第22話 マラソン大会


「雄大、昨日も先帰っちまうしよ〜。何なの? わたしのことは遊びだったわけ?」


 マサヒロが気持ち悪いことを言ってきた。


 昼食の時間。マサヒロはやんわりと不満をぶつけてきたので、正直に話すことにした。


「マサヒロ、落ち着いて聞いてくれ。おれ最近、如月ななえと遊んでてさ」


「えあっ? なんて? お前、ゲームのやりすぎでとうとう頭がおかしくなったのか?」


「聞けって」


 おれは、最近の一連の流れを、マサヒロに手短かに話した。もちろん告白されたことは伏せておく。


「はあああぁぁ! じゃあ如月さんと毎日遊んでるの!? なんだよそれ。すげえじゃん」


 マサヒロは納得しているのかわからない微妙な表情でそう言った。


「でも、そういうのちゃんと説明しろよな! なんで隠してんだよ」


「スマン……。とにかくそういうわけだから、しばらくはいっしょに帰れんかもしれん」


「マジかよ……」


「あと、みなみにも言ってないんだ。なんか言いづらくてさ。だから黙っておいてくれるか?」


「それは別に構わんけど、なんで言いづらいの? よくわかんねーな」


 一人っ子のマサヒロには兄妹という関係は想像しづらいのだろう。ましてや義理の兄妹だ。それは言ってないけど。


 とにかく、マサヒロは納得?してくれたようだった。




 午後からの体育はマラソンだった。


「いよいよ来週は我が校主催のマラソン大会が控えている。しっかりと規則正しい生活を心がけて万全な体調で臨むように!」


 体育教師が生徒たちにカツを入れる。


 うちの学園の学校法人が主催しているマラソン大会。規模はそれなりに大きく参加者は2000人ほど。参加者の半数以上は一般からの公募で、学校の周囲の市街の一画を貸し切って行われる。




「はぁ、はぁ、雄大〜。目標は?」


 トラックをマサヒロと並走しながら話していた。


「完走、ハァハァ」


「ガチ?」


「マイペースでやれば、ムリかな?」


「まあ、25kmだし。自信ないけど」


 一般公募の参加者はガチ勢の猛者揃いなのでフルコースを走る。うちの高校の生徒も一緒に走るが、フルではなく25km完走が目標設定だった。


 体育の授業でチョロっと走ってるだけの生徒たちでは、そこら辺がなんとかギリギリ完走できるラインらしい。


 毎年完走者は男女ともに半分ほど。だけど完走できなくても問題はない。授業での練習への取組姿勢や、大会本番の頑張り具合を考慮して評価されるようだ。


 単位がかかっているので生徒たちはある程度真剣にやる。




 放課後、ななえとブラブラ歩いていた。今日はエポの訓練は休み。マラソン大会が控えてるため寄り道はなし。


「あー、今日のマラソン疲れたねー! 暑かったし、日焼けが心配」


「ちゃんと日焼け止め塗ってるんだろ?」


「あったり前じゃん! 美容に関しては妥協しないんだから」


「さっすが。ななえは、マラソン自信あるの?」


「アタシ、けっこー走るの好きだよ? 毎朝ジョギングしてるし」


「えっ、そうなの? 毎朝?」


「うん、普通だよ? モデルやってる子とかは。体型維持のために欠かさないんだから、トレーニング」


 ななえは得意げに言う。


 ただ可愛いだけじゃない。自分を磨くストイックさがなければフォロワー20万人のインフルエンサーには成れないのだろう。

 現役雑誌モデルでもある彼女の美容意識は相当なものだ。


「妹さんは、応援にくるの? マラソン大会」


「いや、こないよ。あいつ学校あるし」


 毎年恒例のマラソン大会なので、沿道で一般の見物客が応援をしてくれる。もちろん生徒の保護者が応援にきたりもする。


「ななえの両親は?」


「こないこない。二人共忙しいし。うちは完全放任主義だよ。自由っちゃ自由だから別にいいけどね」


「そっか。とりあえず頑張ろ!」


「うんうん。マラソン大会終わったらさ。パーッと打ち上げしよーよ! またカラオケでさ」


 ななえは嬉しそうに提案してくる。


「いいね。じゃあ、また来週!」




 おれは家に帰る途中、ななえのリンスタを見た。昨日部屋で撮ったショート動画を見てみる。


 窓をバックにして、ななえがニコニコしゃべっている。窓の向こうには東京スターツリーが見えている。


『今日は今からおうちでゲームしまーす! ApoxLegendやるよー! 今度番組もやるのでよろしく〜』


 短い宣伝用の動画だった。リンスタやdiktokで手軽にアップできるショート動画。気軽に撮影してしまうあまり、こういうので家バレ、身バレの危険もある。






──────────────────────


あとがき


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