第17話 如月さんの部屋で二人きり……
週明けの月曜日。
「わりぃ、マサヒロ。今日早く帰らないとだから先帰るわ」
「えっ、お、おう」
放課後になって、おれは一目散に教室を出た。
おれは如月さんと帰り道のコンビニで待ち合わせて合流した。そして彼女のアパートに案内してもらった。
「でっけーマンション! 如月さんちって金持ち?」
「さー? まあまあじゃない?」
自動ドアをくぐり中へ入ると、入り口はホテルのエントランスのようになっていた。フロントには受付の女性が立っている。
「受付の人いるの? すげえ……ホテルみたい」
「コンシェルジュ、管理人の代わりみたいな感じ」
如月さんはコンシェルジュの女性に軽く目を合わせて通り過ぎる。向こうが軽く会釈してきたので、おれも会釈をして通り過ぎた。
「すげー、セキュリティはバッチリだな。両親と住んでないって言ってなかった? 一人で住んでるの?」
「だよー。アタシ、パパと仲悪くてさ。ママも仕事で忙しいし」
「へぇー」
なんだか気になる言い方だったが、家族との関係をズケズケと聞くほどの仲ではないので聞かないでおいた。
おれたちはエレベーターで最上階にあがり、如月さんの部屋に入った。中の間取りはかなり広くて、うちの一階と二階を合わせた面積より広そうだ。
初めて入る女子の部屋、妹のみなみ以外の。
中はわりとキレイだった。女のひとり暮らしってこんなもんなのか。
「案外キレイだね。こんなに広いと掃除とか大変じゃない?」
「案外は余計よ。なに、アタシってルーズそうに見える?」
「いや、そゆわけじゃないけど……」
「近くにメイクスタッフの人が住んでてさ。その人がたまに掃除手伝ってくれるんだ。へへっ」
彼女はそう言って照れ笑いした。
「メイクスタッフ? そんな人もいるんだ。なんか芸能人みたいだね」
「いやいや、普通よ? アタシなんて芸能人の足元にも及ばないわよ。モデルとしてはまだまだ、若い子にしか知名度ないしさ」
「フォロワー20万人でしょ。十分人気だよ」
「diktokの方も16万人くらいいるよ」
「マジ! すっご」
「美波かなただってすごいじゃん。どんどんフォロワー増えてるでしょ」
「まー、1万人そこそこだよ。大きな収益化もまだ出来てないし」
「上見たらキリないって、ついてるファンを大切にしなきゃ」
いいことを言う。いいな、この言葉。今度みなみに言おうかな。
みなみのことを考えると、おれは途端に居心地が悪くなった。
おれは今、クラスメイトの女子の部屋にいるのだ。二人っきりで。
別に何かを期待してるわけじゃないが、妹以外の女の部屋にいるというだけで、内心はドキドキだった。
「さっそく、しよっか?」
「っっ!! 何を?」
「エポに決まってんじゃん」
だよな。
おれはリビングの奥の20畳くらいの大きな部屋に通された。その部屋にはモニターとPCが三台ずつ置いてあった。
「うわ、これいいやつじゃん。金かけたなあ。経費?」
「半分経費で、半分自腹」
「すご、やっぱお嬢様だな」
「やめてよ。お嬢様なんかじゃないって」
「てかなんで三台?」
「もちろん、四宮くんといっしょにエポするためじゃん?」
「あと一人もいるの?」
「ん、だからメイクさん。近くに住んでるからすぐ来れるし、プライベートでも仲いいんだ」
「へぇ〜、そうなんだ。メイクさんもゲーム出来るの?」
「元々やってるから大丈夫。アタシよりは全然うまいと思う。誘われたこともあるくらいだし、だから前々からやりたかったんだ」
「そゆことか」
「今日はいないから二人でやろ。そっちのPC使って」
「うん」
一番大きなモニターの前に如月さんが座り、右隣におれが座った。
おれはアシスト専門のサポキャラを選択し、如月さんのサポートに徹した。
「ここアーマー落ちてるよ、あ、そこ後ろ気をつけて」
「おっけー」
如月さんとはまだ二回しかいっしょにプレイしてないが上達の早さに驚いた。
週末の間にやり込んだのだろうか。初めて一週間経ってないとは思えないくらいうまくなっていた。
「ヤッター! 初キル!」
「おぉ! やったじゃん! ナイッスゥー♪」
おれも思わず嬉しくなる。
「四宮くんのサポートのおかげね!」
「んなこたーないって。如月さんかなりセンスいいよ」
「ほんとっー! うれしー!」
その後、何回かプレイして三位まではいけたが、一位になることは出来なかった。
如月さんは新規だし、おれも新しくアカウント作ってプレイしてるのでビギナークラスだ。
このゲームは自分と同等のクラスの相手とマッチングするようになってるので、敵もほとんどビギナーなのだが、それでも一位になるのは難しい。
「ふぅー、疲れたね? 今日はここまでにしよっか、ありがとね♪」
「うん、如月さんかなり上達したよ。マジすごいって」
「いやいや、四宮くんのおかげだって。教えるのめっちゃ上手いじゃん」
如月さんはエントランスまで見送りに来てくれた。
「じゃ、またねー」
「うん。あ、ジュースごちそうさまでした」
「いーえ」
おれは、受付コンシェルジュの人になんとなく頭を下げてマンションを出た。他人からしたら、おれと如月さんは彼氏彼女の関係のように見えるのだろうか。
マンションを出たところで、歩道のガードレールに腰掛ける一人の男と目があった。
男は帽子を深く被って、マスクをしており顔はよく見えない。左耳にピアスが光っていた。なんだろう、変な男。
おれは、みなみの待つ家へと急いで帰った。
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