第20話 みなみの疑い
目の前の如月さんの突然の告白に、おれは頭と心がぐちゃぐちゃになっていた。
「ほんっと、強くてさー。アニメキャラみたいだったよ? 体の大きな中学生相手にひるまず向かっていくんだもん」
ハッキリ言ってあんまり覚えていない。その頃は、何度かケンカすることがあったからだ。おれは早熟で体はクラスでも一番大きい方だったから、中学生相手でも全然ビビらなかった。
親父に格闘技を習わされていたおれは、子供にしてみたら強かった方だろう。
今はなんもやってないから、体はナマっている。まあ、代わりに毎晩重火器を持って戦場に立っているけどな。
「よかったよ。今の如月さんが笑ってくれるなら。あの時助けた甲斐があったっていうか」
「それで? 返事は?」
「えっ、返事?」
とぼけてみた。わかってはいたが、戸惑っていたのだ。
告白されたんだよな、おれ。
あーもう、陰キャだからこういう時わかんねーよ、どうしたらいいか。
「女の子がさ……好きって言ったんだよ? 何か言うことないの?」
「いや、ありがと……マジで、嬉しい。マジで」
如月さんは、おれの顔をジロジロ見てくる。
「それで……、アタシのことどう思ってる?」
おれは深呼吸した。
「そ、それは……」
「あー!! 待ってっ! やっぱ今のナシ! 答えなくていいよ!」
「えっ」
彼女はゴホンッと咳払いをしてから、言い直した。
「えっと、お願いがあるんだけど」
おれは再び深呼吸をすると口を開いた。
「う、うん」
「二人の時だけでいいから、アタシのこと名前で呼んでくれる?」
「え? そんなことなら、いいけど」
「そんなことなんて言わないの!! だったら今呼んでみて」
「いま!?」
彼女はおれが自分の名前を呼ぶのを、じっと待っている。
「な、ななえ?」
緊張しながらなんとか絞り出した名前は、口の中でものすごくぎこちなく響いた。
「ふふ、な〜に、ゆうだい? よろしくね♡」
「え、おれのことも下の名前で呼ぶの!?」
「な〜に言ってんの? あったりまえじゃん? アタシはずっと心の中で言ってきたんだから、ゆーだいゆーだいゆーだいゆーだいって!」
「わ、わかった! なんかハズい!
その日は、おれたちは今までで一番長くいっしょにいた。あれこれ話をしてから、7時過ぎにエントランスまで見送ってもらいマンションを出た。辺りはもうすっかり暗くなっていた。
おれはななえのことばかり考えながら家に帰った。
家に帰ると、妹のみなみが声をかけてくる。
「おかえり、ごはんできてるよ」
「ただいま、ありがとな」
みなみの目に、今のおれはどこか違って映ってるだろうか。
兄ちゃん、告白されたんだ。って言ったらどうなるんだろう。言えるはずがなかった。
ご飯を食べた後、おれはベッドで横になっていた。今日はみなみの配信もない。お互い自由時間を過ごす日だった。
スマホを見ると画面にLIMEの通知がある。ななえからだ。
LIMEの登録名はまだ『如月さん』のままだ。まあ、これは別に変えなくてもいいだろう。
『今日はありがとう。無事帰れた? 妹さんのおいしいご飯は食べた? ゆっくり休んでね。ゆーだい♡』
ただの文字列でしかないはずなのに、LIMEの文面を読み、おれは興奮しすぎて頭がどうにかなりそうだった。
いっきに距離感をつめてきたななえにおれはびっくりした。
ななえの顔が目に浮かぶ。
くっ、かわいい! かわいすぎる。
なんて返信したものか。妹以外の女とまともにLIMEなんてしたことない。
『こちらこそよろしくお願いします。さっきご飯を食べて、今はベッドで寝てるところです。ななえは?』
クセで如月さんと打とうとした文字を、ななえに直してから送った。こんなんでいいのか。なんかそっけないな。何してるか聞いたりなんてしないほうがいいのかな。
ソッコーで返信が届いた。
『なんか、かたくるしくない? 文章が。普段通りの会話みたいな感じで送っていいんだよ? 今はお風呂入って、ヘアケアしてるところでーす。ちなみに裸だよー♡』
うわっ、こんな風にからかってくるなんて!
裸という単語に目がいき、ついつい想像してしまう。
『はやく服を着なさい。風邪ひくぞ』
おれは、送信してから思った。なんだかみなみとのやり取りみたいだ。
「おにーちゃん♡ 何してるの?」
おれは飛び起きた。心臓がなぜかバクバクしている。
みなみがドアを開けて顔をのぞかせていた。
「いや、友達とLIME。どした?」
「別にー。ヒマだからさ」
みなみは、部屋に入ってきておれのベッドに腰掛ける。
おれは慌ててスマホを
「お兄ちゃん、今日も遅かったね。またマサヒロさんといたの?」
「ん、まあそんなとこ」
「そんなとこ? ねね、今度の配信のことなんだけどさ。エポのゲーム配信やりたいなー、お兄ちゃんと。ダメかな?」
「それって、おれだってことは伏せた上でするのか?」
「そうだねー。まあお兄ちゃんじゃなくて、フレンドってことにしてって感じ?」
「んー、やるんなら野良でやったほうがいいかもな。固定フレとやると勘ぐられたり嫉妬の対象にもなったりするんじゃないか?」
「なーるほど、そーゆうところだけは鋭いよね。お兄ちゃん」
「ん、どゆこと?」
「別に〜、じゃあ寝るね」
みなみが立ち上がった時、スマホがブルった。LIMEの通知だろう。
「誰から?」
おれはスマホの画面を見て言った。
「マサヒロ」
「そっか。あ〜あ、お兄ちゃん最近帰り遅いから寂しいな〜」
みなみはそう言いながら、部屋を出ていった。表情は見えなかった。
スマホを見ると、ななえからメッセージが来ていた。
『じゃあ、ゆーだい。また明日学校で。おやすみぃ!(つ∀-)』
ななえとの関係は今後どうなっていくんだろう。告白はされたが付き合っているわけではない。今後どうなるかはおれ次第なのかもしれない。
おれは、『おやすみ』と打ってから横になった。
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