第34話 みなみと共に過ごす夜


 街灯の光の差し込むリビングで、ソファに腰掛け隣り合うおれとななえ。


 そして、ふと互いの手と手が触れ合った。


 触れ合った瞬間、場の空気が変わった気がした。


 おれが隣を見ると、ななえもまたおれを見ていた。


「……」

「……」


 しばらくそうしていたが、どちらともなく手を離した。


 おれたちが触れ合っていた時間は10秒ほどだったんだろうが、1分ほどの長さに感じた。


「眠れそう?」


 おれは、心底どうでもいいことを口にした。


 ななえは首を横に振る。


「……ゆうだい」


「ん」


「手繋いでもいい?」


「うん」


 おれたちはお互いに探り合いながら、相手の手に触れ合った。


 触れた瞬間、やはり体が熱くなるのを感じた。


 徐々に強く握ると、ななえもほんの少し強く握り返してくる。


 まるでお互いの心を探り合うように、手を触れ合ってる時間は他のことは何も考えられなかった。



「何してるの!! お兄ちゃん!」



 突然、背後からみなみの声が響いた。それと同時に部屋の明かりがつく。


 後ろを振り返るとリビングの入り口にみなみが立っていた。


 みなみは、すんごい形相でこちらを睨んでいる。


 おれと、ななえはお互いに手を離して、慌てて立ち上がった。


「み、みなみ……ちが! どうしたんだ?」


 おれは何を言えばいいかわからず軽くパニクった。


「二人でコソコソ何してたの?」


「いや……、えーっと、これは……」


 ななえと手を繋いでいたことは、みなみからはソファに隠れて見えていないはずだ。


「ごめんね。みなみちゃん。眠れなくてお話してたの。うるさかった?」


 ななえはやんわりとした口調でそう言った。いつもの口調よりかなり柔らかめだ。


 彼女なりに空気を読んで、みなみを刺激しないようにしているんだろうか。


「別にうるさくはないけどさ、わたしに内緒で何してんのかなーって思ったの!」


「少し話してたんだ。別に変なことしてたわけじゃないよ」


「へ、へ、変なことって! あったりまえじゃん! 」


 みなみはそう言いながら、ドスドス歩いてきて、すごい勢いで迫ってきた。


 しまった。蛇足だったか。おれは何を言ったらいいのかわからずに焦った。


「そそそ、そうだ。何か飲むか? コーヒーでもさ」


「コーヒーなんて飲まないよ。こんな夜中に! 如月さんもわたしのベッドに戻ってはやく寝てください! さっさと!」


 みなみはすごい剣幕で、おれとななえにそう言った。


「ああ、寝よう寝よう!」

「うん、みなみちゃん。ビックリさせちゃってごめんね!」


 おれとななえは、みなみに謝った。そして、ななえはみなみの部屋に戻って寝ることになった。


 ななえが、上に行った後、みなみとリビングで二人になった。


「……」

「……」


 二人の間に沈黙が流れる。


「みなみ。なんか……ごめんな」


「どうして謝るの……」


「あ、いや。なんとなく」


「ふーん。それで、お兄ちゃんは眠れそう?」


「あ、ああ! 寝るよ。おやすみ」


 おれはそう言ってソファに横になった。


「おやすみ。お兄ちゃん」


 みなみはリビングの電気を消して、部屋を出ていった。


 


 しばらくすると、すぐに誰かがリビングにやってきた。


「お兄ちゃん……」


 みなみだった。


「……」


 おれは何も返さなかった。


 そして、みなみがそばにやってきた。


 おれは、どうしたらいいかわからずに、とりあえず寝たフリをした。


「お兄ちゃん。わたしも眠れない。どうしよ……」


「……」


 おれは、目を開けてそばに立っているみなみを見た。


 そこには見たことのない表情のみなみが立っていた。


「ねえ……」


 みなみがそう言う。


「ああ……」


「眠れないよ……」


「眠れないのか……」


「ここにいていい?」


「……うん」


 おれは返事に迷ったが、そう言った。


 すると、みなみはかがんで、おれの体に顔を近づけてきた。


 みなみは自分の顔を、おれの胸につけた。


「お兄ちゃんの心臓の音だ……」


「うん……」


 みなみの顔がおれの胸に当たっている。そして、みなみの手がおれのおなかに触れる。


 胸に顔をつけたままのみなみは、おれの顔を見つめていた。


 おれはみなみを見下ろしているような感じになっている。


 おれたちはしばらくそうしていた。すると、

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