第15話 如月さんの誘い


 雄大の誘いをフッたおれは、帰り道に如月さんとカラオケにきていた。


 ホームルームの終わり際に如月さんはスマホの画面を見せてきたのだ。


『今日放課後、空いてる? 昨日の続きシタいな♡』


 なんだこれ、悪魔なのかあの女は。あんな刺激の強い文面をコッソリ見せてくるなんて、高校生男子というものを彼女は甘く見ている。


「四宮くん、時間どうする?」


「え、どうだろ、如月さん時間あるの?」


「ん、夜はなんも予定ないよ」


「まあフリーでもいいし、二時間までだったらそのまま入ったほうがいいのかな」


「フリーでもいいよ? 週末だしなんならお泊りでもいいかなーなんて」


 それはカラオケではなく別の場所の料金体系だ。


 如月さんはニタニタと小悪魔チックな笑みを浮かべている。彼女は童貞という生き物をからかうのが好きなようだ。




 部屋に入ったおれたちは、さっそくスマホを取り出しエポを起動する。如月さんもスマホにダウンロードしてきたようだ。


「昨日ちょっとやってみたけどさ、やっぱり難しいね。エポ」


「最初はね。あとスマホより、モニターでコントローラー使ったほうがやりやすいと思う」


「そうだね。一応大きめのモニターは準備する予定。そのほうが四宮くんも見やすいでしょ?」


 ん? んん。何の話だろ。イマイチよくわからなかったが、眉をあげて返事をしておいた。




「キャラはどれ使えばいいの? いろいろいるんだね」


「おれはいつもはサポートキャラ使うんだけど、今回はアタッカー使うから、如月さんがサポート使ってくれるかな」


「おっけ」




 おれは如月さんに、基本的なことを教えながら、二人で一時間ほどプレイを続けた。


「けっこう慣れてきたね。ちょっと休憩しよ」


「うん、楽しいねこれ。まだキルとれてないけど……四宮くんとやってるだけで楽しい!」


 面と向かってそう言った彼女はとても可愛かった。


 いけないいけない。エポに全集中しなければ。いやできないだろこんなん。


「休憩がてらなんか歌う?」


 彼女はマイクをおれに向けてそう言ってきた。


「いや、おれはいいよ」


「じゃ、アタシ歌ってもいい?」


「いいけど、普通にカラオケきたみたいになってね?」


「いーじゃん、別に。せっかくきたんだし、歌わないのも損だよ」




 如月さんは意外なことに、アニソンを全力で歌っていた。


 歌手顔負けの歌唱力で、全力で歌う彼女はとても魅力的だった。


「アニソンとか、詳しいんだ」


「あれ、アタシのリンスタ見てないの? けっこうアニメのコスプレとか載せてるけど」


 コスプレ……、マジか。


「すまん、むしろおれがリンスタとか見るキャラに見える?」


「なにそれ、いいから見てほしい!」


「え、リンスタ?」


「そう、今ここでアプリダウンロードして、あとで見てね!」


 そして強制的にスマホにリンスタを入れさせられ、『如月ななえ』のアカウントをフォローさせられた。


 如月さんがアニメのコスプレをアップしているというのは気になる。彼女がやるとさぞかし可愛いだろう。


「おっけおっけ、じゃあ今日はここまでにしてこっかー」


「うぃ、おつかれ──」


 また、と言おうとしておれは言葉を飲み込んだ。今日は金曜なので土日を挟むが来週以降もやるんだろうか。


「また、来週、だよね?」


 彼女の方から、最高の笑顔でそう言ってきた。おれは素直に嬉しかった。


「う、うん!」


「土日の間に機材の準備するからさ、そしたら、うちでやらない?」


「うち?」


「アタシのうち」


「うう!? ううぅち? いやいや、だって、そんな」


「大丈夫、親は二人ともいないから」


 むしろぜんぜん大丈夫じゃない。


「だって、本気で教えてくれるんでしょ? スマホの画面じゃちっちゃいし、配信なんてできないからさ」


「あ、ああ、そうだよな。わかった」


 なにがわかったかよくわからないまま、胸がバクバクになりながら、彼女の言葉に一喜一憂してるおれがいた。


 その後、おれたちはLIMEを交換してから別れた。


 妹のみなみ以外の女とLIME交換するのは初めてのことだった。


 これは……みなみが見たらビックリするだろうな。




 おれは帰り道、LIMEの新着友だち欄の『如月ななえ』の文字を見てニヤニヤしていた。


 いかんいかん、勘違いするなおれ。


 彼女とはゲームを教える側と教えられる側、それだけの関係。




 果たして、本当にそれだけなのだろうか……。

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