第18話 いつもと違うプレイ
「お兄ちゃん、聞いてる?」
「ああ」
「聞いてない時の返事じゃん!」
「ああ、あ?」
「ご飯食べたらゲームしよーって言ったの」
「おっけおっけ。エポ?」
「うん、ソッコーで洗い物するね。お兄ちゃんお風呂入ってきて」
「ああ」
おれは湯船に浸かりながら、今日のことを思い出していた。
如月さんのマンションのでかさと、部屋の広さには驚かされた。
なぜか両親と別に暮らしてて、マンションを与えられてるなんてすごい環境だ。
彼女は、見た目からおれとは住む世界が違う印象を受けていたが、中身もやっぱり全然違った。
だけど、なぜか今はいっしょに遊んでいる。信じられなかった。
「でも、アニメやマンガ好きなのは意外だったな。ゲームもするしおれやマサヒロと変わらないんだよなー」
見た目だけでも十分好きになってしまう要素満載なのに、その上同じ趣味を楽しむと知ったらもうこれはいかんだろ。
「いかんいかん! おれにはみなみという存在が! なぁんつって」
おれは風呂から出て、脱衣所で体を拭いていた。
だいたいマンガだと、ここでなぜか妹が飛び込んでくるサプライズなんかがあるのだ。
まあないよな。なぜなら脱衣所の扉にはカギがついてるからだ。
おれたちの血が繋がってないことに関係なく、この辺の線引きはしっかりとしておいたほうがいい。
これは両親も、おれもみなみも同じ考えだった。
思春期の男女同士、下着姿でウロウロしたりしないように、お互いに気を使っている。
だから、おれの生活の中でラッキースケベというものは存在しない。
偶然というものは、起こらないのだ。
「おにーちゃん♪ 待ってたんだよ? しよっか?」
ついさっき、如月さんの口からも聞いたようなセリフに、ドキッとした。
部屋に入るなり、みなみが抱きついてくる。
胸、胸、胸。
みなみは首元がけっこうあいているゆるめのTシャツを着ているため、チラッと見えている胸がポヨヨンとあたってくる。
ラッキースケベはないが、このようなストレートなスケベは割りとある。
「ねえ……、しよ?」
「エポな」
「うん!」
おれとみなみは、さっそくエポを起動して、マッチング画面でキャラ選択をする。
「あれ? お兄ちゃんなんでそのキャラ? いつもと違うじゃん」
「あっ、いやたまにはこういうのも使ってみよっかなーって」
如月さんとプレイしていた時のクセで、サポートキャラを選んでしまった。
普段ゴリゴリのアタッカーキャラしか使わないのだから、みなみが疑問に思うのは当然だ。
「ふーん……じゃあ、わたしも使ったことないキャラ使おっと」
「いっけえええ、みなみ!」
「あー、やられた~!」
「惜っしいぃ! 二位か〜」
その日はお互い使い慣れてないキャラだったため、いつもと勝手が違っていた。
だが、それはそれで新鮮でよかった。
リアルでいっしょにプレイしている利点を活かし、しっかりと連携を取りキルを重ねていたが、結果は最高で二位止まりだった。
「そろそろ寝るか」
「うん、おやすみのチューは?」
「おう、はい、チュー」
おれはタコのように口を尖らせて、チューのポーズをした。
本当にするわけじゃなく、ただチューの真似をするだけ。悪ふざけ。
「ふふっ」
みなみは無邪気に喜んで部屋を出ていこうとする。
「あれ、お返しのチューは?」
「へへ、今日はあ〜げない♡」
「なんだそれ、じゃおやすみ」
「うん、おやすみ。お兄ちゃん」
◇◇◇◇◇
──今日のお兄ちゃん、らしくなかったなー。
みなみこと、わたしは今日は寝付きが悪かった。
いつもやってるゲームで、お兄ちゃんがいつものキャラを使わなかった。それだけのことと言えばそうなのだが。
エポをガチにやり込んでいる兄ちゃんにしては、らしくないサポートキャラの選択だった。
先日、お兄ちゃんはわたしにウソをついた。その時に生まれたのはほんの些細な違和感だった。
だけどその違和感は、時間が経てば消えるものかと思っていたがそうでもなかった。
日々、生まれる違和感がコツコツと積み重なって、次第にそれは大きくなっていく。
◇◇◇◇◇
──────────────────────
あとがき
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