第35話 はじめてのくちづけ
ソファの上でおれとみなみは見つめ合っていた。
ソファの上に寝そべっているおれの体によりかかって、頭をつけてくるみなみ。
彼女は床に膝を付けて、上半身をおれの体に密着させている。
「お兄ちゃん……」
みなみが、続けて言おうとした言葉をおれは直感的になんとなくわかった。だから、それを遮るようにしてこう言った。
「みなみ、
「……どうしてわかった、の?」
「わかるさ。毎日いっしょにいるんだから」
「ずるいよ、ちゃんと言わせて」
「うん」
「お兄ちゃん、わたし、お兄ちゃんが好き……」
みなみはそう言って、顔を近づけてきた。
「おれも、好きだ……」
おれは拒まなかった。
0距離で向き合うおれとみなみ。そして、そのまま口づけをかわした。
「ッチュ」
ほんの1秒ほどの口づけだったが、5分ほどの長さに感じられた。
頭が真っ白になって、言葉を失った。
みなみは、顔を近づける時はゆっくりだったが、離す時はサッと離した。
照れ笑いを浮かべるみなみの顔が、窓から漏れる街灯の光に照らされる。
「ふふ、しちゃった……」
「ああ」
おれの中で、今まで温めていた感情がいっきに押し寄せてきて、身体中をかき乱しているのがわかった。
「みなみ……!」
おれは上体を起こしながら、みなみの顔に迫った。もう一度その唇が欲しかった。
突然近づいたおれに対して、慌てずに距離を取るみなみ。
「だーめ、だよ。もう終わり」
「えっ」
「誰かに見られたらマズイでしょ」
誰か、誰かって誰だ。
決まってる。ななえだ。
おれは、さーっと我に返った。
おれは、ななえから告白された身なのに、みなみのことも思ってしまっていた。
いや、逆なのだろうか。
みなみと思い合っていたところに、ななえが現れた。
そうなのかもしれない。だが、それを別に悪いとは思わない。
みなみと口づけをかわして頭が真っ白になった後、一瞬でまたいろんなことが詰め込まれた。
「──いちゃん、お兄ちゃん!」
「えっ、あ! なに?」
「わたし、部屋に戻るね。もう寝よ?」
「ああ、そうだな。おやすみ。ありがと」
「それ……何に対してのありがと?」
「ん、なんだろ。ここに来てくれて、ありがと」
「ふふ、素直なお兄ちゃん」
みなみはそう言って無邪気に笑った。
その夜は寝付きが悪いなんてものじゃなく、いったい何時まで起きてたのかわからないほどに目も頭も冴えていた。
気がつくと朝になっていた。何かキッチンから聞こえてくる音で目を覚ました。
「ななえさん、野菜室にケールも入ってるから、それも入れちゃってください」
「おっけー!」
おれはビックリして飛び起きた。
みなみ以外の女性の声が聞こえる。ななえだった。
そうだった。ななえが泊まりに来てたんだった。
ソファの上から顔を出してキッチンを見ると、みなみとななえがいっしょにいた。二人で朝食の用意をしているようだ。
なんだか不思議な気分だった。
二人はいつの間に仲良くなったんだろう。いや仲良くなったわけではないのだろうか。
「あ! お兄ちゃん、やっと起きたの? おはよ!」
みなみが、おれに気づいて声をかけてきた。
「ああ……」
続けて、『おはよう』と言おうとしたが寝起きでうまく声が出なかった。
「おはよ」
ななえも、声をかけてきた。
「ん、おはよう」
おれは、声を絞り出すと、ようやくソファから立ち上がった。
部屋中に香ばしいかおりが漂っている。朝食はウインナー付きの目玉焼き、トーストだった。
ななえが、ミキサーを回している。バナナシェイクを作ってくれているようだ。ケール入りのね。
おれは顔を洗いに行ってから、食卓についた。
「ふたりとも、ありがとな。いただきます」
今日は土曜日で学校は休みなので、3人でゆっくり食事をとった。
「ねえ、お兄ちゃん、ななえさん。今日何か予定あるの?」
「いや、別に」
おれはそう言いながら、ななえの方を見る。ななえも首を横にふる。
みなみがいつのまにか、ななえのことを『ななえさん』と呼ぶようになっていた。
「じゃあさ、じゃあさ、3人でお出かけしませんか!」
みなみは元気よくそう言った。
「……」
──マジ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます