第14話 マサヒロの勘繰り
翌日、授業が始まる直前、隣の席の如月さんが、手を合わせてこう言ってきた。
「あ、やっぱー、教科書忘れちゃった。見せてくれる?」
「別にいいけど」
「さんきゅ」
彼女はそう言って、机とイスをおれのほうに寄せてくる。
ピタッと、体を寄せてくる如月さんからはいい香りがする。妹のみなみとはまた違う香り……はぁ、おれは何を考えてんだ。
おれと如月さんは、窓際の一番後ろの席だ。クラスのほとんどの奴らはおれたちが机を寄せ合っていることには気づいてない。
前の席の茶髪の陽キャ、一ノ瀬ハヤトだけがチラチラと後ろを振り返っていた。
授業中、如月さんはスマホの画面をおれに見せてきた。
なんだろう、と画面を見ると、そこにはこう書いてあった。
『席替えで好きな人と隣の席になる確率の話』というブログのタイトルだった。
「……」
如月さんの顔を見ると、口元が少しニヤけていた。
「わかる?」
おれにしか聞こえない声で彼女はささやく。
わかるわけがない。てか授業中に何を見てんだこの女は。
おれが、首を横にふると、彼女はまたささやいた。
「アタシの場合は……100%……かな」
えっ、どゆこと。
「なぁんて、ね」
いけないいけない。授業に集中しなければ、と思い前を向いた。
しかし、おれの意識はほぼ如月さんの横顔と、彼女の言った言葉の意味に向けられていた。
──キーンコーンカーンコーン。
「おい、雄大。如月ななえとコソコソ何しゃべってたんだよ?」
昼食の時間、食堂で向かいに座るマサヒロが聞いてきた。
「え、数学のことだよ」
「はっ、そんなわけあるか! ウソだろ?」
「いや、数学の話だって、確率のさ……」
それは半分ホントで、半分ウソだった。
「おいおい、数学の授業じゃなかったろ。何の確率だよ! 恋が実る確率か!」
マサヒロの口から似合わない言葉が出た。
オタクの
「雄大、お前さ。ウソつくとき、一瞬目をそらすクセがあるんだよ。とっさに別のこと言おうと考えながら喋ってるだろ」
なに? おれにそんなクセがあったのか。
さすがマサヒロだ。こいつは、侮れない。クセというのはやはり自分では気づかないものなのだ。
──待てよ。みなみもそれを知ってるんだろうか。おれがウソをつくときのクセ、昨日みなみと喋ってた時のおれはどうだったのだろう。
放課後、帰り支度をしているとマサヒロが声をかけてきた。
「雄大、かえろーぜ」
「あ、悪い。今日はちょっと」
「え、なに?」
「いや、また妹とカラオケでさ」
マサヒロがじーっとおれの目を見つめてくる。
なんだ? おれは別におまえに見つめられても何もトキめかないぞ。
「……。今のウソだろ。ほんっとわかりやすいなお前」
「あ、いや」
またウソを見抜かれてしまった。
確かに、目を逸らしてしまっていたかもしれない。無意識というものは恐ろしい。
「なあ、雄大。俺たち友達だよな。信じてるぜ? お前のこと」
「わりぃ、今日は。またいっしょに帰ろうぜ」
おれがそう言うと、マサヒロはちょっと不満げな顔をしながら、しぶしぶ納得した。
どうしたマサヒロ。急にメンヘラな部分を出してくるな。
それは妹のみなみがワガママを言った時に、よくやる仕草だった。マサヒロがやっても全然かわいくはなかったが。
「いいよいいよ。拙者は一人さみしく帰るでそうろう……」
「……じゃあ、また来週な!」
教室を出ようと席を立った時、隣の席の女子たちの話が聞こえてきた。
「あー、早くまた席替えならないかなー。私一番前だよ、最悪ー」
「今回の席替え、買収があったらしいよ?」
「マジ? ずるーい」
買収? 不正か。そんなものが行われているとは。学校の席替えの話とはいえ侮れないな。
席替えのクジを作っているのは委員長だ。マジメで笑っているところを見たことない彼女が買収に応じるタイプには見えない。
まあウワサはウワサ。気にしてもしょうがない。
「そういえば、ななえちゃんは?」
「今日は先帰るってー」
「そっかー。彼氏とデートかなあ」
そんな会話も聞こえてきた。
ふむ、クラスメイトには行き先を言ってないのか。
まあ、おれのような陰キャとカラオケに行くなんて言えないよな。それはなんとなくわかるが……。
おれは学校を出て、
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