第16話 二回目の嘘


「おかえり、今日も少し遅かったね」


「ああ、ちょっと」


「何してたの?」


「マサヒロと、カラオケ……」


「へー、何歌ってたの?」


「いやー、いろいろ、アニソンとかボカロ中心」


「いいなー、みなみも行きたかったー! マサヒロさんもボカロ詳しいんだ?」


「まあ流行ってるやつはだいたいね。ご飯何?」


 おれは、ナチュラルにウソをついている自分に驚いた。本当のことを言ってしまえばそれでいいんじゃないかと思ったが、それができないでいた。


 クラスの女の子とカラオケにいた。たったそれだけのこと……いや、言えないよな。なんでだろう。



『雄大、お前さ。ウソつくとき、一瞬目をそらすクセがあるんだよ。とっさに別のこと言おうと考えながら喋ってるだろ』



 ふいに、マサヒロに言われた言葉を思い出した。


 そうだ。おれはウソをつくとき目線を外すクセがあるんだ。


 気をつけよう、そう思った。


 どうして──?





 食卓について、飯を食っているとポロン、とスマホが鳴った。


 見るとRinstaglamの通知だった。


『如月ななえさんが30分後にリンスタライブを開始予定です』


(あ。如月さん。そうか、リマインダー通知をオフにしてなかった)


 みなみも画面を覗き込んでくる。


「あれ、お兄ちゃんリンスタやってたの?」


 みなみは当然の疑問を口にした。


「ああ、今日入れたんだよ。クラスで話題になってるし、ついていくためにな」


 目線は逸らさない。意識した。


「なにそれ、っぽくないなあ。お兄ちゃん、学校では陰キャでしょ?」


「っな! お兄ちゃんを見くびるなよ! 陰キャだってリンスタで流行を追ったっていいだろ?」


「ふーん……」


 みなみは、何か言いたげだった。


「見るの?」


「えっ? 何が?」


「出てたじゃん。なんとかさんのリンスタライブが始まりますって」


「あ、ああ、見ないよ別に」


「お兄ちゃんてさ、現実リアルの女の子興味あるの?」


 そう言って、みなみは距離を詰めてくる。


「いきなりなんだ。お兄ちゃんをなんだと思ってる」


「だって、アニメとか2次元大好きじゃん? どうなのかな〜って」


「ちょっと待て。おまえも一応現実リアルの女の子のうちに入ってるんだが」


「えっ? わたしは別枠でしょ? わたしに興味津々なのはわかってるけど、他の女の子ってどうなのかな〜って」


 みなみは意地悪な笑顔を振りまきながら、おれの顔をいろんな角度から覗き込むように見てくる。


「すごい自信だな。おれがそんなにおまえのことを好きだと思ってるのか」


「わたしのこと好きでしょ?」


「……好きだよ。兄妹としてな」



 そう言った時のみなみの反応は、少し意外だった。



 ガッカリするか、ぶーたれてウダウダするかどっちかだと思っていたが、なぜか驚いた顔をしていたのだ。まるでキツネにでもつままれたような。


 そして、みなみは照れ笑いを浮かべながらこう言った。


「わたしも、お兄ちゃん大好きだよ///」


 それを聞いておれは恥ずかしくなり、適切な距離を保つために席を立った。


「ちょ、課題済ませてくるわ」


「ふふ、効いてる効いてる」


 みなみのケラケラ笑う表情を横目に、おれは部屋に向かった。




◇◇◇◇◇



 ──お兄ちゃん、目線泳いでたなー。


 みなみこと、わたしは洗い物をしながら先程のやりとりを思い出していた。



『わたしのこと好きでしょ?』


『……好きだよ。兄妹としてな』



 そう言った時、お兄ちゃんは気まずそうに目を逸らした。


 お兄ちゃんが目を逸らすときは、だいたいウソをついている。お兄ちゃんはたぶん気づいてないけど、わたしはとっくに知っていた。



『……好きだよ。兄妹としてな』



 好きだという気持ちにウソはない。この場合の誤魔化したい部分は、兄妹としてってところだろう。


「わかってるよ、お兄ちゃん。わたしのこと好きなんでしょ。わかってるんだから……」


 わたしは、お兄ちゃんのことを考えながら胸がいっぱいになる。


 でも、じゃあ、どうして──?


 わたしはお兄ちゃんが帰ってきた時のやりとりを思い出していた。



『何してたの?』


『マサヒロと、カラオケ……』



 マサヒロさんとカラオケに行ったっていうのは、ウソだよね……。



 じゃあ、今日は誰とどこで何をしてたの?



 ねえ、お兄ちゃん。



◇◇◇◇◇

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