第8話 席替えガチャの結果は……
翌日、席替えが行われた。
そして、おれは偶然にも如月ななえと隣の席になった。窓際の一番後ろ。
「よろしく、四宮くん」
隣で、如月ななえがそうつぶやいた。
「あ、ああ。よろしく、如月さん」
彼女の吸い込まれそうなくらいキレイな瞳を見て、おれは緊張して気の利いた返事を返すことはできなかった。会話はそこで途切れた。
彼女はおれと妹が義理の兄妹であることを知っている唯一のクラスメイトだ。
不可抗力とはいえ、親友(だと思っている)のマサヒロにも話していない秘密を話したのだ。嫌でも彼女に注目してしまう。
如月さんと挨拶を交わした後、前の席にいる男子が後ろを振り返って見てきたので、おれと目があった。
こいつは、以前おれをボウリングに誘った茶髪の陽キャだった。おれのことなど興味もなかったやつ。おれもこいつには興味がない。
陽キャはおれを見てから、隣の如月さんに視線を移した。
「如月さん、席近くなったねー! よろしく!」
おれのことは無視かよ。別にいいけど。
「えぇ、よろしく、えっと……」
如月さんは、途中で黙ってしまった。
「あ、オレ、一ノ瀬、
「ああ、一ノ瀬くん。ごめん、まだクラスメイトの名前、覚えられなくて」
「ああ、そうだよね」
『一ノ瀬くん』は、そう言いながらおれの方をチラッと見た。
なんだよ。おれは覚えたぞ。一ノ瀬くん。
「まあ、名字って堅苦しいからさー。オレのことは気軽にハヤトって呼んでよ、ね?」
陽キャ特有のノリ、なのか。彼はとびっきりの笑顔を作って、如月さんにアピールしている。
「わかった。よろしくね。一ノ瀬くん」
「あ、あぁ。うん、よろしく……如月さん」
如月さんへの彼の名前呼び猛アピールは、残念ながら届かなかったようだ。
ざんねんだったな、一ノ瀬くん。
彼は、おれのほうをチラッと見てから、席を立って他の男子たちのところに行った。
すると、突然如月さんがおれに声をかけてきた。
「四宮くん、まさか隣になるなんてビックリだね!」
不意打ちすぎる。如月さんが、おれの顔を覗き込むようにして声をかけてくる。
かわいいな。正直そう思った。この距離でこんな可憐な女の子に話しかけられて、平静を保つのはムリじゃないか。
「そ、そうだね。あー、昨日はありがと、学生証」
「あっ、妹さんに渡してくれた?」
「うん」
「なんて言ってた?」
「えっ、いや特に何も」
「……。ん、アタシが拾ったって言わなかったの?」
洞察力がすごい。女のカンってやつなのか?
「えっ、いやー、別に言わなくていいかなーって」
「ふーん、やっぱりなー」
「やっぱりて何?」
「いやー、別にー? フフ」
そう言って、如月さんは意地悪な笑みを浮かべた。
午後からの体育は、マラソンだった。もうすぐあるマラソン大会に向けて体力作りに励むように体育教師指導の元、みんなグランドを走った。
4月中旬だというのに、よく晴れておりかなり暑かった。
体育が終わってから着替えて教室に戻り、ホームルームが行われた。
「あっち〜」
如月さんが、マラソンの練習で火照った体を下敷きであおいで冷やしている。
「マジ、暑かったよね〜」
「あ、うん」
見たくなくても目が勝手に隣の女子の仕草を追ってしまう。
如月さんは、胸元のシャツを手でグイッと開けて、下敷きをウチワ代わりにして風を送り込んでいた。
妹のみなみよりデカい胸に、高校一年生男子のおれの目は釘付けだった。
おいおい、この席替え、神イベじゃねえか。
しかも一番うしろの窓際って……これもうSSR席だぞ。
窓側に如月さんが座る形になっているので、実質彼女の姿はおれにしか見えていなかった。
おれは、ホームルームの教師の話なんてそっちのけで、如月さんのマシュマロのようなふわっふわの胸をチラチラと見ていた。
「ねえ、さっきから何見てるの?」
彼女が急におれのほうを向いて、小声でささやいてくる
ギクッ!
「いや、その、マシュマロ、マシュマロのような白い入道雲を見てたんだよ」
おれは、窓をゆびさしながら小声でとっさに言い訳をした。
そしてホームルームが終わって、如月さんは席を立って言った。
「じゃ、また明日ね。四宮くん」
「あ、ああ。さよなら」
「嬉しいな。これからやっと話せる……」
彼女は確かに、小声でそうつぶやいた。
そして、さっさと教室から出ていった。
それは、一ノ瀬くんとってこと……じゃないよな?
えっ? もしかしておれと──。
「雄大! 行くでござるよ!」
その時、抜刀術を行いながら、マサヒロが声をかけてきた。
討ち入りにでも行くつもりか?
「今日から、アニメイトポイント2倍キャンペーンだ。いつ行くの?」
「今でしょ」
「うっし! そうこなくっちゃ!」
こうして、帰りにアニメイトに寄ったおれたちは、それぞれラノベとグッズを買って帰った。
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