴミ収集が来ることがありゴミ袋が溜りがちになった。

 こうなったのは何も本に集中しているから、結果そうなった。という訳ではない。勿論その一面があることは当然だが、こういった自堕落な生活は文豪への憧れの面も存在する。かの有名な文豪は酒に溺れ、歯は黄色く抜けばが目立ち、様々な違法薬物に手を出すなど自堕落な生活を送っていたり、僕が憧れる文豪の作品に登場する人物はどこまでも自由で無責任で自堕落だったり、とにかく自堕落な人間が一番人間味を感じて好きだった。人間社会の中で生きるにはやらなくてはいけないことがあまりにも沢山ある。社会に出れば周囲の目を気にして自分の意見を言えなかったり、世間の目の為に自分では辛いと思いながら恥じない行為をする為に努力したりする。夢を見ることはあまりにも無謀だからと普通の人生を他人に決められ勧められ、少しでも反抗しようものならおかしいものとして淘汰される。競争や勝負が横行する都会に揉まれ社会に揉まれ、段々と感情と良心を失い、打算的に的に効率的に生きる術に体や精神が適応していく。余裕がなくなり自己中心的になっていく。その中でも幸せを見つけることが出来る人がいないわけではないと思うし確かに存在する。しかし僕は初めの一歩目、社会の目を気にして生きる事に耐えられなかった。でも社会を生きるには耐えるしかない。そんな僕に自由を見せてくれて少しだけ前向きな気持ちにさせてくれるのが自堕落で自由奔放な文豪だったりキャラクターの生き様だった。そうして段々と僕は自堕落になろうとしている。酒や煙草を始め、カップラーメンやパンなどの既製品、コーヒーや古びた味のある扇風機を回す。ただ酒とコーヒーは元々胃が弱かった自分にはあまりにも合わず断念した。こればっかりは体が受け付けなった。煙草は美味しいが胃が荒れるので乳酸菌を体が求めるようになった。乳酸菌を飲むと気のせいかわからないが胃が休まる感じがして今では離せない飲み物となった。自堕落な生活を続けていると様々な物に気づく事が出来た。が脱線しすぎたので内容を戻そうと思う。後述したかったらする。


今日は珍しく早起きすることが出来て、ここ最近困っていたゴミ袋からの異臭問題にも終止符を打つことが出来て朝からカップラーメンを食べることが出来たので幸せな始まりだった。たまに自炊すると生ごみが発生してにおうので、結局カップラーメンが最強だなと思って少し仮眠して再びペンを取った。

 

 人間、潜在意識が未来を作り出している。瘦せようと思って痩せる努力をしないものも、熱心にスポーツを楽しむアスリートも、全ては潜在意識が支配している。人間心の底から効率がいいとか叶えたい願望というものには脳を経由することなく、体が動くものだ。


そう書いてあった本のタイトルは「夢を掴む方法。DREAM COME TRUE」だった。その本がいうようにきっと僕は夢を叶えたい願いが心の奥底にあって、それを潜在意識が現実世界に表現したことになるんだろう。となんとなく納得し本を閉じた。今日はなんとなく執筆がうまく進まない。一度煙草を吸うことにした。

 

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