第27話 雄大の疑念
「オマエ! なんでそんな大事なことを早く言わないんだ!」
「いや、おれも確信持てなくて、ってかちゃんと聞いてくれなかったくせに、ショウさん」
「うるさい! ななえの部屋に向かうぞ!」
おれとショウはマンションの入り口に入った。
エントランスではコンシェルジュが一礼をして出迎えてくれる。
上に行くにはエレベーターを使うしかない。しかし、コンシェルジュの許可がないとエレベーターのドアは開かない仕組みになっている。まどろっこしい。
「あのっ! すいません! 上の友だちの家に行きたいんですがいいですか」
「部屋番号かお名前を」
「803号室の如月ななえです」
「確認をとりますので少々お待ち下さい」
「早くしてくれ! ナエナエが危ないかもしれないんだ!」
横からショウが首を突っ込んでくる。
「ショウさん、ちょっと落ち着いて。あの、すみません、急いでお願いします」
コンシェルジュの女性は、おれたちの様子を見てすこし戸惑う素振りを見せている。
「……。803号室の方、応答しませんね」
なぜだ。いや、タイミング的にまさに今頃か。ななえが、部屋に向かったあの男の対応をしているかもしれない姿が目に浮かんだ。
「マズイ……。おれたち、ななえの友だちと家族なんですけど! あの、通してもらえませんか!」
「申し訳ありません。本人の応答がないので……許諾がないと通すことが出来ない決まりになっていますので」
この女性は先程、おれたちがななえと帰宅しているのを見ているはず。しかし、だからといってマニュアル通りの対応を崩さなかった。コンシェルジュの鏡だ。
「お願いします。ななえが! おれの大切な人が危ないかもしれないんです!」
「すいません、そう言われましても……」
「おい、聞き捨てならんぞ。今『おれの大切な人』と言わなかったか? それはボクのセリフなんだが? オマエ一体どういう妄想をしているのか説明してもらおうか」
ショウはそう言って、おれの胸ぐらを掴んで突っかかってくる。
「ちょ! 落ち着いて……、こんな時に何言ってんですか」
こんな時でも、妹のこととなると周囲が見えなくなるシスコン野郎。おれはショウの帽子とマスクに包まれた顔を見て呆れていた。
こんなのがジョニーズのトップアイドルだなんて!
ん、待てよ? ジョニーズのアイドル……そうだ! 一か八かだ!
おれは、ショウの帽子とマスクを剥ぎ取った。
「オマ、何をする?」
帽子とマスクを外したショウの素顔は、ヘドが出るくらいカッコよかった。
そのショウの素顔を見て、一番反応したのはコンシェルジュの女性だった。
「ええぇ! 如月紫陽! え! えぇ!?」
よし、食いついた。
「おい、帽子とマスクを返せ! バレるだろ!」
「いいんだって! コンシェルジュさん、こいつはジョニーズの如月紫陽です!」
「すっごーい! 私ファンなんです。間近で見ると顔ちっちゃーい!」
「こいつ、803号室の如月ななえの兄貴です! これガチです!」
「オマエ! バカかあぁ! こんなところで何を言うんだ!」
「ええええぇぇ、ホントですか! すごーい、ショウさん握手してください!」
この女性がミーハーでよかった。さっきまでの事務的な表情が剥がれて、この人の素の表情になっている。これならこちらのワガママも通しやすいだろう。
帽子とマスクを取り返そうとしてくるショウを押しのけて、おれはコンシェルジュに詰め寄った。
「コンシェルジュさん、如月紫陽の妹の部屋に、怪しいやつが配達業者を装って入ろうとしてるかもしれないんです! 何かあってからじゃ遅い! おれたちを通してください!」
「ええぇ! そうなんですか? でも確かにさっき配達業者が上がっていきましたけど……」
「ホントの配達業者はあっちにいます!」
おれが指を差すと、ちょうど先程の配達員のおっさんがマンションの入り口に入ってこようと荷物の準備をしていた。
「そんなっ……。えっと、わかりました。今エレベーター開けますね。一応防犯のために私も同行します」
おれとショウとコンシェルジュの女性でエレベーターに乗り込んだ。
その時、おれのスマホが鳴った。ななえから着信。
「もしもし! ななえか?」
耳に当てたスマホの向こうからすごい声が聞こえてきた。
『きゃああああぁぁ、助けて! ゆうだい! っ!! 助けてええぇ!!』
心臓が飛び跳ねた。
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