第29話 ストーカーを撃退!


 おれとショウはななえの隣の部屋から壁をぶち破り、ななえの部屋に入った。


「ななえー!」


 おれたちが、風呂場に向かうと、やつがちょうど風呂場のドアを蹴破ったところだった。


「おい! テメエ! 何してる!?」


 その男は無言でこちらを向いた。手にはナイフがギラリと光っている。


「おい、あいつ! ナイフを持ってるぞ!」


 ショウが叫んだ。


「僕とななえのジャマをするやつはゆるさないよ。ぜったいにね」


 イカれてる。愛情をこじらせた化け物。


 おれがここでひるむわけにはいかない。おれがひいたら、ななえはどうなる。


 やつはナイフを体の前に突き出した。


「じゃまするやつはころす。僕とななえのあいはえいえんなんだ」


 そう言うと同時に、やつは向かってきた。


「ヒィ! きたああ!」


 ショウが後ろで叫び声をあげる。


 おれはやつの動きを冷静に観察し、腰を深く落とした。やつの振り回したナイフは空を切る。それと同時にやつの下半身めがけて頭から突っ込んだ。思いっきり。


 下腹部におれの頭がめり込んで、やつの体は宙に浮いた。そのまま衝撃で廊下をすべるように転がった。やつの手からナイフが離れ、玄関のほうに転がっていくのが見えた。


 そして、おれはやつに馬乗りになって、顔を思いっきり殴った。一発、二発。


 三発目を殴ろうとしたとき、既にやつが気を失ってることに気がついた。


「ふうぅー」


 大きな溜息が聞こえた。それはおれ自身の体の奥から出たものだった。ケンカとは少し違うが、人と戦うのは久しぶりだった。


「ななえ! ななえー!」


 風呂場にいくと、湯船の中でななえは怯えていた。


「ううぅ、ゆ、ゆうだい?」


「ななえ……大丈夫か?」


 ななえは、ゆっくりとうなずいた。


「安心して、やつはもう気絶してる」


 ショウも風呂場に入ってきて、ななえに寄り添った。


「ななえ、ななえー! 無事でよかったー! うわああぁぁ!」


 ショウは半べそをかきながら、ななえのそばで声をかけている。


 おれはななえをショウに任せて、やつが起き上がれないように手足を服で縛り上げた。


 そうしているうちに、警察が来てくれて。やつは連れて行かれた。誰が通報してくれたのかはわからない。隣人の男かコンシェルジュさんかもしれない。




 おれと、ショウとななえは警察署に行き、事のいきさつを刑事に話すことになった。


 警察署での話は2時間ほどで終わり、解放された頃には時刻は午後9時をまわっていた。


 おれはななえが心配で早く話したかったが、ななえの事情聴取が終わるのが一番早くて、すぐに両親が迎えにきて車で帰っていったらしい。今夜は実家に泊まるそうだ。


 ショウはななえといっしょには帰らずに、おれを待っていてくれた。


 おれはショウといっしょに警察署を出た。


「あの、ゆうだいくん」


 急に名前を呼ばれてビックリした。さっきはオマエって呼んでなかったっけ。


 ショウがおれに話しかけてくる。何かいいづらそうにして。


「ななえが本当に無事で良かった。キミのおかげだよ。なんとお礼を言っていいやら」


 ナエナエ呼びはどうした。と思ったが突っ込まないでおいた。


「とんでもない、偶然が重なって助けることができた。本当によかったです」


「いや、キミの洞察力とななえを思う気持ちに、本当に救われたよ。あ、あの、ありがとう」


 さっきまでの俺様シスコンキチガイキャラと全然ちがっており、なんだか気味悪かった。


「ショウさんが後ろにいてくれて心強かったですよ。おれ一人だとななえの部屋まで行けなかったろうし」


「ショウでいいよ。ボクたち同い年だろ」


 ショウはクールに笑ってそう言った。そうかななえと双子なんだから同い年か。


「ゆうだいでいいよ。おれも」


「ありがとう、ゆうだい。だがななえは渡さないぞ」


「はっ?」


「いいか、ななえはボクのものだ! 他の男には絶対に渡さないからな! 覚えておくんだぞ!」


 ショウはそう言って、タクシーに乗り込み帰っていった。変なやつ。




 スマホを見ると、みなみから死ぬほどLIMEが来ていた。


『ちょっといろいろあって警察署で話をしてくる。帰りは遅くなる』


 とだけしかLIMEしてなかったので当たり前だった。


 おれは家路を急いだ。

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